室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t04004#乳児突然死症候群−難燃剤説をめぐって#95-08
昨年11月下旬、毎日新聞紙上で、イギリスでの話として、乳児突然死症候群(SIDS)の原因が、赤ちゃんが使っている寝台マットレスに処理されているリン及びアンチモン系の難燃剤由来の有毒ガスであるとのTV報道がなされ、同国内では、不燃マットの販売を中止するなど大きな波紋を呼んでいるとの記事をみかけました。
神奈川新聞(6月23日付け)によると、日本でも、厚生省がSIDS研究班を組織し、その原因を追及しているそうです。日本での死者は年間500件以上だと推定されていますが、出生1000人あたりの件数は0.5件で、ニュージーランド3.7、ノルウェー2.1、イギリス1.9、アメリカの白人1.3に比べて、先進工業国の中では、もっとも少ないそうです。SIDSはほとんどが生後6ヵ月以内に起こり、呼吸中枢の神経系の発達の遅れや異常のある赤ちゃんが何らかの育児環境因子の影響を受け、突然死するのではないかとみられており、赤ちゃんをひとり寝させない育児環境が推奨されています。
イギリスでは、SIDSによる乳児の死亡が顕著で、交通事故や白血病、髄膜炎よりも多いといわれています。一見健康そうな赤ちゃんが寝ている間に突然死亡するため、両親へのショックも大きく、社会問題化していきました。SIDSの統計は、60年代後半から記録されだしましたが、死亡件数は、次第に上昇し、イングランドとスコットランドで記録された合計件数は1988年には1500件とピークになりました。
このため、SIDSの原因について様々が検討がなされました。昨年、イギリスで問題となった難燃剤説は、1989年にリチャードソン博士が提起したもので、寝台のマットレスに生息する真菌Scopulariopsis brevicaulisがマットレスを劣化させ、有害なリン、砒素、アンチモン等の三水素化物のガスを発生させるというものです(リン化水素は、くん蒸剤として知られる毒物リン化アルミニウムや殺鼠剤リン化亜鉛から生成する毒ガスです)。これらの成分は、寝台マットレスカバーとして使用されるポリ塩化ビニル製品に難燃剤として添加されており、スコプラリオプシス属真菌が、赤ちゃんの体熱や汗、尿などの水分により繁殖し、毒性の高い前述の三水素化物を発生させるため、これを吸った赤ちゃんが急性中毒で死亡するとしています。リン化水素は、有機リン系農薬の毒作用と同様、アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害することにより中毒症状を示し、年長の子供の場合、頭痛や刺激症状ですみますが、より弱者である赤ちゃんが死亡するというわけです。
リチャードソンは、古い寝台を使う低所得階層にSIDSが多い、難燃剤を含まないフトンを使用する日本ではSIDSが少ない、砒素やアンチモンで汚染された草を餌にする羊からとれた羊毛をベッドに用いるオーストラリアやニュージーランドでSIDSが多い、ことなどをこの説の根拠にあげました。
その後の調査で、実験では、三水素化アンチモンガスが検出されなかったなど、この説はかならずしも支持されてきませんでした。政府機関の援助で実施された2年間の研究では、難燃剤とSIDSの関係は否定的なもので、仰向け寝の奨励や喫煙の中止などのキャンペーンが実施され、SIDSに対する注意が惹起されたせいか、発生件数は減少し、93年には536件となりました。しかし、昨年、SIDSで死亡した赤ちゃんの組織中に、そうでない病気で死亡した赤ちゃんよりアンチモンが多く検出されたことが報告され、難燃剤疑惑が再燃しました。
いまのところ、神経系の未発達な乳児が、突然死亡する環境因子について、難燃剤が唯一の原因だといいきれない点があります。
SIDSが少ないという日本でも、わたしたちの身のまわりには、シロアリ駆除剤、防虫畳や合板などに含まれる有機リン系農薬、壁紙その他のプラスチック製品に含まれる三酸化アンチモンや有機リン系難燃剤などが満ちあふれていますが、これらが、室内にはびこる菌や黴などによる生分解でどのような物質に変化するかについては、ほとんど研究されていません。まして、それらが胎児や乳児に及ぼす影響については、全くといっていいくらいわかりません。
SIDSの提起する問題は、神経系の未発達な乳児への化学物質の影響という視点からいえば、そのもっとも悲惨なあらわれのひとつであるといえるかもしれませんし、健康な成人男子を基準にした農薬等のADIをそのまま、子供にあてはめるのは危険だという私たちの日頃の主張にもつながっていくと思われます。
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作成:1998-04-01