ダイオキシンにもどる
t08403#環境庁のダイオキシン土壌汚染ガイドラインに対する意見書を提出#98-12
 環境庁の「土壌中のダイオキシン類に関する検討会」は、去る11月24日、第一次報告中間取りまとめを公表しました(環境庁検討会へ)。
 その中で、暫定的なガイドライン値として、「居住地等一般の人が日常生活を行っている場所について、対策をとるべき土壌中ダイオキシン類の濃度として1,000pgTEQ/g」とすること。
 対策の考え方として「土壌中のダイオキシン類濃度が暫定的なガイドライン値を超え,対策を実施する場合には,汚染の程度や広がり等の汚染地の実情を勘案の上,掘削,封じ込め,覆土工,植栽工等の中から最も適切な手法を選択して実施することが必要である」ことを示しました。
 さらに、 今後の検討課題として、
「今回提案した暫定ガイドラインは,今後の調査研究の進展に待つ部分が多い中での提案であり,平成11年度以降,実証試験等を踏まえて,更なる検討を進めるとともに,農用地に係るガイドラインの設定の必要性を含めた検討や,土壌中のダイオキシン類が公共用水域を経由して河川,海域に移行することにより生じる曝露リスクに関する検討等を引き続き進める。」とあります。

★矛盾に満ちた土壌暫定基準値1000pgTEQ/g
 この暫定ガイドライン1000pgTEQ/gという数値は、下記の諸外国における居住地のガイドライン値

  ドイツ:1,000pgTEQ/g,
  オランダ:1,000pgTEQ/g,
  スウェーデン*:10pg(ノルディックTEQ)/g,
  アメリカ:1,000pgTEQ/g,
  ニュージーランド:1,500pgTEQ/g,
  カナダ:1,000pgTEQ/g
 (*注:居住地を含み,農用地,児童公園等あらゆる用途に利用する)

を踏襲したものにすぎないと考えられますが、報告では、もっともらしい理屈をつけて、1000pgTEQ/gの汚染地で生活しても土壌からのダイオキシン摂取量は0.22〜0.97pgTEQ/kg/日となり、健康上問題ないとして以下のように述べています。
「食品等からの曝露を考えあわせても,合計の曝露量は健康リスク評価指針値(5pgTEQ/kg/日:人の健康を維持するための許容限度ではなく,より積極的に維持されることが望ましい水準)の範囲内にあり,安全性を見込んでも十分に小さいものと評価できる。」

 ところが、96年12月環境庁公表の「ダイオキシンリスク評価検討会」中間報告によれば、ダイオキシン摂取量は、下表に示したようになっており、都市部土壌で20pgTEQ/gのダイオキシン汚染があった場合、土壌からの摂取量は 0.084pgTEQ/kg/日、ハイリスク地域であるゴミ焼却施設周辺土壌で150pgTEQ/gのダイオキシン汚染があった場合、0.63pgTEQ/kg/日と算出しています。
 この方式で計算すると1000pgTEQ/gのダイオキシン汚染土壌からの摂取量は、表の右欄に示すように4.2pgTEQ/kg/日となり、今回の試算値と大きく食い違います。焼却場周辺の場合、これに、食品等からの摂取量を加えると、基準の5pgTEQ/kg/日を越えてしまいます。
 今回と前回では算出方式が異なるためでしょうが、何故、土壌からの摂取量を低く見積るようにしたかの説明はなされていません。
表 地域別ダイオキシン摂取量(pg/kg体重/日)
        大都市地域 中小都市地域 バックグラウンド 焼却場周辺 1000pg汚染地
食物    0.26~3.26    同左         同左              同左      同左
水      0.001        同左         同左              同左      同左
大気    0.18         0.15         0.02              0.9~1.2   同左
          (0.6)        (0.5)        (0.06)           (3~4)
土壌    0.084        0.084        0.008             0.63      4.2
          (20)         (20)         (2)               (150)     (1000)
合計    0.52~3.53    0.50~3.50    0.29~3.29        1.79~5.09  5.36~8.66

