環境汚染にもどる
t01504#農薬くん蒸剤臭化メチル禁止の動き#93-07
 この6月からニュージーランド産のリンゴの輸入が解禁され、その条件として、臭化メチルによる検疫くん蒸の実施が義務付けられました。臭化メチルは、急性毒性が強い薬剤ですから、くん蒸処理する際の人体中毒が問題となった上、大気汚染や地下水などの水系汚染をひき起してきました。また、直接くん蒸処理された農作物に臭素化合物や他の反応物が残留することは、いうにおよばず、くん蒸処理したハウスで栽培された農作物には高濃度の臭素が残留することも知られています。これだけでも、早急に使用を禁止すべき農薬なのに、新たな分野でのくん蒸剤としての使用拡大は、問題多いと言わざるを得ません。
 本稿では、オゾン層破壊物質としての臭化メチル使用規制の動きを追ってみました。
 92年11月にコペンハーゲンで開催されたモントリオール議定書締約国会議で、オゾン層破壊物質である臭化メチルの使用規制問題が討議されました。この会議では、途上国や原料臭素の産出国であるイスラエルが臭化メチルの廃止に反対したため、当面、95年以降は、91年レベルに生産・消費量を凍結し、以後の規制についは95年にあらためて決めることで合意されました。この決定の基となった国連環境計画(UNEP)の報告書(92年6月公表)の概要(出典:「植物防疫」47巻193頁から主要な点を以下に示しておきます。 (1)臭化メチルが大気圏に放出され、オゾン層に達すると、これが分解して臭素を発生し、オゾンと反応して酸素に変えてしまうため、オゾン層が破壊される(オゾン破壊係数はフロン11を1.0とした場合0.7である)。
(2)臭化メチルの発生源は人為的なものと海草やプランクトン又は火山など天然に由来するものとがあり、化学合成品の年間使用量は6万2900トン(90年)となっている。
用途別では、土壌くん蒸剤:51,300トン、検疫くん蒸剤:8,400トン、建造物くん蒸剤:3,200トンである。
(3)大気への放出率は、土壌くん蒸では45〜53%、検疫・建造物くん蒸では約80%とされ、人為的な臭化メチルの放出量は総放出量の25±10%に相当すると計算される。
モントリオール議定書締約国会議での規制の動きとは別に、欧米各国は、独自に規制を早めようとしています。
 アメリカでは、EPA(環境保護局)が、ブッシュ政権最後の環境対策として94年以降臭化メチルの生産・消費は91年レベルに凍結し、2000年をめどに全廃するとの提案をしましたが、臭化メチルメーカーらはこれに反対しています。ヨーロッパでは、ECが95〜9年までに、30〜40%の削減をめざすとしています。
 日本の状況はどうかみてみましょう。土壌くん蒸剤や検疫くん蒸剤としての生産量及び貿易量の年次別推移は図−略−のようになっています。91年度の生産量は8,046トン、原体輸入338トン、製剤輸出254トンで、メーカー別生産量は帝人化成2,188トン、三光化学2,093トン、日本化薬1,229トン、日宝化学1,233トン、洞海化学1,133トン、市川合成168トンで、この内検疫用が約3,000トンです。国内での汚染状況はあまり知られておらず、80年に実施された環境庁の大気調査では、27検体中5つに臭化メチルが0.015〜0.031ppb検出されましたが、その由来ははっきりしていません。メチルブロマイド工業会は、大気放出の現状調査、臭化メチルの揮散率の実態、条件変更による放出抑制の方法などを研究、オゾン破壊物質としての妥当性の検討を行ない 、94年半ばまでに、方針を決めるといっています。
 環境庁は92年度の緊急調査研究のテーマとして臭化メチルによるオゾン層破壊を取上げました。オゾン破壊能力などの調査を実施するとともに、つくばにある国立環境研究所で臭化メチルの紫外線照射実験等を行ない、94年に結果をまとめる予定です。
 農水省は93年度から臭化メチルの使用量を削減する技術開発、他のくん蒸剤の活用高濃度の二酸化炭素や低温での保存に取組、農産物への臭素残留量の軽減、くん蒸施設からの漏洩防止策もさぐるなどの施策を明かにしています。
 また、日米欧の臭化メチル業界は、アメリカで評価試験方法の研究を始めています。 日本でも、調査・研究の結論がでてからなどといっていないで、早急に臭化メチルの全面使用禁止に踏み切る必要があります。

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作成:1998-04-01