農薬の毒性・健康被害にもどる
t01201#MOもういやだ 農薬除草剤CNPにとどめを!#93-04
(1)米どころに多発する胆道がん
 93年1月、宇都宮市で開かれた日本疫学会総会で、新潟大学山本教授らのグループは新潟県地方に多発している胆道がんの原因が、除草剤CNP(商品名MO)の使用によるためではないかとする研究発表を行ないました。
 日本における胆道がんの死亡数は年間約一万人であり、国別標準化死亡比でみると男性では、チリについで第二位、女性では、第五位と世界的にも高位にあります。
 国内での胆道がん標準化死亡比は、男女とも新潟県をトップに山形県、秋田県、青森県などの米どころに高く、さらに新潟県内では、下越に高く、上越では低いという地域特異性を示していました(表1)。
表1 胆道がんの標準化死亡比* <出典:AERA 1993.3.2号 P-6)

   全国平均 新潟県   下 越 地 区                上越 地区
           新潟市 新発田市 新津市 長岡市 上越市 十日町
男  100   136.2   190.1   161.0    126.5    124.7   100.0   104.1
女  100     148.4   153.7   182.0    178.8    194.8    87.9    85.1
 *:1981から90年の死亡合計をもとに算出し、全国平均を100とした値
 山本らは、遺伝的素因、胆石・胆道炎の既往症、粗食習慣等を有するハイリスクグループに、環境要因が作用して胆道がんの多発をみるとの複合要因説をたて、この環境要因が何であるかを25項目にわたって調べました。その結果、浮かび上がってきたのが、水田除草剤として多用されれるジフェニルエーテル系の農薬CNPだったのです。
 図1−略−にCNP粒剤の県別出荷量の78〜91年の合計比率を示しました。新潟県は第一位で9.94%を占めています。また、宮城、岩手、山形、秋田、福島を加えた上位六県で全出荷量の47.6%が使われています。
 水田地帯を流れる阿賀野川、信濃川などを水道水の水源とする下越地区に対し、上越地区はダムや地下水を水源としており、水道水の農薬汚染は少なく、現に上越市が検出限界以下であるに対し、新潟市の水道水にCNPが最高554ppt検出(92年5月)されていること、そして、なによりもCNPと同類のジフェニルエーテル系農薬やその分解物であるアミノ体やニトロソ体が、表2−略−のような特殊毒性を示すという知見が、CNPと胆道がんとの因果関係を推定させる強い根拠となっています。
 CNPを開発した三井東圧や農水省は、発癌性、催奇形性、変異原性はいづれも認められないとしていますが、彼らのいうことは、一方的で、農薬登録に際して提出した毒性・残留性データは企業の財産だとして公開しないのですから、信じるわけにはいきません。次節には、催奇形性ありとする研究論文の要旨をあげておきます。
 今後、動物実験などで、CNP及び分解物であるCNPアミノ体、不純物のダイオキシン類と胆道がんとの直接の因果関係を確認することが必要ですが、いまの段階では、極めてクロに近いといわざるを得ません。
(2)CNPの催奇形性及び胎仔毒性−略−
(3)CNP追放運動の再構築を
 CNPは、三井東圧が開発した除草剤で、同社の大牟田工業所で製造されるため、頭文字のアルファベットをとってMOという商品名で知られています。
 複数の製剤メーカーから乳剤や粒剤が販売されており、複合剤も何種類かありますが、最も生産量の多いのは水田除草剤用の粒剤です。その出荷量の推移を図2−略−に示しておきます。最盛期には5万トン以上が使用されましたが、ここ数年は年産8千トン前後です。生産のピークが落ち込んだのは、CNP関連年表(表5)に見られるように、全国的に起こったMO追放運動の成果といえましょう。84年の変更登録は、CNPの水系汚染を減らすために、田植え前後の使用に制限を加えたものですが、その後もあいかわらす各地の河川水や水道水などにCNPが検出されています。
 CNPの環境汚染ほかの問題点については、農薬毒性の事典(三省堂刊行)の144〜149頁に詳しく述べられていますので、ここでは、要点のみを箇条書きしておきます。
@高濃度のCNPを経口投与した慢性動物実験では、肝細胞や腎細胞に変性や肥大がみ られる。
ACNP中には1,3,6,8−四塩化物を主とするダイオキシン類が0.2%含有されており、それらの毒性は不明な点が多い。2,3,7,8-四塩化ダイオキシンの検出報告はない。
BCNPは環境中で、還元されてアミノ体となり、長期にわたり水田土壌や湖沼の底質中に残留する。塩素がひとつ取れたNIP(動物実験で発癌性が確認され登録失効)に変化することもある。
C三西化学農薬公害裁判では、PCPやCNPを製剤化していた同工場周辺で、がんが増加しているとの原告側の書証がだされている。
DCNPは水田への散布直後から数ヵ月にわたり水系を汚染する。この間、水道水や井戸水には、数pptから数100pptのCNPが検出される。
E魚介類中では、CNPは水中濃度の1000〜2000倍に生物濃縮される。汚染レベルは夏期に高く数ppbから数ppmに達し、シジミで23.6ppm検出された例もある。また、筋肉部より内臓部への蓄積性が高い。魚介類では、CNPそのものだけでなく、アミノ体やその他の代謝物も検出されている。
F東京都衛生研究所はミツバやリンゴ、イチゴにCNPを検出している。大阪府公衆衛生研究所は緑黄色野菜群にCNPを検出しているが、名古屋市衛生研究所の報告では、玄米中にCNP及びそのアミノ体は検出されていない(検出限界:5ppb)。
G横浜国立大学の報告では、大気中に150ng/立方米のCNPが検出されている。
HCNPに含まれる1,3,6,8-四塩化ダイオキシンは、魚介類や水田土壌中に検出されている。
 昨年末から今年の初めにかけて、厚生省と環境庁の諮問機関が相次いで、水質基準に関する答申をだし、いづれもCNPを監視項目として、5000pptという数値を設定し、CNPのADIも0.00204mg/kg体重/日と公表されていますが、その根拠は明かされていません。ヨーロッパでの、水道水中の一農薬の水質基準値が100pptであることを思えば、監視項目値の高さに驚きを禁じ得ません。また、魚介類については、なんの規制基準もないことが問題です。
 CNP追放のため、行政やメーカーに対して、以下のことを求めていく必要があります。もちろん、調査結果をすべて、公表することが大前提ですし、結果が判明するまでは、都道府県の防除暦からCNPを削除し、その使用を禁止する運動を各地で展開しましょう。また、CNPと同系のクロメトキシニルやビフェノックスもターゲットにしていくことを忘れてはなりません。
@水道水水質監視項目値とADI設定の根拠となった毒性データを明かにさせる
A毒性・残留性試験データの公開し、データの見直しをおこなう
BCNPとその関連物質の毒性及び環境汚染に関する文献調査を行なう
C河川水、水道水、井戸水等の水系汚染、および魚介類汚染、食品汚染の実態を調査する
D農薬(原体・製剤)工場労働者及び周辺住民の遡及的死亡原因調査と胆道系健康診断を行なう
E胆道がんとの因果関係を確認するため新たな実験を行なう
F水道水中でのCNPの水質基準を強化し、魚介類での残留基準を設定する
表5  CNP関連年表 −略−
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作成:1998-04-01