ダイオキシンにもどる
t03507#直ちに中止すべき阪神大震災家屋廃材の野焼き#95-02
以下の原稿は、朝日新聞論壇に投稿、ボツになったものです。
 ここ数週間、阪神の空は野焼きによるばいじん・ばい煙の影響でかすんでいる。廃材処理には野焼きするのが最も安上がりだ。しかし、野焼きには問題が多い。有害ガスが発生し、大気が汚染され、住民の健康が損なわれるばかりでなく、禍根を将来に残す恐れがある。野焼きは直ちに止めるべきである。
 阪神間は呼吸器系疾患公害患者の多いところだ。震災によって家を無くし、そのうえに、野焼きの有毒ガスで体を痛めなければならないとはなんとむごいことか。
 私たちは阪神間の野焼き現場の何カ所かを調べた。近くの住民がすでに健康被害を訴えていた。運び込まれる廃材は木材だけではなかった。プラスチック(合成樹脂)を含む新建材、被覆電線、家具調度類、畳、布団等が混ざっていた。燃え跡には、電線や鉄骨、クーラーなどの金属類の燃えかすなどもあった。
 ベニヤ板やプリント合板、アクリル繊維、ウレタンフォームなどを燃やせば有毒な致死性の青酸ガスが発生する。塩ビ樹脂製のビニタイルや壁紙、屋内上下水道配管、屋内電気配線などからは呼吸器系に有毒な塩化水素が多量に発生する。青酸ガスや塩化水素だけではない。ホルムアルデヒド、ベンゼン、スチレン、フッ化水素などの有害ガスが合成樹脂の燃焼に伴って何種類も発生する。
 正規の焼却施設では、燃焼条件を整えて有害ガスの発生を抑え、煙は水や薬品で洗浄される。野焼きでは燃焼温度の制御も洗煙も出来ない。有害ガスの出しっ放しだ。
 さらに塩ビ樹脂や、家電製品のコンデンサーに使われていたPCBなどを加熱・燃焼させればダイオキシン類が発生する。シロアリ駆除剤クロルデンで処理された家屋の廃材を焼却してもダイオキシン類が発生することが考えられる。私たちの今回の予備的な調査からダイオキシン類の前駆体であるクロロベンゼンが検出された。
 ダイオキシン類は環境でも体内でも分解しにくく、蓄積性があり、発ガン性や催奇形性の強い毒物だ。地震に伴って発生した火災によっても生じたであろう。それはこれまで有機塩素系化合物を多量に使ってきた結果であり、地震という自然現象によって直接的に起きた結果であり、受容せざるを得ない。しかし、野焼きによって更に禍根を将来に残すようなことは避けなければならない。
 日本人の母乳中のダイオキシン類は増えつつある。研究者は深刻な事態だと受けとめている。ごみ焼却場でのプラスチック焼却がその増加要因の一つである。それに加えて、野焼きという最もダイオキシンの発生しやすい条件で廃材を処理することは是非避けたい。廃材の野焼きによって生じたダイオキシンは大気や水、農作物、魚介類等を通して体内に入ってくるのだ。
 野焼きは「緊急避難措置」だ、との反論があることは承知だ。しかし、それは間違っている。家屋廃材は時間が経っても腐るような物ではない。そのままでどこかに集積して仮に置いても燃焼によって生ずるほどの有害物は発生しない。緊急に燃やさなければならないような危険な物ではない。時間をかけて処理方法・対策を考えることが出来る物だ。それまでの集積・仮置き場の確保を考えればよい。幸い、周辺の府県には沿岸の埋め立て地を含めて広大な空き地がある。とりあえず、そこに分散、集積する。そうすれば廃材運搬のための交通渋滞も緩和される。その後、あるいはそれと並行して、家屋廃材の適正な処理のための援助・協力体制を確立させればよい。
 震災によって生じた倒壊家屋廃材は自治体が処理しなければならない。処理経費もその半額*)が自治体負担だ。そのために、手っ取り早くゴミの嵩を減らそうとして被災自治体内で無理な焼却処理を実施しているのだ。野焼きは安全性より経済性を優先させようとしている復興の進め方を暗示している。
 家屋廃材処理を被災自治体だけに負担させることは経済的にも技術的にも無理だ。廃材の適切な処理のために、廃棄物処理関係業界、周辺自治体、国(厚生省)が全面的な技術的、経済的援助・協力に直ちに取り組み、有害ガスやダイオキシン類による深刻な環境汚染を引き起こす野焼きは直ちに中止することを強く望む。(大阪大学理学部 植村振作)
 *)原稿を書いた時点では50%補助でしたが、今は97.5%の補助です。

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作成:1998-04-01