食品汚染・残留農薬にもどる
t07701#農薬残留基準でまた厚生省が数合わせに熱中−暴露評価の精密化と称して残留農薬摂取量を見かけ上減らす画策#98-06
5月1日付けで、厚生省食品化学課は「残留農薬基準設定における暴露評価の精密化に関する分科会報告の公表と意見の受け付けについて」と題する文書を出しました。出したといっても、厚生省が当グループに送ってきたわけではなく、たまたま厚生省のホームページを見ていて発見したものです。(最近、厚生省や環境庁は「インターネットに出しているから公開している」としていますが、インターネットを見れない人は蚊帳の外になり、必要な情報を得られない場合があります。これでは誰にでも公開されているとは言えません。最低限、要求があれば紙に印刷した文書をFAXするか郵送するべきです)
暴露評価の精密化というのは以下のようなものです。従来、厚生省が残留農薬基準の安全性の根拠としてきた理論最大一日摂取量(TMDI)方式は大雑把なものだった。そこでもっと細かく、例えば、農薬が残留しても人が食べるところは可食部だけなので可食部の残留を調べればいい、料理をすれば農薬が分解して減ることも考えて、「科学的に」やろうということです。97年11月にこの議題で食品衛生調査会毒性・残留農薬合同部会を開き、そこで例によって分科会で検討してもらうということなり、7回の分科会の結果として上記の報告書が発表されました。
これは95年にコーデックス残留農薬部会が改定した「食品に由来する残留農薬の摂取量推定に関する指針」をそのまま受け入れたものですが、そもそも、コーデックス委員会が定める最大残留基準値は「消費者の健康を保護するとともに国際貿易の促進を図るために」定められたものとされています。重点が国際貿易の促進にあることは明らかです。
この委員会が決定する最大残留基準は「適正農薬基準(GAP)に基づいて農薬を使用した場合に、結果として残留するレベルを超えない量として設定される」ものであり、人間の健康からみて決めたものではありません。それが安全かどうかは、理論最大一日摂取量がADI(一日摂取許容量=一日にこれ以下なら一生涯食べ続けても安全とされる量)を超えないものとするということにあります。
理論最大一日摂取量というのは、92年以降、厚生省が残留基準値を設定するときに、唯一の安全性の根拠として持ち出していたものです。つまり、残留基準が設定された農作物ごとに、残留基準を一日に平均的な日本人が食べる量をかけ、それを和したものです。この方式だと、残留基準値が多く設定されている農薬ほど理論最大一日摂取量は多くなります。例えば、フェニトロチオン(スミチオン)は多くの作物に登録がありますから残留基準も多くの作物に決まっています。それを足していくとADIの96%を占めるわけです。
これに関しては、私たちは最初から科学的でないと批判してきました。今回、暴露評価を精密化するというので、厚生省が反省してもっと厳しい残留基準をつくるのかと思えば、とんでもない。「計算方式が甘かった、このままでは、適用される農作物がふえるてくると理論摂取量がADIを越えて、消費者が文句をいいだす。もっと、摂取量を少なく見せるために、いろいろな要素を差し引かなければならない、WHOのお達しもあるし」というわけでした。
とりあえず、反農薬東京グループは以下のような意見書を提出し、食べ物への農薬残留を減らし、残留基準を厳しくするよう提案しました。
★参考:厚生省報道資料98.05.01
★参考:厚生省審議会資料97.11.25
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「残留農薬基準設定における暴露評価の精密化に関する分科会報告」に対する意見書
5月1日付けで公表された表記報告の内容は、日本における農薬使用や農薬残留実態を無視し、海外からの農産物の輸入をスムーズにさせることに重点をおいた単なる数字合わせにすぎず、とても、国民の健康を確保する視点から検討しているとは思えない。
そもそも、理論最大一日摂取量方式をもって農産物の農薬残留基準の安全性を主張してきたのは厚生省である。われわれは当初から、この方式は科学的でないと批判してきた。その理由は、(1)基準が設定されていない農産物への残留がNDとなっていない。(2)農産物以外(水、空気、魚介類、畜産品、乳製品、加工食品など)からの農薬摂取を考慮していない。(3)ADIは健康な成人に対するものであり、乳幼児、病人、妊婦などは考慮されていない。また、仮にADIの妥当性を認めるとしても残留基準は体重50kgの人を対象にしており、体重が低い子供などは無視されている。(4)残留実態とかけ離れているなどである。
