農薬の毒性・健康被害にもどる
t05401#農薬臭化メチルの不良製品で死亡事故−未開封缶から致死性ガスが漏れ出る#96-09
 オゾン層破壊ガスとして、2010年までに全廃が決まっている臭化メチルが非常に危険なガスであることを示す死亡事故が起こりました。それも使用中の事故ではなく、不良品のために普段の生活の中で起きた事故でした。
 9月11日、朝日、毎日などの新聞に日宝化学株式会社の小さな社告が載っていました。「臭化メチルくん蒸剤『ニチヒューム』缶ご愛用のお客様へ−お詫びとお願い」と題するもので、内容は、平成6年12月から翌年7月までの期間に製造したニチヒューム缶に一部漏洩が判明したので、全製品を回収している。まだ持っている人は早急に販売店にご一報いただきたい。在庫品は引き取るまでに人体に有害な影響を及ぼす危険性があるので、表示の通り風通しのいいところに保管し、人の居住区におくことは絶対に避けて下さいというものです。
 どういうことなのかと思い、農水省植物防疫課に問い合わせました。詳しい事実は教えてもらえませんでしたが、係員の説明によると、8月初めに臭化メチルが原因と思われる死亡事故が起こったそうです。被害者が意識不明で倒れているところを家族が発見し、病院で亡くなった。解剖の結果、臭化メチルが体内からでてきた。その人のいつも寝泊まりしている隣の部屋にいくつか農薬が置いてあり、臭化メチルもあったとのことです。その保管されていた臭化メチル缶がメーカーでの製造ミスで密閉が不十分であったため、缶から漏れたガスが原因で死亡したのではないかと疑われているとの話でした。
 メーカーの日宝化学は、缶から臭化メチルが漏れていることを認めているので、農水省が回収するよう行政指導をしているのだそうです。8月30日、植物防疫課課長名で、都道府県の農政部長などに「臭化メチルの回収について」という通知を出し、メーカーの回収に協力の依頼をした、新聞の社告はその一環とのこと。
 一編の通達が、末端農家までなかなか伝わらないことを危惧して、日宝化学に新聞広告を出すよう指導をしたのでしょうが、その広告にしても、はずかしながら、農薬問題に敏感なはずの我が事務局も見落とし、いつもお世話になっている調査部担当者からの連絡で、初めて気付くという目立たないものでした。
 日宝化学が製造した土壌消毒用の臭化メチル500g入りの缶の不良品は約3万ケースが出荷されており、どれくらい回収できたのかまだわかっていないそうです。
 日宝化学の社告によれば平成6年12月から7年7月までの8ヶ月間不良品を出し続けていたことになります。一体どのような製品管理をしていたのでしょうか。その上、社告には死亡事故という重大事態を招いたことについて、一言もふれられていません。あたかも、容器表示記載の注意を守らず、居住区に臭化メチルのような劇物を置いておく被害者が悪いようないい方で、今後、事故が起こっても製造物責任はとらないぞとでもいうのでしょうか。
 それにしても、死亡事故が起こって、初めて漏洩がわかったというのも信じられません。ほかにも、死亡に至らないまでもさまざまな漏洩事故があり、それを放置しておいたことが重大事故につながったと思われます。メーカーの責任は大きいといわざるをえません。
 さらに、農水省にしても、通達と社告だけで、監督責任が果たせるわけではありません。てんとう虫情報52号で指摘したように、農水省は帝人化成が臭化メチルの生産出荷量をごまかしていたことに関しても、ただ口頭注意をするだけでお茶を濁しています。
 人の命に直接かかわる臭化メチル缶の不良製品の回収に関しては、第二、第三の事故を未然に防ぐため、マスコミを通じての広報活動をもっと行なうとともに、このような危険な製品をメーカーの自主回収にまかせず、農水省→都道府県農政部という縦割り行政の枠を越えて、他の行政機関とも協力して、積極的な回収策をとるべきでしょう。
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作成:1998-04-01