ダイオキシンにもどる
t07405#二極に分かれた食塩−ダイオキシン発生源説の面々#98-03
 今年になって、スウェ−デンの研究者による疫学調査の結果、塩ビと睾丸ガンの因果関係が明らかにされました(業界筋は、もちろん、この研究を批判していますが)。
 一方、ゴミ焼却施設からのダイオキシン汚染問題で、塩ビが槍玉にあげられることに危機感をいだいた塩ビ業界は、日本でも、がぜん巻き返しのための塩ビ有用キャンペーンを張りだしていますが、ゴミ焼却によるダイオキシンの発生の一因に食塩も関与すると主張(食塩−ダイオキシン発生源説)する人達の間で、ゴミ対策への道が二極に分かれる動きがみえてきましたので、今号では、その両説を紹介してみましょう。
<牧野さんはゴミ焼却推進論>
 塩化ビニル環境対策協議会の牧野さんは、『生活と環境』誌1998年1号に「塩化ビニル樹脂、その燃焼と安全性」と題して、塩ビ擁護の論陣をはっています。
 ダイオキシンに関していえば、塩ビを含むゴミを焼却炉に投入しなくても、ダイオキシンが発生する例をいろいろあげて、塩ビだけが悪者でないと主張されています。ポリエチレンを燃やすだけでダイオキシンが発生する(塩ビ添加率0〜10%の範囲で、ダイオキシン濃度が2%添加時が最大値を示す)とか、樹皮や石炭に食塩を添加して燃やすとダイオキシン発生量が増加するとかいう類いの論文も紹介されています。
 先に、私たちがてんとう虫情報69号で批判した食塩から塩化水素を発生さす焼却実験を得々と挙げているのは、さておき、「空気中に、すでに、発生するダイオキシン類の数百倍の塩分が含まれており、焼却炉中でダイオキシン類の生成に必要な塩素が不足すると言う事はない」と、まるで、ものを燃やせば、そこに存在する塩素の総てがダイオキシン化するかのような、非科学的な記述をしているのは噴飯ものです。
 塩ビ業界は、塩ビを燃やしてもダイオキシンは発生しませんとは、いえません。そのかわり、塩ビを燃やさなくともダイオキシンが発生しますよと、自らの責任を転嫁して、その論拠に食塩−ダイオキシン発生源説を利用しています。
 では、塩ビをまったく混在させない場合に焼却施設で発生するダイオキシン量は?と問えば、きっと答えにつまることでしょう。
 牧野さんは、「塩化ビニル樹脂を含む廃プラスチックであっても、上記の厚生省ガイドラインに従った条件で焼却するれば、ダイオキシン類の発生を0.1ng/Nm3以下に出来る事を、プラスチック処理推進協会が、実炉で確認している。」と述べており、ダイオキシン抑制策は、塩ビを燃やさないことでなく、焼却条件をコントロールすればいいとのだと主張しています。
 厚生省のいうような連続炉をつくり、ガイドラインで示された焼却条件と集塵条件下で安定運転すれば、排ガスからのダイオキシン濃度は基準値以下になりますよ。飛灰や焼却灰は溶融処理すれば、ダイオキシンが環境汚染する度合はぐっと低下し、ヒトの健康に影響を与えることはありませんというわけでしょうが、そのような炉を作り、運転していくお金は、一体誰がだしているのでしょうね。
 また、自治体の焼却施設の問題だけでなく、小型焼却炉や家庭用簡易焼却炉、野焼きの実態、それに焼却炉残灰の埋立処理地にかもめが来て餌をついばむ現実(牧野さんも完全燃焼の徹底は難しいと述べている)には、なんと答えるのでしょう。
 塩ビ業界が、ダイオキシン発生源として、塩ビも食塩もというならば、どちらの方がより多く関与しているのかということを、まず、示してもらいたいものです。この実験は、燃焼条件を同一にし、塩ビを添加した場合と食塩を添加した場合を比較すればすむことですから、簡単にできるはずです。この際、ダイオキシン発生量は、排ガスだけでなく、飛灰も焼却灰もきちんと測定してくださいね。
<久保田さんはゴミの堆肥化論>
 ところで、牧野さんが、食塩からも塩化水素が発生する根拠として引用している研究のひとつに久保田さん(東京工業大学名誉教授)の「ゴミ焼却炉炉内での塩化水素生成および除去反応の熱力学的考察」(『公害と対策』1979年8月号)と題した論文(焼却炉内の食塩と亜硫酸ガスと水の存在下で、塩化水素が生成することを示唆している)があります。
 かって、塩ビ業界は、焼却炉での塩化水素発生問題が生じた時、この理論に飛びつき、塩ビ原因説に対しての自己弁護のために食塩説を唱えたものです(現在の、食塩−ダイオキシン発生源説はこれとまった同じ構図です)。
 さて、久保田さんは、その著『廃棄物工学−リサイクル社会を創るために』の中で、「通常、分別しない都市ゴミを焼却する際、発生する塩化水素の70%程度が塩ビに由来すると推定されており、塩ビが主犯であることは、確かである。都市ゴミ中には塩ビの他にラップ用フィルムとして用いられている塩化ビニリデン製品も入っている。」と述べ、「すぐに、ゴミになるラップフィルム等塩素を含むプラスチックフィルムについては、その代替の可能性を社会・経済の面から、一度検討してみるべきではなかろうか。」と主張していますから、何をかいわんやです。
 塩ビ業界が身内だったと思っていた?久保田さんは、さらに、『資源環境対策』誌97年12月号で「根本的なダイオキシン対策と生ごみの分別処理−焼却によらない生ごみ処理」と題する提案−生ごみを含めた有機廃棄物のリサイクル−を行なっています。その趣旨は、生ゴミは燃やさず、分別収集して、堆肥化することによりエコサイクル社会を作ろうということにあります。
<ダイオキシン対策は、やっぱり脱塩素・脱焼却>
 久保田さんは、ダイオキシンに関して「ごみ焼却でのダイオキシン類発生の主体が塩化ビニルを含むごみ中の廃プラスチックであることは明かである。しかし、この廃プラスチックを分別除去しても、生ごみ中に含まれる食塩がその焼却に際して、一部塩化水素となり、ダイオキシンの生成に関与する」とした上で、「ダイオキシンの生成をより完全に抑制しようとするのであれば、ごみの中から生ごみも同時に分別除去すべきである。ごみの中の生ごみの存在はごみ焼却での不完全燃焼を招き、前駆物質の生成を促すとともに生ごみの中の食塩から変化した塩化水素がダイオキシンの生成の原因になり得るからである」と述べ、ダイオキシン発生を抑制する根本策として、脱焼却を挙げています。
 ゴミ焼却によるダイオキシンの発生抑止策は、脱塩素・脱焼却であることは、私たちも主張してきたことです。そのひとつの手段として、ゴミの堆肥化は、ぜひとも推進すべき課題です。ただ、この際、堆肥の原料になる分別された生ゴミ類が有害物質で汚染されていないことが大前提になりますし、病原菌など衛生上の問題が生じないようにすることにも留意せねばなりません。この二点を、今後、どのようにして解決していくかが、堆肥化実現の鍵となるでしょう。

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作成:1998-05-01