 ( ):推定汚染濃度で、大気はpgTEQ/m3、土壌はpgTEQ/g
★生涯平均摂取量による数字の魔術
 今回の環境庁報告書では、土壌基準算出過程で、子供と大人を6才で区切り、子供と大人の土壌摂食量を各々200mg/日、100mg/日と仮定してダイオキシン摂取量を計算しています。
 1000pgTEQ/gの汚染地の場合、土壌摂食によるダイオキシン摂取量は、6才以下の子供で80pgTEQ/日、大人で40pgTEQ/日と推定されています。体重あたりの数値にすると、20kgの子供は4pgTEQ/kg/日となり、50kgの大人は0.8pgTEQ/kg/体重となります。これに食物からの摂取量を加えると子供の場合は、5pgTEQは軽く越えてしまいます。体重20kgの子供が大人並に健康リスク評価指針値をクリアするためには、土壌基準を200pgTEQ/gよりも小さな値に設定する必要があることになります。
 これでは、大変というわけで、環境庁は、人の寿命を70年とし、体重も平均化(大胆にも、6才以下の子供の体重が50kgとなる)して生涯平均摂取量を0.87pgTEQ/kg/日と算出し、健康上問題ないとしました。
 同庁はこの暴露リスクの算定にあたり、「これまでのWHO等におけるTDIの考え方は、生涯の暴露量の評価を行なうものであり、子供の時期などの短期間の一時的な暴露量を評価するものではない」と断わっていますが、何をかいわんやです。

 東京都衛生局の「平成10年度食品からのダイオキシン類等摂取状況調査」によれば、大人のマーケットバスケット方式によるダイオキシン一日摂取量は158pg/日(3.16pgTEQ/kg/日)であるのに対し、赤ちゃんは107.0pgTEQ/100g母乳のダイオキシンを取り込んでおり、仮に体重4kgの赤ちゃんが500gの母乳を飲むとすると、ダイオキシンの摂取量130pgTEQ/kg/日にもなります。
 要するに、乳幼児を最大に、幼い子供ほど、体重あたりのダイオキシンの摂取量が多く、大人になるほど、小さくなくなるという逆転現象がおこっているのは明かです。ダイオキシンの影響は、体の器官が未発達の子供の方が受けやすく、子供の安全性を最優先した基準をつくるべきなのに、検討会メンバーの先生方が数値をもて遊んでいることに腹立たしさを覚えます。
 以上のような問題点を踏まえ、当グループは次のような意見書をとりまとめて環境庁に提出しました。

★環境庁への質問と要望
1、暫定ガイドライン値算出方式について
 96年12月に「ダイオキシンリスク評価検討会」が提出した中間報告によれば、土壌からのダイオキシン摂取量は、汚染濃度150pgTEQ/gの土地で0.63pgTEQ/kg/日となっている。この算出方式によれば、1000pgTEQ/gの汚染地での摂取量は4.2pgTEQ/kg/日となり、今回の報告の摂取量0.22〜0.97pgTEQ/kg/日と大きな開きがある。
 今回の算出方式が前回と異なる点とその改変理由を説明されたい。

2、子供の安全性を最優先にした基準の設定をのぞむ
 土壌ガイドライン算出過程で、ダイオキシン1000pgTEQ/g汚染地での、6才以下の子供の土壌摂食によるダイオキシン摂取量(例えば、体重15kgの子供の場合6pgTEQ/kg/日)が、健康リスク評価指針値5pgTEQ/kg/日以上になるにもかかわらず、子供の頃の一時期に指針値を越えても問題ないとしている理由は何か。
 0才から15才までの年齢毎のダイオキシン摂取量を食品/大気/水/土壌別の試算値として示した上、各年齢での対健康リスク評価指針値比を明かにされたい。
 発達途上にある胎児や乳幼児・子供は、大人よりもダイオキシンの影響を受けやすいと考えられるため、子供の安全性を最優先にするダイオキシン対策がとられるべきである。子供のダイオキシン摂取量が先の健康リスク評価指針値以下になるように、土壌ガイドラインを設定されたい。

3、ガイドライン数値以下の汚染地について
 ガイドラインが設定された場合、その数値まで、土壌汚染が許容されるとして、対策がとられない恐れがある。特に、ボーダーラインケースについては該当地域でのダイオキシン汚染の発生源を明確にし、操業停止を含めた削減対策をとる必要がある。

4、今後の規制基準設定のタイムスケジュールを明確に
 汚染地域への居住制限、立入制限、農業や酪農業の制限、魚介類への蓄積をふまえた水源地規制などについては、具体的にどうなるか。基準設定にいたるまで手順とそののタイムスケジュールを示されたい。

購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、 注文メールをください。
年間購読会費3000円は、最初のてんとう虫情報に同封された振替用紙でお支払いください。
作成:1999-01-25