今回、理論最大一日摂取量方式を見直すのであれば、まず、厚生省の今までの主張が間違っていたことを明らかにして自己批判すべきである。またWHOの方針が変わるたびに右往左往するのではなく、確固たる科学的根拠をもってWHOに提言すべきである。
特に、今回提案された新しい暴露評価方法における「日本型推定一日摂取量方式」については、賛成できない。[T]にその理由を述べるとともに、[U]に、我々の提案を記する。
[T]反対の理由
@「作物残留試験における残留量の平均値等を採用」について、
農水省は、残留基準の告示された農薬について、農薬安全使用基準を設定しているが、この使用基準では、農作物と農薬の使用剤型毎に、散布方法等がきめられており、それを守れば残留基準以下になるものとされている。一方、残留基準の意味するところは、個々の農作物が設定基準の最大値以下であれば、流通が許されるということである。
仮想の暴露評価方法においても、その農薬の最大総摂取量が、ADI以下になるようにするというのが、国内の安全使用基準とのかねあいで意味をもつといえるが、新暴露評価方法では、残留試験時の残留分析中央値をとる、すなはち、残留基準よりも低い値をとることになり、前記の安全使用基準の主旨に反することになる。
A「非可食部の除去による影響の考慮」について
農水省の作物残留試験実施要領においては、農作物ごとに、分析試料の処理方法を規定しており、例えば、パイナップルは、皮と芯を除く、すいか・メロンは果皮を除く、うめ・すもも・おうとうは果皮は剥かず核を除く、きゃべつ・ハクサイ・レタスは、外側の傷んだ葉及びその芯を除く、というふうに、すでに、現在においても、非可食部を除き、可食部のみの残留農薬が測定されることになっている。
このように分析方法の規定で十分対処できる問題であるにもかかわらず、新たに可食部係数を採用することは、屋上屋を架することになり、実際の残留量よりも低く見せかけるための方策だと批判されても反論できないのではないか。
B「加工調理による残留への影響の考慮」について
農薬の毒性・残留性試験においては、生物体内や環境中での分解代謝物などについてのデータの提出が必要であるが、農作物中に残留した農薬が加工調理の過程で、どのように変化をするか、さらには、生成した分解物の毒性がどうであるかにについてのデータは要求されていない。また、毒性試験で動物に供せられる飼料にしても、加工調理したものではない。
加工調理によって、残留していた農薬自体は減少するとしても、分解生成物の種類や量やその毒性が不明である現状では、加工調理係数は毒性に対して意味をもたないことになり、その導入を考えること自体、ナンセンスである。
前述の農水省の残留農薬の分析方法では、根菜類は、水洗いをすることになっており、水洗除去で、残留農薬の一部減少が期待できるのは、葉菜類ぐらいであろう。
すでに、加工調理により有機リン剤は、より毒性の強い酸化物に、またエチレンジチオカーバメート系農薬からは、有害なエチレンチオウレアが生成する恐れが指摘されている点も見逃せない。
加工調理に関していえば、ジュースや植物油、アルコール飲料などの加工品については、残留農薬が未加工品よりも多くなるおそれがあるため、残留基準を別途設定する方が先決である。
[U]提案
経済性優先のWTOやSPSの規定、さらには、WHOの姿勢にとらわれず、人の健康のことを第一に考え、国際的な場において、わが国の主張が採用されるよう、積極的なはたらきかけをすべきである。
以下の我々の提案を述べるので参考にされたい。
@安全サイドに立って、ADIを低く設定する
この報告書では、従来なされていなっかった幼小児、妊婦、高齢者ごとの暴露評価
の実施がうたわれ、それぞれの食生活パターンが調査されることになると思われるが、年齢別の食品平均摂取量だけでなく、ADIの妥当性も再検討されるべきである。
現行のADIは、健康な成人男子に対して適用される数値であり、そもそも、その数値決定の際に用いられる、実験動物との種差による安全係数10分の1、個体差−人種差、性差、年齢差など−に関する安全係数10分の1の根拠も明確でない。
人種差でいえば、日本人は、他の人種に比べ、有機リン剤を解毒しにくいことがしられているし、発達途上にある子供は化学物質に対する感受性が強く、アメリカでは、現在、安全係数を1000分の1にすることが検討されている。
