環境汚染にもどる
t03503#農薬による環境汚染−化学物質と環境94年版より:環境庁#95-02
環境庁が発行する「化学物質と環境」(俗称クロホン)1994年版を入手しました。ここでは、93年度に調査された29物質(そのうち28が有機リン系物質)の中で、農薬類とTCEPの分析結果をまとめてみました。今回の調査の対象となった農薬は、有機リン系22種とその他1種で、例年になく農薬の比率が高いのが特徴です。
@農薬の水系汚染
 表1−略−に示したように、調査された13農薬のうち検出されたのは、水稲のイモチ病防除に使われる殺菌剤IBP(キタジンP)だけでした。
 試料の採取時期はわずかの例外を除き原則として9月から11月です。また、採取地点についていえば、最も検体数の多いIBPの水質及び底質の場合、56個所で、その内訳は海・港湾・河口42、内陸河川9、湖沼5となっています。このことからもわかるように、環境庁の調査は、通常の農薬散布時期の農業地帯の水系汚染の実態をつかむことを目的としていないため、検出率が低いのは当然の結果といえます。
 IBPが水質中で、最も高い数値で検出されたのは、愛知県の衣浦湾で1.6ppb(8月26日採取)となっています。このほか名古屋港、同港外などでも0.1〜0.2ppb(同日採取)検出されており、何故、伊勢湾あたりの海水の汚染がひどかったのか不思議な気がします。霞ケ浦の水質では0.1ppb(10月27日採取)のオーダーで検出されています。また、魚介類では、高崎市井野川のウグイとニゴイ(10月1日採取)と有明海のボラ(9月26日採取)にIBPが検出されています。
 環境庁は、IBPについて検出頻度が低く、最高でも、水質の要監視指針値8ppbの5分の一の値しか検出されていないため、特に問題を示唆するものでないと結論していますが、93年といえば、冷害でイモチ病が多発し、農薬散布も例年より多くなされたでしょうから、農村地帯を流れる河川やそれを水源とする水道水などの汚染はずっとひどかったと考えられます。
A有機リン系農薬の大気汚染
 全国18個所の大気観測地点で、原則として9〜11月に採取され、表2−略−に示したように、15種の農薬が分析されています。検出されたのはDDVPとMEP(スミチオン)の2種だけで、前者は神奈川県平塚市で10及び13ng/立方メートル(11月採取)、福岡県大牟田市で10及び12ng/立方メートル(10月採取)、後者は千葉県市原市で20及び45ng/立方メートル(1月採取)という数値になっています。都市部でしかも農薬散布時期をはずれた季節での検出ですから、農業用以外の使用によるものと考えられます。
 農業用散布による大気汚染の実態を明かにするには、試料の採取場所や時期を考慮した調査が必要です。
BTCEPの環境汚染
 有機リン系難燃剤のTCEP:リン酸トリス(2−クロロエチル)は、反農薬シリーズ11「住宅が体をむしばむ」やてんとう虫情報でしばしば取り上げた発癌性物質で、塩化ビニル製壁紙に含まれるため、室内大気が汚染されていることを問題視してきました。
 環境庁は、この物質について、75と78年の2度調査をしましたが、78年の検出率が低かったためか、その後の継続的な調査は行ないませんでした。表3にいままでのものも含めた環境調査の結果を示しました。
 93年の検出率は、水質49.3%、底質30.6%、魚介類12%、大気53.8%となっており、70年代に比べて、分析の検出限界値に差違があるものの、TCEPによる環境汚染は進行していると思われます。
 93年の水質調査について、地域別の検出状況を表4に示しました。TCEPは、日本各地の水系で見つかっており、最も高い値で汚染されていたのは愛知県衣浦港の海水で1.2ppbでした。魚介類では関門海峡のカワハギに0.29ppm、洞海湾のマダイに0.2ppm検出されたのが、高い汚染の部類に入りますが、水質汚染度と濃縮率の関係は、いまひとつ明確ではありません。
 大気中の検出濃度は1〜7.4ng/立方メートルで、金沢市、大牟田市、四日市市などで5ng/立方メートル以上の値が検出されましたが、それでも、大阪大学の植村氏の測定した、保谷市公民館の室内大気汚染値98〜2054ng/立方メートルよりもずいぶんと低い値になっています。これは、一般環境よりも室内汚染の方がずっと深刻になる悪しき例で、一般大気の汚染状況だけを調査し、有害物質を規制しようとしてもだめだということを示唆しています。  しかし、環境庁は、「特に水質及び底質で高い検出頻度を示しており、また、ミジンコについては低い濃度で影響がみられることが報告されており、今後、環境中濃度について関心を払っていく必要がある物質のひとつと考えられる。しかし、今回のデータをみるかぎりにおいては、検出濃度レベルからみて、直ちに問題を示唆するものではないと考えられる。今後一定期間をおいて、環境調査を行ない、その推移を監視するとともに、生態系に与える影響を調査研究することが必要と考えられる。」としか結論していません。他の環境生物よりも人が最も高濃度に汚染された大気を日常的に呼吸していることを忘れてもらっては困ります。

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作成:1998-04-01