食品汚染・残留農薬にもどる
t04801#36農薬のADI−発ガン性農薬カプタホールの新残留基準がNDに、キャプタンも追放へ#96-04
 さる2月20日、31農薬について新たな残留農薬基準の答申がなされましたが(これで残留基準のある農薬150となる)、当グループでは、昨年8月14日に告示された5農薬と合わせ、36農薬のADI(一日摂取許容量)の数値を入手しました。この数値は、厚生省が発表したもので、残留基準値設定のもとになるものです。表1−略−に示しますので、参考にしてください。
@遅すぎた発癌性農薬カプタホールの残留基準改定
 さて、表をみて一番に気づくのは、カプタホール(商品名:ダイホルタン)のADIが「なし」(設定できないの意)となっていることです。その結果、残留基準値は、129種の農作物について、すべてND(検出限界0.01ppm以下)と設定されています。このような農薬には、発癌性や催奇形性が問題となっている2,4,5−T、アミトロール、シヘキサチン、ダミノジッドがあるだけです(CNPも疫学調査で、胆嚢癌との相関関係があるとされ、ADIを設定しないとなったが、残留基準はきめられていない)。
 カプタホールの残留基準は、1975年に、ダイコン(根及び葉)、キャベツで各1ppm、リンゴ、日本なしで各5ppmと決められ、これをもとに、いままで食品衛生法上の取締がなされてきました(その根拠となるADIは0.05mg/kg体重だった:表1★印)。これが今回変更されたわけです。
 その理由を厚生省の資料でみると、「B6CF1マウスを用いた発癌性試験で、心血管内皮腫、小腸腺癌ほかがみられた。ICRマウスでは、リンパ肉腫、血管肉腫がみられた。SDラットでは、腎細胞癌、乳腺癌がみられた」とあります。すなはち、動物実験で、発癌性が確認されたので、いままでのADIを取り消し、農作物の残留基準もNDとするということになったのです。
 厚生省の資料にあるB6CF1マウスによる発癌性試験は名古屋市立大学の研究者たちが、同省の依頼で実施したもので、84年の10月に日本癌学会で発表されています。この時点で、残留基準の見直しがなされて、しかるべきだったのですが、何のアクションもとられず、カプタホールは使い続けられました。農薬要覧に記載されている原体輸入量は87年の650トンを最後に途絶え、89年12月25日に、発癌性について何らふれられないまま、農薬登録は失効しました。そして、発癌性であることが判明後10年以上たって、やっと、新たな残留基準がきめられたのです。
 カプタホールが登録されたのは64年12月です。当時は、発癌性試験の提出は義務付けられていませんでした。71年の農薬取締法の改定で、農薬登録に際して、慢性毒性・発癌性試験等の提出が必要になり、既存農薬については、データ提出の猶予期間が設けられましたが、70年代後半までには、毒性試験データはすべて提出され、評価がなされているはずです。75年の残留基準告示は、その毒性試験データの評価をふまえてなされたと思われます。いったいこの当時、農薬登録のために提出された毒性データはどのような内容だったのでしょうか。発癌性はこの時は認められていなかったのでしょうか。さらに、84年に新たに判明した発癌性試験結果は、なぜ、すぐに残留基準の改定につながらなかったのでしょうか。私たちは、カプタホールの毒性評価の経過を今後明かにしていかねばならないと思います。そして、このような農薬が、まだあるかも知れないという危惧の念をぬぐい去ることもできません。この点を明かにするためには、私たちが、常日頃から要求している毒性データとその評価過程の公開が不可欠です。
A早急に見直されるべきカプタホール、キャプタン等の分析方法
 カプタホールの農薬登録が失効した上、残留基準がNDになったからといって安心はできません。てんとう虫情報46号でのべたように、残留基準の設定されているキノメチオネート、キャプタン、ジクロフルアニド、カプタホールの分析方法を検討した日本食品分析センターの研究報告によると、一部農作物において、試料調整時の磨砕により農薬が分解・消失して、残留分析にかからなかったり、実際の値よりも、低い数値を示すことがわかっています。残留基準が設定されたといっても、現行の公定分析方法では、正しい残留結果がでないのですから、基準の意味が失われてしまいます。厚生省は、4月はじめ現在、国立衛生試験所で、分析方法の改良を検討しているところであり、有効な試験方法開発の目途がたったとしていますが、公定分析方法の一刻も早い改定が望まれます。
BCNPにつづいてキャプタンの追放を!
 カプタホールと同じフタルイミド系殺菌剤として、フォルペットとキャプタンがあり、その化学構造は、図−略−に示したようです。日本でのフォルペットの農薬登録は、理由不明のまま、85年2月19日に失効していますが、同剤は、キャプタンの代謝物のひとつなので、キャプタンを使用した農作物中にフォルペットの形で残留していることも考えられます。
 また、キャプタンは、いまだ、登録されたままで、オーソサイドという商品名の製剤が知られており、最近5年間の原体輸入量は表2−略−の様になっています。
 キャプタンの毒性については、日本の残留農薬研究所が、サルモネラ菌で変異原性ありとしていますし、アメリカの研究者は、チャイニーズハムスターの卵巣細胞培養実験で変異原性ありと報告してます。白色レグホンの受精卵に、キャプタンを18ppmの濃度で注入すると、雛に多くの発育異常(ヘルニア、小眼球、短翼、半肢、爪の変形、脊柱の不対称発育、脊柱前わん、くちばし欠損、頭蓋骨の発育不全など)がみられたとの報告もあります。
 アメリカの国立ガン研究所は、マウスを用いたキャプタン8000ppmと、1万6 000ppmの添加飼料による80週の投与実験で、十二指腸にポリープ腺ガンができ たと報告しています。
 これらフタルイミド系の3種の農薬は、ドイツでは、すでに、86年3月に使用禁止となっています。87年には、アメリカ科学アカデミーが発癌の危険の高い農薬として注意を促しており、同国内でのキャプタン使用で、1万人あたり4.74人の割合で癌が発生すると推定しています(ちなみにカプタホールでは、1万人あたり5.94人)。また、EPA(環境保護庁)は、キャプタンの使用を種子消毒に限るよう提言しています。
 日本での現行のキャプタン残留基準は、75年に告示されたもので、トマト、ナス、キュウリ、リンゴについて各5ppm(ADIは0.1mg/kg体重)となっているだけです。また、厚生省は、ゴルフ場使用農薬に係る水道水の暫定水質目標の中で、キャプタンの設定値を300ppbしています(91年に実施した調査では、水道水に200ppt検出された例がある)。
 カプタホールと同様、動物実験で発癌性の疑いの濃いキャプタンは、速やかに、使用禁止とし、残留基準もNDとすべきです。私たちは、CNP(MO)追放の経験を生かし、キャプタン追放運動に取り組んで行きたいと思います。

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作成:1998-04-01