行政・業界の動きにもどる
t03802#農薬工業会が作らせた「豊かな食生活−農薬の役割」を副読本にと−文部省が農薬は必要との立場で推薦#95-06
前号の「事務局だより」でちょっと触れましたが、農薬工業会協力、財団法人科学技術教育協会発行、文部省初等中等教育局教科調査官江田稔氏推薦の生活の科学シリーズ33「豊かな食生活−農薬の役割」という本が、全国の中学校、高等学校に配布されました。
この本は、A4版74頁でカラー印刷をふんだんに使い、いかにもお金がかかっていそうな本です。科学技術教育協会は25000部作成して、17000部を教育委員会を通じて配布したとのことです。その費用は全部農薬工業会が出したということです。
★残留農薬データを改竄
この本の特徴は、一見、客観的に見えそうな書き方をしながら、結局、農薬はそれほど危険ではない、農薬なしには農業はできないし、農薬がないとたちまち食料危機になるなどと宣伝しています。そのためには、資料の改竄も平気でやっています。
特に悪質なのは、東京都衛生研究所のデータをねじまげて、残留農薬は問題ないとしている点です。
53頁から残留農薬に関する記述があります。そこには「表9は、都立衛生研究所が行った実態調査の結果から主な作物についての残留分析値を示したものです。まったく検出されないものが大部分ですが、検出されたものも基準をはるかに下回っています。」とあり、「都立衛生研究所年報1986年」という表が載っています。しかし、1986年版にはこういう数値はありません。同じ数値が載っているのは1987年版です。
87年版を見ると、この本に載った数値は意図的に残留量が高い数値を除いているのがわかります。そのやり方は驚くほど露骨です。都衛研の表と「豊かな食生活」に載せられている表を比べて下さい。−比較表略−
★残留量の多い農薬と作物を省く
有機リン系農薬から見てゆきましょう。(都衛研の表では作物名は英語になっていますが、わかりにくいので日本語に直しました)まず、気がつくのは一番検出数が多いEPNが除かれていることです。EPNは急性毒性が強く、毒物に指定されており、残留基準は野菜などが0.1ppmです。EPNに関して、都衛研年報では以下のように記述しています。
「有機リン系農薬のうち、食品衛生法による残留基準のあるものはEPN(検出作物名:レタス、キュウリ、ダイコンの葉)及びマラチオン(セルリー)の2種類が6検体(検出率:5.3%、以下同様)から検出されが、いずれも基準値を超えるものはなかった。しかし、EPNは農薬取締法・農薬安全使用基準により、レタス及びキュウリ(施設栽培)には使用してはならないと指導されている。今回EPNを検出したキュウリは施設栽培のものであり、レタス同様、農薬使用者に対し農薬取締法遵守等の注意を促す必要がある」(この論文が発表されたのは1987年ですから、残留基準がまだ少なくい時のものです。現在ではもっと多くの作物に基準が決まっています。)
EPNは問題だと、都衛研の研究者が言っているわけですが、「豊かな食生活」では、ごっそり抜いて問題がないようにしています。
さらに一番残留が多い作物はセロリですが、「豊かな食生活」では、これも抜いてあります。セロリに残留していた農薬は、ダイアジノン、ホサロン、クロルピリホスメチル、サリチオン、CYAPの5種類、14検体です。このうち、ダイアジノン、ジアリホールは登録保留基準を超えています。特に、ジアリホールの残留量は基準値の約20倍であったと研究者は報告しています。ジアリホールは毒物、ダイアジノンは劇物に指定されています。サリチオンは1ppmを超えるという高濃度です。要するに問題がないのだけを取りあげて、安全だと言っているわけです。
★85gでADIを超えるとあるのに・・
次に有機塩素系農薬ですが、これも本物の方の表と「豊かな食生活」とを比べて見て下さい。
「豊かな食生活」では、TPNに関して次のような記述があります。
「このTPNは前表(表9)でごらんのとおり、レタスに0.009〜0.074ppm残留していますが、登録保留基準(1.0ppm)をはるかに下回るものでした。ですから、たとえそのまま食べても残留農薬についての安全性は確保されているといえます。通常は衛生面などを配慮して水洗いされますので、その結果、人の口に入る残留量はさらに減るわけです。なお、表中の他の農薬についてはここでは紙数の関係から割愛します。詳しく知りたい方は農薬関連図書、専門書を参考になさって下さい。」
慎重に、全部の農薬は載せてないと断っています。
では、都衛研の論文でTPNについてどう言っているか見てみましょう。
「登録保留基準のあるものでは、殺菌剤であるTPNの検出率が非常に高く、特にミツバ2/2(100%)、セルリー14/23(61%)及びレタス5/15(33%)の検出率が高かった。ミツバは本年初めて、また、セルリーは昨年度から検査し始めた作物である。TPNは昭和58年度の調査で検出したキュウリ、トマト等からは検出されなかったことから、使用対象作物の変化が推察される。さらに、基準値1.0ppmを超えて残留していたものも多く、ミツバで8.9ppm、セルリーでも6.3ppmと高レベルのものも見いだされた。TPNのADIは0.015mg/kgであり、ミツバ85g以上あるいはセルリー120g以上を一日で喫食した場合ADIを超える危険性がある。しかし、野菜中のTPNは流水による洗浄により74〜97%除去されるとの報告があり、生食の場合でも喫食時における残存量は少ないと推察される」
「豊かな食生活」では、レタスだけを取りあげて、「登録保留基準をはるかに下回る」、「そのまま食べても安全」と言っています。登録保留基準をはるかに上回るのがミツバであり、セロリです。都衛研はミツバだと85g以上、セロリだと120g食べるとADIを越すと警告しています。いかに、「豊かな食生活」が意図的にデータを改竄しているかわかります。
また、TPNは水に溶けやすいと言われていますが、流水に20分ほどさらさなければなりません。「豊かな食生活」を読んで、そのまま食べても安全と思う人がいるかもしれません。実際、健康にいいということで、毎日、セロリをジュースにして飲んだりする人もいるのです。
−以下の節略−
★栽培法を無視して無農薬は駄目と
★まだまだいくらでもあるが
★文部省推薦の中身
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作成:1998-04-01