行政・業界の動きにもどる
t04303#再び、農薬安全使用基準について−収穫前日まで使用可能な農薬#95-11
 てんとう虫情報11号で、農水省が92年11月30日に公表した農作物に対する農薬安全使用基準(*注)の問題点を指摘しました。その後、農水省は5回の基準改定の告示を行なっています。95年4月12日現在で、使用基準のある農薬は当初の41から73種(グリホサート系除草剤は4種の塩ごとに基準があるが1種の農薬として数えた)と増えました。用途別内訳は 殺虫剤:43、殺菌剤:14、除草剤:13、植物成長調整剤:3となっています。現在、農薬残留基準のある100農薬のうち、約70%の使用基準ができたわけですが、400を越える登録農薬活性成分数には、まだまだ届きません。
 本号では、基準が当初のものに比べ、どのようなに変ったかをみてみたいと思います。
(1)DDVPが新たにポストハーベスト農薬に
 92年告示では、ポストハーベスト農薬として保管中での使用基準があるのは、コメ・雑穀・ムギ類・果実に適用される殺虫剤臭化メチルだけでしたが、新たに有機リン系殺虫剤のDDVP(ジクロルボス)が追加され、コメ・コムギ・マメ類のくん蒸基準ができました。例えば、DDVPのコメに対するくん蒸剤の使用基準は使用回数が4回、使用期間が出庫14日前までとなっており、回数が4というのは臭化メチルの1回に比べて多いなという気がします。DDVPは急性毒性が強く、ガン、肝臓・神経障害を起こす恐れがあるためアメリカのEPAが93年11月に一部の食品での残留基準を撤回した薬剤です(同国では、残留基準のない農薬は使用できないことになっている)。こんな農薬をポストハーベストとして認めるのは、オゾン層破壊物質である臭化メチルの使用規制を見越したためでしょうか。
 輸入農産物でその残留が問題となっているジャガイモの発芽防止剤IPC(クロロプロファム)やコムギの殺虫剤MEP(フェニトロチオン)、マラチオン、クロルピリホスメチルなどの使用は、いまのところ国内では、認められていません。
(2)収穫前日まで使用が認められる農薬がふえた
 先のてんとう虫情報の記事で、収穫前日まで使用が認められている農薬がいくつもあることを問題にしましたが、95年までの改定で、当初18種あった該当農薬のうち、カルバリル(NAC)、フェントエート(PAP)、クロルベンジレートについては、前日まで可とされていた農作物の基準はなくなったものの、新たに19種が追加され、合計34農薬が、収穫前日までの使用が認められることとなりました。表1には、該当農薬のリストと対象農作物の数を、また、表2には、農作物別の農薬数(保管用というのは、前項ポストハーベスト農薬のことです)をまとめました。
 10種以上の農作物で、収穫前日まで使用できる農薬は、イプロジオン、シペルメトリン、トラロメトリン、トリフルミゾール、ペルメトリンです。
 また、10種以上の農薬が収穫前日まで使用できる農作物は、キュウリ、ピーマン、トマト、ナス、メロン、スイカ、イチゴです。これらの野菜は、特に念入りに水洗いをして、食べることが、最低の自己防衛手段でしょう。
 それにしても、発癌性の疑われているピレスロイド系のペルメトリンが、14の農作物に対して、使用期間が収穫前日までとなっている点が気にかかります。
 さらに、除草剤2種が収穫前日まで使用できるというのも納得できません。コメ、マメ、イモなどで、種実部分の乾燥を促進したり、収穫しやくすするために葉や茎の部分を枯らすことが目的で除草剤を使用することは聞きますが、セトキシジムの対象農作物はアスパラガスとニラ、グルホシネートの対象農作物は、キュウリ、トマト、ナス、ピーマンですから、単に、農作業をやりやすくするために、収穫物のあるうちに薬剤を散布するということでしょうか。グルホシネートについては、ラットへの注射実験で、行動が凶暴化するという神経系障害が出現すること、しかも、その影響が仔にもあらわれるとの新聞報道がありました(記事−略−)。
