農薬の毒性・健康被害にもどる
t02302#農薬除草剤CNPが製造・販売自粛に#94-03
 去る3月7日、農水省は除草剤CNPを原則として使用しないことという通達を農蚕園芸局長名でだしました(資料3)。これは、同日厚生省の残留農薬毒性評価委員会が新潟大学山本グールプが行なった疫学調査でのCNPと胆嚢ガン発生の相関関係を認めた上、CNPの一日摂取許容量を設定出来ぬとの結論をだしたため(資料2)、メーカーの三井東圧がCNPの製造・販売を自粛する旨表明したからです(資料3)。
 思えば、CNP(商品名MO)追放の運動がはじまって20年以上を経て、やっと市場からCNPが姿を消す方向に動きだしたわけです。
★CNP(MO)追放運動の経過
 CNP追放の端緒は、福岡県久留米市にあった農薬製剤工場三西化学(三井東圧の子会社)周辺の公害反対運動でした。同工場では、60年水田除草剤PCPの生産を開始するとともに、工場周辺の環境汚染し、住民に健康被害を与えはじめました。
 65年のCNP登録により、主力製品はPCPからMOにかわりましたが、農薬の垂れ流しはつづきました。会社や行政との交渉もすすまず、官制の環境調査や住民検診では因果関係が否定されました。
 このため、72年には東大高橋晄正氏らのグループによる自主検診が実施され、その結果、井戸水使用者に健康異常が多いことが明かになりました。井戸水からはPCP、BHC、CNPらが検出され、農薬との関連が濃厚になりました。
 被害を受けた住民のうち2家族が会社を相手に工場の操業停止と損害賠償の民事訴訟をおこしたのは73年12月のことでした。その後、九州大学の学生や医師グループのほか、三井東圧労組青婦部をはじめとする化学会社の労働者や東大自主講座などが加わり、農薬公害裁判支援の会が結成され、運動は裁判関係の資料づくりという形で深化してゆきました。
 76年には、残留性が少ないと宣伝されていたCNPがアミノ体として土壌中に長く残留することが農業技術研究所の研究により明かになりました。多量使用の結果、79年には東京都の水道水にもCNPが検出されたとの報告がなされました。
 81年に東京都衛生研究所の山岸論文により、CNPが川魚を汚染していること、またCNP中に不純物として1,3,6,8-四塩化ダイオキシンが0.2%含有されていることが明かになり、82年5月このことが毎日新聞によりスクープされたのを契機に消費者・農民を巻き込んだCNP追放運動が全国的にひろまっていきました。
 地方の衛生研究所を中心に河川水や魚介類などのCNP汚染の状況がつぎつぎと報告されるようになっただけでなく、日本消費者連盟をはじめ、市民運動体もくわわり、みずからの手で環境試料を採取し、分析することも行なわれました。
 農水省、厚生省、環境庁との交渉、国会質問、地域レベルでのCNP使用禁止の訴え、メーカーである三井東圧への抗議等が展開されました。この結果、83年7月に三西化学はついに操業を中止することになりました。
 また、同年10月の市民団体が行なった行政交渉の席で、環境庁がCNPのADI値を公表しました。これは、いままでにないことでしたが、その数値のもととなった毒性データについては、企業の財産であると公言してはばからない農水省とメーカーの壁をくずして、公開させることはできませんでした。
 82年から83年にかけての運動は、CNP追放運動の第一波で、CNP剤の生産量は減少し、地域や農協単位で使用をやめるところがではじめたのは、その成果と言えましょう。
 ついでながら、反農薬東京グループはこの運動の過程で結成されたものです。
 84年、三西化学と同系列の三中化学(愛知県新城市)周辺の水系で、市民グループによる調査の結果、CNPが高濃度で検出され、同工場が排水をたれ流していることが明らかになりました。市民グループは県知事に行政指導を求め、同工場は排水設備の改善を行いました。
 80年代後半は、反農薬運動はさまざまな展開をみせていたものの、CNP追放運動は沈滞気味であったことは、いなめません。
