行政・業界の動きにもどる
t04301#「豊かな食生活−農薬の役割」発行元が訂正文を配布−推薦の責任をとらない文部省#95-11
 てんとう虫情報38号で報告しましたが、今年3月に全国の中・高等学校に配布された農薬工業会協力、財団法人科学技術教育協会発行(以下、「協会」と略す)、文部省初等中等教育局教科調査官江田稔氏推薦の「生活の科学シリーズ33−豊かな食生活−農薬の役割」は、明らかな間違い、データのねじ曲げ、意図的な記述が満載されており、とても環境教育に役立つようなものではありませんでした。反農薬東京グループや婦人民主クラブなどの4団体は、4回にわたって文部省と話し合いを続けた結果、11月になって発行元の「協会」名で簡単な訂正文が配布先の学校長などあてに配布されました。
 市民グループは、このような、間違いだらけの冊子を副読本として使うよう推薦した文部省の責任と、推薦文の中で農薬は絶対に必要と書いていることに関して、文部省の見解をただし、この冊子の回収と推薦の責任をとるよう要請をしてきました。
 しかし、今回の措置は、文部省が責任を回避し、市民グループが指摘した明白な誤り部分についてのみ、発行元に簡単な訂正を出させるというかたちでお茶を濁したもので、問題の解決になったとは言えません。
 文部省との話し合いの中で明らかになったことは、
 @この冊子は、農薬工業会が2000万円と資料を提供し、「協会」に発行させ、文部省の推薦をとったこと。
 A推薦は文部省として行ったものではなく、個人がやったものであるから、文部省は責任はない。ただし、発行元の「協会」は文部省が指導する責任があるので、処理はすべて財団法人にやらせると考えていること。
 B文部省は、職員が肩書きを使用して個人的に推薦しても、何ら問題はなく、時間外にその作業をするのであれば、原稿料をもらってもかまわないとも考えていること。
 C副読本などの推薦に関する規定は一切なく、今後も作るつもりはないと明言したこと。というような驚くべきものでした。
 文部省の一貫した主張は、「推薦は文部省がやったのではない。だから責任はない」ということでしたが、文部省の肩書きが入っているからこそ、推薦の価値があるのであって、単なる個人の推薦など誰がありがたがるのでしょう。
 一方、文部省の言うように、今回の推薦が江田氏(当時は教科書の検定をする教科調査官で、現在は視学官)個人の責任でなされたのであれば、江田氏個人が推薦の取り消しをするのも自由なはずです。文部省が責任はないとあまりに強調するので、では、江田さんに責任をとってもらいましょうと要求すると、高校教育改革推進室長でこの件に責任をもっているという惣脇氏は「この文章を書いたのは文部省ではなくて、個人だと申し上げているのであって、個人に責任が生じるとは申し上げていません」と述べ、参加者を唖然とさせました。いずれにしても、文部省の無責任体制には驚くばかりでした。
 また、「農薬の安全性」を宣伝したい農薬工業会は、農薬工業会の名前で発行しても文部省の推薦はもらえないものと判断して、仰々しい名前の協会に発行させ、首尾よく推薦をとり付けたものと思われます。農薬工業会は、機関誌で推薦文を引用して宣伝しています。しかし、それにしてはお粗末な内容だったものです。
 「協会」は、朝日新聞の記事−略−によると、「うちは100万円の監修費用をいただいて、名前を貸しただけ。工業会のミスで大変迷惑している」と言っているそうです。「協会」の役割を如実に示した言葉と言えます。
 こうした話し合いの中で、この冊子がいかにいいかげんに作られ、また、推薦されたかが明らかになってきましたが、どうやら、この冊子だけが特別でもなさそうです。文部省の推薦といっても大した物ではないことがわかっただけ勉強になったと言えましょうか。
 このようなすったもんだの末、ようやく、「協会」は理事長名で次ページのような文書−略−を発送したということです。ちなみに、この費用も農薬工業界が負担したとのことです。 別添えのシールに訂正した文章があります。例えば、残留農薬のデータに関する部分は元は「表9は都立衛生研究所が行った実態調査の結果から主な作物についての残留分析値を示したものです。まったく検出されないものが大部分ですが、検出されたものでも基準をはるかに下回っています」となっていたのが、訂正文では「表9は、東京都立衛生研究所が行った実態調査(1986年4月〜87年3月)の結果から主な作物についての残留分析値を示したものです。さらに一部重複しますが、この報告書中のすべての表(計6表)を原文のまま別紙に追補しておきます」となっています。つまり、その程度の訂正だということです。

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作成:1998-04-01