食品汚染・残留農薬にもどる
t06405#農薬裁判(2)農薬残留基準取消し訴訟で請求却下の判決#97-05
 去る3月27日、大阪高裁での蚕裁判(滋賀県の蚕農家山崎さんが、松枯れ対策のNAC空中散布で、蚕が被害を受けたため、滋賀県に損害賠償を請求していた訴訟)で、原告敗訴の判決あったのに続き、4月13日、国(厚生省)を被告とする農薬の新残留基準設定の取消しと損害賠償を求めていた消費者訴訟で、原告の請求を棄却するとの判決が、東京地裁で下だされました。
 当グループでは、反農薬シリーズ9として、農薬の新残留基準批判のパンフをだし、厚生省が92年から告示した残留基準の問題点を取り上げ、原告団にも加わってきましたが、この判決文のあまりのひどさに、しばし、唖然としてしまいました。
 少し長くなりますが、その要旨の一部を引用してみます。
 まず、残留基準告示の取消し請求については、告示や規制の改正は、『法の委任に基づいて行なわれた一般的・抽象的な規範の定立行為であり、法の執行行為としての行政処分とはその性質を異にする』から、取消し訴訟の対象となる行政処分にあたらないとして、門前払いの判決が下だされました。これでは、行政が決めるすべての基準について、国民は異議申立てが、できないということになってしまいます。国の決めた高い基準のために、国民の健康に被害がでたあとで、行政責任を問うても、失われた健康は取戻もどせないことは、多くの公害・薬害被害者の例をひくまでもないでしょう。憲法第十三条「個人の尊重」や第二十五条「国民の生存権」はどこへ行ってしまったのでしょう。
 ついで、損害賠償については、『原告らが、本件各告示及び本件規則改正によって、健康に対する不安等に脅かされ、精神的損害を被ったといえるためには、その不安等が客観的なものとして認められるものでなければならず、そのためには、当時の科学的水準ないし知見のもとで、本件各農薬の残留基準の最大値を含有する食品を摂取することによって、将来、原告らの生命、身体に具体的な障害が発生し、健康を損なう危険性が相当程度の蓋然性をもって予測できることが立証される必要がある。』との判断が示されました。
 私たちは、単なる不安から、国際平準化と称して、高く設定された残留基準を批判してきたわけではありません。ガン、アレルギー性疾患、生殖異常の増大傾向が、農薬をはじめとする化学物質の安易な使用によるのではないかとする確固たる疑いのもとに訴えをおこしたことについては、まったく無視されています。また、相も変わらず、立証責任のすべてを、原告側に負わせている裁判所の体質も問い直さねばなりません。
 さらに、『原告ら指摘の各農薬にヒトに対する発ガン性の疑いがあるとしても、いずれも非遺伝子損害性発ガン性物質であると考えられること、有機リン農薬の慢性毒性についても、学問的に対立している状況にあることなど、最近の一般的な科学的見地からすれば、食品を通じてそれらの農薬を摂取することが、その摂取量いかんに関わりなく、およそ人体にとって危険であり、原告らの生命、身体に具体的な障害を及ぼす蓋然性が高いと認めることはできないし、本件の残留基準値が、科学的知見に照らして不合理であって、人の生命、身体に障害を及ぼし、健康を損なう危険性があると認めるに足りる証拠はない』と、厚生省の言い分のみがとりあげられています。科学者でもない、裁判所がよくもこれだけ一方的な判断ができるものです。
 つづいて、『販売されている農作物に残留している農薬の量は、多くの場合、残留農薬基準を下回っていること、農作物に残留している農薬は、通常、保存・調理・加工等により減少するものであること、人が生涯を通じて特定の農薬が残留する農作物を食べ続けるとは、通常考えられないことなどからすると、原告ら主張の各農薬について、その残留基準の最大値を含有する食品を摂取することによって、将来、原告らの生命、身体に具体的な障害が発生し、健康を損なう危険性が相当程度の蓋然性をもって予測できるということはできなといわざるを得ない。』と述べています。
 農薬の残留実態が、残留基準より低ければ、基準を下げればいいのですから、こんなことをくだくだ判決文でいう必要はありません。実際、旧基準では、残留実態を反映して基準を設定することになっていたのですからね。
 裁判所は、農薬の複合毒性が評価されていないことや、成長途中の子供への農薬の影響を健康な成人男子と同一視してはならないことなどは、まったく、意に解していないようです。日本の司法は、ほんとうに、子供に農薬残留基準の最大値を含む食品を安心して与えろといえるだけ、自信があるのでしょうか。
 おわりに、『原告らにおいて、本件各告示等による残留農薬に対する規制を不十分と考え、より厳格な規制がされなければ、子孫にまで悪影響が及ぶおそれがあるなど、食品の安全性に対して不安を感じていることが窺われ、また、食品の安全性について十分な情報が入手できないことに対する不安、不信があるとしても、それらの不安等は、不法行為法上、賠償の対象となる損害ということはできない』としています。これでは、、健康を損ねてから、また、子孫に影響が現われてから、農薬との因果関係を示す科学的証拠をとりそろえて、あらためて、訴えろといっていることとかわりありません。
 今後とも、この判決文が大手をふって歩き回ることのないよう、農薬の影響を受けやすい人が安心して生活できることをめざした反農薬運動を続けていく必要性を、あらためて強く感じた次第です。
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作成:1998-04-01