農薬の毒性評価に際しては、未知の部分が多く、胎児、乳幼児・子供、農薬に対する感受性の強い人のことを配慮して、より安全サイドに立ち、ADIを低く設定すべきである。
A残留実態調査を勘案し、残留基準を低く設定する
旧残留基準策定に際しては、市場に流通する農作物の残留実態を勘案することになっていた。しかし、新残留基準では、このことは無視されてしまった。この報告書でも、実際の残留値は、基準よりも低いことが述べられているが、残留基準を実態に合わせて、低く設定すれば、今回の提案に見られるような数字合わせをやる必要はなくなる。
外国産農産物で、残留農薬量が高いのは、多くの場合、農薬のポストハーベスト使用に起因する(たとえば、コムギにおける有機リン系殺虫剤、ジャガイモにおける発芽防止剤、バナナや柑橘類における防腐剤など)。産出国に対して、農薬のポストハーベスト使用をやめるよう求めるべきである。過去において、EDBくん蒸剤をやめた例を参考にすればよい。
B農作物以外の食品、水、空気(以下水等という)の農薬汚染実態調査と基準設定
報告書では、水等からの農薬摂取量を正確に試算することは困難であるとし、これらからの摂取量をアメリカ並の総農薬摂取量の20%と仮定しているが、早急に実態調査をした上で、実測データを残留基準の策定に役立てるのが科学的といえる。
ジュース、ジャム、植物油、アルコール飲料などの農産物加工品、畜産品、牛乳・乳製品、魚介類についても農薬汚染が報告されているが残留基準はほとんどなきに等しいため、早急に残留実態調査を実施し、基準を設定する。
飲料水については、特に水田用農薬が多用される我が国で、水源汚染が懸念されるにもかかわらす、水道水の水質基準は、4農薬についてしかない。すでに、ヨーロッパでは、飲料水について、単一農薬で100ppt以下、総農薬で500ppt以下の基準があることをみれば、飲料水の基準設定は、水汚染と胆嚢ガンとの因果関係が明かになり、登録失効に追いやられた水田除草剤CNPの例をひくまでもなく、焦眉なものといえる。汚染調査の実施とヨーロッパ並の規制が必要である。また、水道水の基準策定にあたっては、塩素処理による農薬の化学的変化をも考慮する必要がある。
大気については、農薬散布地域周辺はもちろん、農薬関連物質による室内汚染(シロアリ駆除剤や家庭用殺虫剤、防虫畳、防虫合板、防疫用薬剤等の使用による)が懸念されるため、早急に実態調査をおこなう必要がある。特に、シロアリ駆除剤クロルピリホスについては、農作物の残留農薬由来よりも、室内大気汚染からの摂取量の方が多いという報告や食品を二次汚染しているとの報告があるのは、要注意である。
水や大気中の農薬については、汚染実態調査が必要であるが、その際、季節変動があることを忘れてはならない。環境庁が行なう化学物質の一般環境汚染調査では、試料の採取は、9月以降に実施されるため、汚染実態を正しく反映したものとはいえない。農薬やその関連物質の散布量が多く、温度も高い春から夏の汚染状況を調べるべきである。また、季節変動のある農薬の大気や水からの摂取量の算出に際しては、最大測定値をベースにすべきである。
C農薬の複合毒性の評価と総有機リン剤基準等及び総農薬残留基準の設定
我々が、日常的に摂取する農薬は複数種であるにもかかわらず、複合毒性はほとんど検討されていない。
複数の農薬が食品に残留している実態に対しては、個々の農薬の残留基準の設定だけでなく、総残留農薬基準を設けること、特に、作用機構が同じとされる有機リン系農薬などは、まとめて基準を設定すべきである。
また、複合毒性を解明するために、複数種の有機リン剤の混合物を用いた動物実験の実施が望まれる。
E有害農薬の規制強化をめざす
農薬の毒性・残留試験データ及び残留農薬調査のデータを、すべて公開し、製品にも表示する。
農薬の毒性試験において、免疫毒性、神経毒性の評価を強化し、内分泌系撹乱物質のチェックも行なう。
農薬活性成分だけでなく、製剤に添加される非活性成分についても、毒性チェックをおこなう。
動物実験で発癌性や催奇形性、生殖毒性の判明した農薬や耐性菌を生む恐れのある抗生物質系農薬の使用規制を強化し、その残留基準はNDとする。
国際レベルの問題としては、POPs(残留性有機汚染物質)系農薬の早急な製造販売使用禁止措置をとるよう、関係各国に働きかける。
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作成:1998-06-27