食品汚染・残留農薬にもどる
t01610#水道水中の農薬ベンチオカーブ分解物−塩素処理で生成#93-08
 ベンチオカーブは、クミアイ化学が開発した水田用除草剤で、原体の年産は3584トン(91年)、シメトリンやCNP、ベンスルフロンメチルほかとの複合剤が11,685トン出荷されています。 さらに、この除草剤は水田に散布した量の少なくとも2%が河川へ流出すると推定されており、実際にppbのオーダーで河川水に検出されています。
 そのためか、水道法にもとづく水質基準及び公害対策基本法にもとづく環境基準ではともに20ppbという基準値が設定されています。ところで、水道原水中にベンチオカーブが検出されるにもかかわらず、水道水には検出されないことが知られており、これは、浄水過程での塩素処理によるものと考えられてきました。このほど、東京都衛生研究所の研究者らにより、ベンチオカーブの塩素処理による分解反応に関する論文が公表され、処理によって新たに生成した分解物が水道水中に残留していることが明かになりました(出典:水環境学会誌16巻 190〜201ページ)。
まず、図1−略−に示したように、水中のベンチオカーブは塩素処理により急速に減少し、p−クロロベンジルアルコールやp−クロロベンズアルデヒドほかのクロロフェニル基を含む分解物が生ずることが実験により確認されました。これらはベンチオカーブの数%から約20%であると推定され、その他は脂肪族脂肪酸や二酸化炭素、水、分子状硫黄となると考えられています。
図2−略−には水道水中のp−クロロベンジルアルコールとp−クロロベンズアルデヒドの年間濃度変化を示しました。いづれも、7月上旬に濃度が30ppt程度のピークとなりますが、後者は秋口にもひとつピークがみられます。研究者は、この時期の水道水原水中のベンチオカーブ濃度が約1ppb、有効塩素が数ppm程度であることから、これら濃度のうちの三分の一がベンチオカーブに由来するものであろうと推定しています。ほかにクロロベンジルクロリドが最高3ppt検出されました。
 リン−硫黄結合を有する有機リン系農薬の多くが、塩素処理により酸化され、リン−酸素結合を有する化合物に変化することは知られていますが、ベンチオカーブの場合も塩素処理により様々な分解物が生じ、それらが水道水中に検出されたわけです。また、ベンチオカーブに補助成分として添加されている4−ブロモフェニルクロロメチルスルホンも水道水中に検出されていることも忘れてはなりません。
 これらの分解生成物や補助成分の毒性は明かになっていませんが、水道水中の農薬そのものの規制基準を決めて、分析しているだけでは、安心できず、塩素処理によって生成する様々な物質を問題にしていく必要があると思われます。
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作成:1998-04-01