 もうひとつ気になることは、農薬ごとに、収穫までの使用回数が決められていますが、総農薬使用回数の規制がないため、複数の農薬について使用基準がある農作物の場合、同じ農薬を毎日かけることができなくとも、農薬を替えて毎日かけることは、可能だということです。実際には、そんなことは稀でしょうが、成育した農作物から順次収穫していくような時、収穫前日だけでなく、安全使用基準で3日前や7日前まで使用可能な農薬を次々使ったため、複数の農薬が農作物に残留していることは、おおいにあり得ます。そして、個々の農薬についての残留基準しかない現行規制では、それぞれの基準に適合していて、市場に出回るということになります。そもそも、複合毒性を配慮しないで残留基準を設定しているところに根本の問題があります。飲料水の場合も含め、農作物の残留農薬の総量規制を行なわないことは、極めて非科学的であり、有機リン系農薬の総量規制を手始めに、残留農薬の総量基準値を決めてもらわねば、なりません。安全使用基準についても、有機リン系農薬については、収穫までの総使用回数を何回以下というふうに決めなければ、とても安全という名に値しないと思います。
表1 使用期間が収穫前日までとなっている農薬−略−
表2 農作物別、収穫前日まで使用可能な農薬数−略−
(3)安全使用基準の決め方・守り方に疑問
 使用基準の92年告示と95年告示を比較していて、これでいいのかなと首をかしげる点がありました。
 告示のたびに、農薬ごとの適用農作物が、追加されたり、削除されたりするのは、その農薬が登録失効したとか、新たに適用範囲が拡大されたものとして理解できます。しかし、同じ農作物・同じ剤型の農薬でありながら、92年告示と95年告示で、基準表にみられる使用期間や使用回数が、異なるものが多々認められるのです。表3に基準の変更のあった農薬と農作物をまとめてみました。
 95年告示では、収穫前に使用できる日数が長くなったり、使用回数が少なくなったりして、内容が厳しくなったものの方が多く見受けられますが、中にはジメトエートやフェニトロチオン(MEP)のように緩和されたものもあります。
 例えば、カルバリルをキャベツに使用する場合、92年告示では、使用期間が収穫3日前まで/使用回数規制なしであったものが、95年告示には、使用期間が収穫14日前まで/使用回数が3回となっていますし、フェニトロチオンを施設栽培のキュウリに使用する場合、92年告示では、収穫3日前までであったのが、95年告示では収穫前日までとなっています。
 使用基準を決めるとき、農業試験場などで実施される作物残留試験のデータから、その農薬について、どのような使用方法をすれば、残留基準以下で市場出荷できるかが科学的に決められ、公表される基準表の使用回数や期間に反映されていると思うのですが、その使用方法が2年半の間にどうしてこんなにかわるのでしょう。92年告示の際、緩く決められていたものが多いということは、最初に決めた使用方法がいいかげんなものだったのでしょうか。使用方法を変更する根拠となる作物残留性試験のデータの開示を、農水省に求めていく必要があります。
 てんとう虫情報33号で紹介したように、94年12月に総務庁行政監察局は「農業における環境保全対策に関する行政監察結果報告書」を発表しましたが、その中で、11県の農薬使用状況を調査した結果、
 「@都道府県が作成している防除基準では、調査した12防除基準中5防除基準において延べ31作物の80件で、A普及センター、市町村及び農協が共同または単独で作成している防除暦、栽培暦等においては、調査した62の防除暦、栽培暦中、延べ39作物の96件で農薬安全使用基準等に不適合となっている。」と指摘しています。
 農薬の安全使用を指導する行政サイドですらこのありさまですから、2年半という短期間での使用方法の変更がどれだけ末端の農家に周知徹底されているかおおいに疑問です。この点も行政や農業現場サイドに糾していかねばなりません。
表3 農薬安全使用基準の変更があった農作物−略−
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作成:1998-04-01