食品汚染・残留農薬にもどる
t00702#ワインの残留農薬にみる食品行政の問題点:メチルイソチオシアネート#92-05
 去る4月16日から17日かけてのテレビや新聞の報道で(新聞記事参照)、すでにご存知と思いますが、イタリア産ワインにメチルイソチオシアネートという殺菌剤が混入されていることが判明したため、厚生省はイタリア産輸入ワインの販売中止を指示しました。ワイン製造業者が、発酵菌の活動を抑さえるため、添加が許可されていないメチルイソチオシアネート剤を使用していたもので、アメリカのFDA(食品医薬品局)の分析では、30から1350ppbの薬剤が検出されたということです。その後、東京都衛生研究所が都内で販売されていたワインに570と750ppbの薬剤を見出だしています。
 日本では、メチルイソチオシアネートは殺虫と殺菌を兼ねる劇物指定の殺虫剤として農薬登録されており、輸入原体を用いた(89年度輸入量277トン)「トラペックサイド」という商品などが塩野義製薬から販売されています。その農薬登録保留基準は果実50ppb、野菜と茶100ppb、芋類500ppbとなっています。
 今回、厚生省はメチルイソチオシアネートを食品添加物であるとみなし、我が国で認可されていない物質が添加されているとしてワインの販売を禁止する措置をとったわけですが、もし、同剤がブドウの栽培に農薬として使用され、ワインに残留していたとすれば、販売中止措置はとられなかったはずです。
 1990年に、ちょうどこれと似たケースがありました。やはり、アメリカFDAの残留農薬検査で、フランスやイタリア、スペインなどからアメリカへ輸出されたワインに、殺菌剤であるプロシミドンが検出されたのです。同剤は日本の住友化学が開発・製造している薬剤で(商品名「スミレックス」、89年度の原体生産量525トン、原体輸出量411トン)、ヨーロッパ諸国では、殺菌剤としてブドウに使用されていましたが、アメリカでは、農薬登録されておらず、毒性データも不明のため、国内法に基づき、90年1月以前に製造されたワインの輸入を禁止、それ以後に製造されたものについても、プロシミドンが検出されてはならないとしました。欧米間の貿易摩擦が背景にあったといわれていますが、その後、91年初め、ワインでの残留基準を7000ppbに定め、事実上輸入禁止措置は解かれたようです。
 プロシミドンの場合、日本の厚生省は、ヨーロッパからの輸入ワインについて、なんの措置もとりませんでした。それは、プロシミドンの由来が純然たる残留農薬であり、食品添加物とはみなさなかったからです。残留農薬について、基準のないものは、いくら残留していてもよいとするのが厚生省の基本的考え方です。この点がアメリカの場合と大きく異なるわけです。
 ちなみに、プロシミドンの農薬登録保留基準は、果実3000ppb、野菜と豆類2000ppb、芋類200ppbとなっており、東京都衛生研究所の残留調査では、アオジソ28000、ミツバ16000、イチゴ760、ピーマン140、ミニトマト100、キュウリ30各ppbのプロシミドンが見出だされています。保留基準をはるかに越える農作物が市場にでまわり、消費者の口に入っているのに、ワインなどの汚染はものの数でないと厚生省は思ったのかもしれません。そして、勘繰れば、我が国有数の農薬メーカーである住友化学に遠慮があったかな・・・・・。
 ともかくも、このワイン問題は以下のように日本の厚生省が如何におざなりなことをやっているかの悪しき査証となります。
(1)分析体制の不備
 外国からの輸入品中の残留農薬検査を厚生省が独自にやったものでなく、アメリカでの情報ではじめて、残留が判明している点が問題です。少なくとも、イタリアで不正な添加が行なわれていたとの事実が明かになった時点で、独自に製品を分析できたはずです。
(2)一貫性を欠く食品衛生法の運用
 同じ食品衛生法上での問題でありながら、食品添加物の場合は、認可を受けていない物質が添加されておれば、法的に販売禁止措置をとるが、農薬の場合は、残留基準のないものは、規制しないとするのは法の運用面で一貫性を欠いています。アメリカでの場合と同様に残留農薬も食品添加物と同等に扱うべきです。
 残留基準のないものは、残留してはならないとみなすことと農薬残留基準の国際平準化をやめさせることの実現は、ひとえに今後の消費者運動の力量にかかっています。

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作成:1998-04-01