行政・業界の動き薬にもどる
t03701#改定食品衛生法成立−WTO受け規制緩和すすむ#95-05
 5月18日、衆議院本会議で食品衛生法と栄養改善法案の改定が可決され、成立しました。食品衛生法の改定は、てんとう虫情報や資料集で問題点を指摘してきましたが、法律案は政府原案通りで、消費者側の主張は僅かに附帯決議に入れられたくらいです。
 食品衛生法は23年ぶりの改定で、厚生省は、昨年9月末、食品業界、関係行政、審議会常連メンバー(消費者としては主婦連、日生協のみ)など20人の「食と健康を考える懇談会」(以下、懇談会)を組織し、僅か3ヶ月の審議で報告書を出させています(報告書はてんとう虫情報資料集1に掲載しました)。
 関係行政、業界団体、消費者団体などから44の意見等が出され、資料として配布されました(事業団体は慎重に名前を削ってありますが)。このうち、消費者団体からは6通で、他はすべて関係行政、業界団体(事業者団体)です。事業者団体の意見書を見ると、厚生省食品保健課長名で意見を提出するよう文書を出していたようです。どういう基準で誰に出したのかは明らかではありせん。消費者グループにも同様の扱いをしてほしかったと思います。
 意見書の中には英文で、海外の大手食品輸入業者の意見も反映させるようにというのもありました。(巨大アグリビジネスか? 例と差出人は削除してありますのでわかりません)。また、在日米国商工会議所からは、今回の改定が新たな貿易障壁にならないようにという要望書が出されています。
 農薬工業界は、登録保留基準の策定の際に、既に毒性データは提出しているので、残留基準設定に当たって再提出を制度化することのないようにとか、企業が所有する毒性データは知的生産物なので適切な保護処置を講ずるようにとか、外国のポストハーベスト処理を受け入れるために、高い基準を設定した場合、他の農産物の基準が低く設定され、国内の農薬使用に支障をきたすことのないようなど内容の要望を出しています。
★ポジティブリスト制をめぐって
 食品衛生法の改定案が出された後、何回か、厚生省が説明会を行いました。私たちは、残留農薬基準に関して、基準のないものはすべてゼロとする、いわゆるポジティブリスト制にするよう主張しました。そうしないと、輸入農産物は規制できないからです。しかし、厚生省は、現在103農薬しか残留基準が設定されていない中で、ポジティブリスト制にすると食糧の供給が困難になる(輸入できなくなる)、国際的にポジティブリスト制をとっているのはアメリカだけである、アメリカは300くらいの農薬に基準があり、しかも食糧の自給国なので日本とは違うとの理由で拒否しました。
 日本は世界一の食料輸入国で、カロリーベースで63%(93年度)を輸入に頼っています。海外で使用される農薬は約700と言われ、基準の決まっている103農薬以外はフリーパスになっています。しかも、この基準は国際基準に平準化したもので非常に緩いものです。従って、ほとんどがフリーパスとと言ってもいいでしょう。厚生省は、今、ポジティブリスト制にすると半数以上が輸入できなくなると言ってます。
 また、厚生省は残留基準を設定するときの安全性の根拠として、その農薬の理論的一日最大摂取量がADI以内におさまっていると主張していますが、その計算は基準が決まっていないものについてはゼロとしています。つまり、自分たちの計算だけはポジティブリスト制なのです。しかも、食品添加物のポジティブリスト制は、日本が世界で初めて採用したと自慢しています。ならば、残留農薬についてもポジティブリスト制にすべきでした。アメリカという強い味方がそれでやっているのですからなおさらのことです。
 国会審議の中で、厚生省は2000年までに全部で200くらいの農薬の残留基準を決めたいと答弁しています。200農薬の基準値が決まったら農産物(国内、輸入含めて)の80〜90%はクリアーできるとのことです。では、この時点でポジティブリスト制にしたらどうかという質問には、明確な回答はありませんでした。
★自給率が低いのでポジティブリスト化は無理と・・
 代わりに厚生省は、ポジティブリスト制を検討する条件として、@残留農薬基準の設定、A残留農薬基準に関する国際動向、B日本の食糧の自給の程度をあげ、これらがポジティブリスト制にしてもいいような状況になったとき検討するとしています。これでは何のためのポジティブリスト制かわかりません。現在の状況が、厚生省のいう通り整っていないからこそ、その危険を避けるために今の時点でのポジティブリスト制を要求しているのですから。
 93年からばたばたと決められた農薬残留基準はいくら農薬を使っても違反のしようがないような、残留実態からもかけ離れた緩い基準になっています。こういう基準を200も作っておいた上でポジティブリスト制にして何の効果があるでしょう。国際動向をみてからというのも主体性がありません。日本の国民の健康を守るのが厚生省の使命です。また、食糧の自給率が高くなれば、相対的に輸入農産物の残留農薬の危険性は減ります。自給率を上げるのは非常に大切なことです。
 厚生省は自給率が低いのでポジティブリスト制にできないというのであれば、国民の安全を守るために自給率向上の運動をするか、せめて、輸入に食糧を頼っていると安全性は守れませんくらいの宣伝をしてほしいものです。
 国会質問では、ほとんどの議員がポジティブリスト制を導入するようにと主張しました。与党も野党も同じことを言っているのです。にもかかわらず、法律にきちんと反映できないというのはどういうことでしょう。非常に疑問に思います。
 農薬によるポストハーベスト処理に関して、農水省は、申請があれば認めると答弁しています。今まで国内では一部を除いてポストハーベスト処理はなかったのですが、緩い残留基準を決めたために歯止めがなくなったわけです。
 また、残留基準の決め方などは法律には入っていません。これは省令で決めるのか、あるいは全然触れないで食品衛生調査会が決めるのか、明らかではありません。問題は先送りされたとも言えます。
★規制緩和の内容−略−
★食品衛生法及び栄養改善法の一部を改正する法律案に対する附帯決議−略−
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作成:1998-04-01