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t02604#東京都の有害化学物質対策検討会の報告を読んで#94-06
 去る5月25日、東京都有害化学物質対策検討会は「東京都における有害化学物質対策の方向」というレポートを都環境保全局長へ提出しました。ここでは、その内容を読んで感じたことをまとめてみました。
 この検討会は93年に、東京都における有害化学物質対策に関する基本的方向を調査検討するために設置されました。メンバーは学識経験者8人(大学教官3、環境庁関係者2、国立環境研究所関係者:2、国立衛生試験所関係者:1)からなっています。
(1)抜けて落ちている屋内化学物質汚染対策  報告では、有害化学物質を『その性状や毒性、使用状況からみて、人の健康や生態系に対して有害性をもつ物質』とみなしていますが、毒性の内容については、明確でありません。発癌性や催奇形性などは含まれると思いますが、免疫系、神経系、内分泌系への影響について、どの程度検討されているかは不明です。
『化学物質は製造等から消費生活まで様々な場面で使われている。主な用途では、溶剤、洗浄剤、工業薬品、塗料、染料、農薬、食品添加物、医薬品などである。また化学物質を使用した製品は日常生活でも使われており、これらの中には有害化学物質を含むものもある。
 有害化学物質は、このように多様な用途で使われているため、各種環境媒体の汚染を通して人の健康や生態系に影響を及ぼしている。なお、農薬や産業廃棄物などは有害化学物質の新たな汚染源として注意する必要がある。
 従って、有害化学物質による環境汚染の防止を図る観点から、都における有害化学物質対策の環境媒体の範囲はなるべく広く捉らえることが、必要であり、大気、河川・海域、地下水、土壌、底質、水生生物などを対象とする。』との認識を示しています。
 ここで、農薬を名指しでとり上げているものの、農業用に限定した狭義の農薬か、私たちが主張しているように農薬と同じ成分を含む家庭用殺虫剤やシロアリ駆除剤等を含むのか明確ではありません。また、汚染される環境媒体を、いわゆる一般環境の意味でしかとらえていないことも問題です。
 そもそも、検討会は、『有害化学物質による環境汚染は、一度発生するとその回復には、長期の時間と多大な費用が必要となる。このため、汚染の未然防止を基本とした諸施策を確立し、総合的に推進することが重要である』とし、有害化学物質による環境汚染等の特徴を以下のように述べています。
−中略−  報告では、水、食品など経口からの有害化学物質の人体への取り込みに重きが置かれ、大気特に室内大気汚染のことが全く抜け落ちているように見受けられます。
 有害化学物質が一般環境だけではなく、屋内に広く見出だされ、水生生物などよりヒトが最もひどい汚染状態にさらされている場合もあることが、報告書の文面からは、うかがい知ることはできません。
(2)身の回りで使われる農薬をもっと有害化学物質の対象に
−中略−  参考までに、要管理物質として報告書に名前が挙がっている農薬及びその関連物質は、以下の35物質です。しかし、室内汚染の視点が抜け落ちているため、シロアリ駆除剤のクロルピリホスやS−421、殺虫剤のMPP、プロポキシル、ペルメトリンらは入っていません。薬事法の対象となる家庭用殺虫剤などは、はなから対象外としている点も納得できません。検討会は、私たち運動体の意見も取り入れ、要管理物質の早急な見直しを行なうべきと考えます。
 2,4,5−トリクロロフェノール、CAT(シマジン)、CNP、D−D、DBCP、DDVP、DEP、EPN、MEP(スミチオン)、TPN、アシュラム、アセフェート、イソキサチオン、イソプロチオラン、イプロベンホス、オキシン銅、キャプタン、クロルデン、ダイアジノン、ダイオキシン、チウラム、トリクロホスメチル、トリフェニル錫、トリブチル錫、パラジクロロベンゼン、フェノブカルブ、フルトラニル、プロチオホス、プロピザミド、ベンチオカーブ、ペンディメタリン、ベンフルラリン、ホルムアルデヒド、メコプロップ、酸化エチレン
(3)有害化学物質対策には情報の公開が不可欠
 私たちはいままでの運動の経験から、どんな化学物質がどの製品に含まれているかを知ることが、汚染防止にとって重要であることを学びました。たとえば、農薬は農耕地で使われ、作物や飲料水に残留するだけでなく、同じ成分が家庭用殺虫剤にも、シロアリ駆除剤にも、合板にも、畳にも使われ室内を汚染しているわけで、このようなことを知らなければ、対策のたてようがないことは、はっきりしています。
 報告書は、事業者に対して情報の提供を求めているものの、私たちがもっとも知りたい、どの製品にどんな化学物質がどの程度含まれているか、また、それら化学物質の毒性試験データの内容はどうか、についての情報を公開させることについては、何等具体的な対策を述べていません。いままで企業秘密として守られてきたこれらの内容が公開されないかぎり、環境保全の真の実現はありえないといっても過言ではありません。
 さらに、農薬関連の有害化学物質に関していえば、それらの使用を推進する国の法律や省庁の行政指導、さまざまな規格があることが汚染の拡大につながっているということです。たとえば、建築基準法は木材防腐剤・シロアリ駆除剤の使用を推奨し、建設省は薬剤の使用にたよらざるを得ない政策をとってきました。
 報告書は、『有害化学物質の種類の増加、日常生活への浸透といった傾向の中で、対策は一地方自治体の守備範囲を超えるものもあり、国の果たす役割が極めて大きい。国の関係機関との情報交換に努めるとともに、関係法令の整備強化や拡充、調査研究の推進、施策の充実を求めていく必要がある。』と述べていますから、国に対しても、環境・生態系の保護、人の健康への影響の配慮を第一義とした諸政策をとるよう積極的に働きかけてほしいものです。

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作成:1998-04-01