 91年9月には、三西化学農薬公害裁判の判決が福岡地裁で下だされ、原告敗訴が言い渡され、農薬と健康被害の因果関係の立証の難しさを改めて知らされました。
★CNP追放第二波運動
 91年12月には胆嚢ガンとCNPの関連を示唆する山本論文が出、ついで93年1月に日本疫学会で、より厳密な疫学調査結果が発表され、そのことが報道されると、市民団体を中心に第二のMO追放運動がおきました。
 農水省、厚生省、環境庁との行政交渉、地方行政への働きかけ、、CNPの禁止を求める国会請願署名運動、また国会議員、地方議員による議会での追及など、さまざまな形の運動が各地でくりひろげられ、今日をみたわけです。
 20年という月日はかかりましたが、CNPが追放できたのは、公害に苦しんだ被害者とその支援グループの活動に始まり、消費者運動体、農民、科学者・専門家、ジャナーリストらが、それぞれの立場で企業や行政を相手に幅広い運動を繰り広げた結果ですが、その際、運動とは無関係だった専門家の研究も問題意識をもった運動体が活用すれば、かたくなな企業や行政の態度を崩させるよき武器となるとの教訓を与えてくれました。
★責任回避の農水省局長通達−略− ★今後の運動に向けて
 今回いろいろな市民団体が行政を相手にCNPの禁止を求めて交渉を行なった結果、残留農薬安全性評価委員会が開かれ、先の結論がでたのですが、問題がすべて解決したわけではありません。行政やメーカーに対する以下のようなフォローが大切です。
 @再評価の対象となった毒性データは公開されていませんし、いろいろな毒性データの評価内容もわかっていませんから、これらを明かにさせる必要があります。
 ACNPの原体や製剤の製造に携わった労働者やCNP剤を散布した農民に胆嚢ガンの発症がないかの調査も取り残されています。
 BCNPの製造・販売が自粛されても、製品の回収は強制力を伴なわない上、使用禁止措置がとられたわけではないので、依然として、CNPが使われ、環境汚染がつづく恐れがあるわけです。末端農家に至るまできちんと回収されるかどうかを見届けなければなりません。
 CメーカーへのCNP剤の返品回収方法やその処理方法も不明です。CNPはダイオキシン類を含むだけでなく、これを焼却処理すれば、新たなダイオキシン類が生じますから、適正な処理がされるよう監視が必要です。また、回収されたCNPがそのまま輸出されることを許してはなりません。
 D厚生省は、CNPの暫定水質管理指針値を従来の監視項目値5ppbから50分の一の0.1ppb以下と設定しましたが、これは現行の分析法により定量できる最小の値をもとにしたからと述べています。pptレベルでの分析が可能であるにもかかわらず、高い値に設定したのは問題ですし、水中濃度の千倍以上も生物濃縮される魚介類についての残留基準の設定も求めていかねばなりません。
 ECNPが発癌性の恐れがある農薬として使用自粛されるなら、動物実験で発癌性が確認されている農薬はまだまだあります。これらも、追放していく必要があります。発癌性だけでなく、免疫毒性、神経毒性についても問題視していかねばなりません。
 Fいままでに述べたことの多くは、現行農薬取締法では、取り締まれない体制になっています。
 毒性・残留性試験データの公開、農民の健康保護、大気汚染を含め農薬の環境汚染防止策の強化、登録失効や禁止農薬の回収の義務づけと輸出禁止などを明記した法律改定をめざす必要があります。
 Gさらに農薬としてだけでなく、同じ化学物質が家庭用殺虫剤、防疫用薬剤、シロアリ駆除剤ほか、いたるところで使用されていることを考えれば、ひとつ農薬取締法だけでなく、縦割行政の枠を取り外した包括的な取締の強化を求めていくことが肝要です。
−以下の資料略−
資料1.「CNPに係る残留農薬安全性評価委員会評価」
資料2.三井東圧の今後の方針
 「CNP剤 製造及び販売自粛について」
資料3 農水省農蚕園芸局長通達<6農蚕第1095号>
「平成6年の水田初期除草剤の使用について」

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作成:1998-04-01