食品汚染・残留農薬にもどる
t01106#水道水質に関する基準の農薬の問題点#93-01
92年12月1日、厚生省生活衛生局水道整備課は、「水道水質に関する基準のあり方」についての生活環境審議会の答申を発表した。厚生省は3年前から水道水の水質基準の見直しを進めており、今回は微量化学物質を重点的に決めるとのことだった。前号で、農薬の基準は甘くなるのではないかと懸念されていることを報告したが、発表された基準は少なくとも農薬に関してはまさに恐れていたとおりであった。
 今回の基準は大きく3つに分かれている。まず、基準項目。これは従来の水道法で決まっていた基準を拡充強化したものとされ、水道水源で検出される可能性のある物質を広く網羅し、基準値を決めたと説明されている。従来の26項目から46項目に増えている。そのうち農薬はチウラム、シマジン、チオベンカルブ(ベンチオカーブ)、D−Dの4種類に基準値が設定されている。
 次に快適水質項目というのがあり、これは水道事業体においてその目標値の活用が望まれるものとされ、13項目が決められている。ここには農薬の基準はない。
 そして、将来的に水道水質の安全性を期するため全国的に監視できるような指針値として監視項目26項目が設定されている。このうち農薬が11種類である。基準項目は月に1回程度検査されるが、監視項目となると年に1回の検査がいいところだという。
 つまり、実質的に検査されるものは、農薬は基準項目で設定された4種類だけとなる。あとはすべて参考値でしかない。これでは農薬の基準はないといってもいいくらいだ。私たちは農薬に関しては総量規制が必要であると主張してきたが、それはまったく無視されてしまった。
 以下、農薬に関する基準の問題点をあげる。
1、現在、日本で登録されている農薬の有効成分は約450種類。使用後、様々な形で様々な場所に存在する。これらが最終的に水を汚染することは十分考えられる。すべてに基準を決めるのは不可能で、総量規制が絶対に必要である。にもかかわらず、今回の改定には総量規制の考え方そのものがない。
 ECでは単一農薬について100ppt、農薬総量で500pptの基準があるが、これをどう評価したのか。全く無視しているのではないかと思う。
 トリハロメタンについては、個々の物質の基準のほかに、総量規制値がある。農薬の場合も類似物質群をひとまとめにした総量規制を実施することは考えないか(例えば、有機リン系殺虫剤、ジフェニールエーテル系除草剤などの分け方)。
2、どのような根拠でこの15農薬が決められたのか不明。
 厚生省は使用量が多いものとか、今までに水道水から検出された例があるもので選んだというが、具体的な資料は出してこない。今まで水道水から検出されたことのある農薬は、私たちにわかっているものだけで以下の通りである。*印がついているものは、今回の基準には入っていない。
 *クロメトキシニル、*シメトリン、ダイアジノン、*ベンタゾン(バサグラン)、ベンチオカーブ、BPMC、シマジン、CNP、フェニトロチオン、*フサライド、*オキサジアゾン、*ブタクロール、*BHC、*クロルデン
3、従来からゴルフ場農薬関係の水質目標値の決まっているのが30農薬ある。この30農薬のうち、今回、基準値が設定されたものが8農薬で、フェニトロチオン(スミチオン)以外は水質目標値と同じである。フェニトロチオンは水質目標値の3分の1以下に設定されている。
 農産物の残留基準が非常に緩く設定されているので、フェニトロチオンの場合、農産物だけでADI(一日摂取許容量)の96%を占めている。残りの4%以内に農産物以外から摂取するフェニトロチオンを抑えなければいけないため、ゴルフ場の水質目標値の3分の1に下げたと厚生省は説明しているが、この基準だと農産物と水だけでADIの98%になる。大気中のフェニトロチオンは無視されている。
4、浄水場で塩素処理されることで、農薬が酸化したり、塩素化して、別の形になることはよく知られている(フェニトロチオンはスミオキソンに変化し、毒性はさらに強くなる)。これらの塩素処理によって変化した物質は規制の対象になっていない。
5、厚生省が把握している水道原水、浄水、蛇口水、井戸水等の農薬汚染の実態をすべて明かにすべきである。また、今回基準や指針が決定された農薬の使用実態、水系汚染の実態を明かにしなければ、何故、これらの農薬だけが規制されるのか納得させることはできない。
6、水田用農薬や空中散布農薬、土壌くん蒸剤による水系汚染が特に深刻であるにもかかわらず、どう対応していくかがない。また、農薬の水系汚染は飲料水だけでなく、生物濃縮による魚介類への汚染にもつながるがも今回の基準では触れられていない。
農薬基準
基準項目(健康に関する項目)
チウラム     0.006mg/l以下
シマジン     0.003mg/l以下
チオベンカルブ    0.02mg/l以下
D−D      0.002mg/l 以下
監視項目
イソキサチオン  0.008mg/l以下
ダイアジノン   0.005mg/l以下
フェニトロチオン 0.003mg/l以下
イソプロチオラン 0.04mg/l以下
クロロタロニル  0.04mg/l以下
プロピザミド   0.008mg/l以下
ジクロルボス   0.01mg/l以下
フェノブカルブ  0.02mg/l以下
クロルニトロフェン0.005mg/l以下
イブロベンホス  0.008mg/l以下
EPN      0.006mg/l以下

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作成:1998-04-01