ダイオキシンにもどる
t07601#大阪府能勢町「豊能郡美化センター」周辺ダイオキシン汚染問題#98-05
★経緯
 全国一のダイオキシン土壌汚染が明らかになったごみ焼却施設「豊能(トヨノ)郡美化センター」は、大阪府の北端に位置する能勢(ノセ)町の山間にある。1997年1、5月の排ガス調査で指針値以上(180、150ngTEQ/Nm3)が検出されたので、同センターを運営する豊能郡環境施設組合は施設周辺(〜4Km)の7地点について土壌調査を97年8月に実施した。その結果、施設に最も近い能勢高校付属農場の栗畑の土壌から2700pgTEQ/gのダイオキシン類が検出されたことが1997年11月に判明した。前後の経過を表−1(略)に示す。
 当初、栗畑の土壌は調査対象ではなかった。センターに近い栗木が枯れるので栗畑の土壌も検査してほしいという高校側の希望でたまたま調べられた。センター近傍の栗畑土壌から高濃度のダイオキシン類が検出されたことから、栗畑の下側に広がる水田、畑地の土壌汚染が懸念され、同センターは「豊能郡美化センターダイオキシン対策検討会」(委員長・武田信生京都大学教授)を設置した。
 「検討会」の提言に基づいて、97年8月調査で最高濃度だった地点を起点にして、センター南側田畑の37地点の土壌および作物(玄米)、施設の調整池底質、農業用水路底質、井戸水等の詳細調査が97年12月に実施された。今回問題になっている1998年4月17日発表データはこの詳細調査の結果だ。
 センターの炉は1988年稼動開始の26.5トン/16時間×2系列の性能を有する炉頂冷却型の流動床焼却炉だ。
★詳細調査結果の概要
『豊能郡美化センター周辺におけるダイオキシン類の環境調査(2.)−報告書』(平成10年4月17日豊能郡美化センターダイオキシン対策検討会)による測定結果一部(表土)を図-1(略)に示した。センターの南下に広がる栗畑・水田等の土壌(表土)中のダイオキシン類濃度は39〜8500pgTEQ/gだった。最高は施設南側法面8500pgTEQ/gで、97年8月調査で2700pgTEQ/gだった地点(栗畑)は2900pgTEQ/gが検出された。施設南法面と栗畑近傍とが高く、施設から遠くなるにつれて低い。
 底質は、施設用調整池、栗林内池、天神池(農業用)、農業用水路(約1.7Km下流)の順に23000、4100、3300、26pgTEQ/gと、センター周辺が高かった。
 表層水中のダイオキシン類濃度は、調整池、栗林内池、農業用水路がそれぞれ200、23、0.14pgTEQ/lで、施設周辺表土を含む水流が流入する割合が多いところほど高濃度だった。
 (図1)各地点のダイオキシン類中に占めるジベンゾフランの割合が多いこととジベンゾフランの異性体パターン(塩素数の違うダイオキシン類の割合)が排出ガスのそれに類似しているとの理由を挙げて、施設周辺のダイオキシン類汚染原因は排出ガスだ、と報告書はいう。
★原因究明には程遠い詳細調査
 「報告書の問題点」詳細調査は「原因の究明と対策に資することを目的」に実施された。しかし、調査の実態はこの目的とは程遠い。第一に、調査対象地域の選び方を誤ったために、周辺の汚染実態が明らかになっていない。基礎資料によれば、同施設屋上の風向きは北北西ないし北西の風が約50%、南ないしは南南東が約25%だ。もし、施設排ガスが原因であれば、センター裏の山林やセンター北側の新興住宅団地「ニュータウン平和台」(図-1の上側に位置する)地域も汚染されているはずだ。
 97年8月の調査では、団地内の井戸水からダイオキシン類0.003pgTEQ/gが検出された。団地内の半数近くに上水道がない。井戸水利用だ。団地上流にはダイオキシンの直接の汚染源となるような施設や農地はない。排出ガスによる裏山一帯の汚染が懸念される。施設南側だけを調査対象に選んだのは明白な誤りだ。
第二の問題点は、センター南側栗畑周辺の高濃度汚染源推定の無理だ。
「報告書」は、各地点のジベンゾフランの異性体パターンと排出ガスのそれとが類似している、という。幾つかの地点の表土(他の地点も酷似しているので他は図示していない)の異性体パターンと排ガスのそれとを図-2に示した。各地点のジベンゾフランの異性体パターンは類似しているが、排出ガスのパターンとは明らかに異なる。報告書の如く両者が類似しているとは到底言えない。言えることは、センター周辺に汚染源が存在するらしいということだけだ。排ガスだけを汚染源と決め付けることは、高濃度汚染原因究明を誤らせかねない。
第三の問題点は、調査の詳細が明らかにされていないことだ。公表されているのは、美化センターを管理する施設組合か「検討委員会」が調査結果をまとめた「報告書」だ。測定会社から出された生の測定報告書ではない。
 厚生省が纏めたダイオキシン類標準測定マニュアルによれば、測定結果の報告書の様式が定められ、燃焼条件や異性体別の分析結果を記載することになっている。測定結果次第で次の対策が異なってくる。例えば、詳しい測定結果が公表され、97年8月に実施された井戸水調査の異性体パターンが判明すれば、北側団地についての調査の緊急性の度合いがさらに明確になる。
 ごみ焼却施設ダイオキシン問題は行政や施設だけに責任があるのではない。情報を隠しても問題の解決にはならない。いかに対処すべきか、市民全体が考えるために早急な素データの公開が必要だ。
★提言
 大阪府知事は能勢の米を炊いた握り飯を食べて、農産物が売れなくなったという「風評被害」潰しのパフォーマンスをしたが、汚染実態の正確な把握なしにこのようなことをやっても何の役にも立つまい。また、関係者は汚染土壌除去費用等の援助をそれぞれ上級行政機関に陳情しているが、どこまで除去したらよいのか明らかでない漠然とした状況では補助金を出すことも困難だ。
いま早急になされるべきことは、1.ダイオキシン類汚染関連情報公開。2.全体的な汚染状況の把握・調査の早急な実施だ。これらは余りにもありふれた提言だ。平凡な提案をしなければならないのは、余りにも尋常でない状況だからだ。
第一点は、繰り返しになるが、今までに何が明らかになり、これから何をなすべきを当事者である市民が考えるのに必要だ。密室の検討会や対策会議では対処できない。
第二の提言は、排出ガスであれば北側の汚染も必至だ。地域全体の今後の対策を考えるのに必要だ。
将来にこれ以上の禍根を残さないために、真摯な対策が取られることを切望する。(植村振作)
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作成:1998-06-01