ダイオキシンにもどる
t08802#農薬中に含まれるダイオキシンについて#99-04
農薬登録の監督官庁である農水省は、t08801記事にあるように、企業秘密をたてに、農薬中のダイオキシンについて、いっさい情報公開をしないことが明確になりました。同省は、分析するよう指導した農薬活性成分名すら明らかにしない上、製剤中のダイオキシン含有量について、企業が提出したデータをまるまる信用し、分析結果を発表した研究者のデータにけちをつけ、しかも、省独自の分析調査をやらないというわけですから、あいた口がふさがりません。
農水省の情報公開に対する態度を糾弾する前に、ここでは、いままで、判明している農薬中のダイオキシンについてまとめ、問題点を指摘しておきたいと思います。
日本での登録農薬のダイオキシンに関する資料は極めて限られており、私たちが入手できたのは以下の4つの報告です。これらをもとにして、下表を作成しました。表中には、ダイオキシンの同族体・異性体毎に公表されている数値をppb単位で示しましたが、2,3,7,8の位置に塩素を有するダイオキシンの含有量には、*印をつけました。文献4では、個々の異性体の数値が公表されておらず、論文中にその存在を明記しているものについて*がつけてあります。たとえば、4塩化ダイオキシンの欄に*があるのは、2,3,7,8−TCDDが含有されていたが、数値は明かになっていないということです。また、文献3で、不等号で示された個所は、2,3,7,8位置に塩素を有するダイオキシンの検出限界がその数値以下であることを示しています。
表の第二段の有効年月は、農薬製剤に表示されているもので通常3年間とされていますから、その年月の3年前に製造されたと考えてよいでしょう。最下段のI−TEQは、厚生省らがダイオキシンの毒性評価に用いている国際毒性当量(2,3,7,8位置に塩素を有する17種のダイオキシンについて、その毒性を2,3,7,8−四塩化ダイオキシンの毒性に換算したもので、1988年北大西洋条約機構のCMS委員会が設定した)です。
文献1 山岸ほか Chemosphere 10巻1137頁(1981年)
文献2 鈴木ほか 食品衛生学会第46回学術講演会発表(1983年)
文献3 環境庁報告(1997年)
文献4 益永ほか 「第2回化学物質のリスク評価・リスク管理に関する国際ワークショップ」講演集(1999年)」
★農薬中のダイオキシン含有量
(1)水田用除草剤CNP(商品名MO)
CNPは、私たちの20年以上にわたる追放運動の結果、94年3月、メーカーの三井東圧(現三井化学)が製造販売を自粛したいわくつきの除草剤です。この中にダイオキシンを見出したのは、東京都衛生研究所の山岸さん達で、80年代前半のMO追放運動のきっかけになりました。表Aに示したように、山岸報告の分析結果では、異性体毎の含有量は示されていますが、個々の異性体−特に2,3,7,8位置塩素を有するダイオキシン−についての詳しい調査はなされていません。最も含有量の多かったのは、1,3,6,8−四塩化ダイオキシンで、1,3,7,9−四塩化物の比率も高いとのことですが、2,3,7,8−四塩化物は見出されなったと報告されていました。その後、宮城県保健環境センターの鈴木さん達がCNP原体中の1,3,6,8−四塩化ダイオキシンのみの含有量が388万ppbと報告しています(文献2)。
横浜国立大学の益永報告では、TEQに関連する17種を含むダイオキシン異性体が分析されました。個々の異性体の数値は公表されていませんが、2,3,7,8位置に塩素を有する四、五、六塩化物が検出されたことが明記され、最高値で、ダイオキシン総量が892万ppb(TEQ値で、7100ngTEQ/g)となっています。環境庁報告で、TEQが検出限界の0.1ppb以下であったのとは大違いです。益永報告では、試料の農薬は、いずれも農家の納屋から入手したと書かれており、製造年の古いCNP製剤の方が、ダイオキシン含有量が高いことがわかります。メーカーがその含有量を減らすために製造工程に何らかの変更を加えていたのではないかと推測されます。CNPに2,3,7,8−TCDDをはじめとする17種のダイオキシンは含まれないとしてきた農水省は、この点について、試料とした製剤の保存状況が問題だとして、益永報告の数値を疑っています。疑う前に、メーカーにおける製造工程変更の有無を調べるべきだと思います。
(2)その他の水田用除草剤
表Bに挙げた3種の除草剤は、いずれも登録失効していますが、1970年以前に大量散布され、多くの魚毒事件は起こして、使用規制されたPCP(ペンタクロロフェノール)は、益永報告ではダイオキシン総量が最高で1170万ppb(TEQ値で1万7000ngTEQ/g)という数値が示されています。この農薬は、化学構造からいって、八塩化物が最も多く含まれると考えられますが、報告では、2,3,7,8位置に塩素を含む七塩化ダイオキシンも見出だされています。
CNPと同じジフェニルエーテル系の有機塩素系除草剤NIPとクロメトキシニルにも、1万3100から5万1800ppbのダイオキシンが含有されていましたが、TEQ濃度は前者で1.5(益永)、後者では0.1以下(環境庁)となっています。
PCPは、農薬としてだけでなく、シロアリ防除剤や木材防腐剤、工業製品添加の殺菌剤、水虫薬などとして身のまわりでも使われ、人体脂肪や血液中にも検出された例がありますから、不純物として含まれるダイオキシンによりどの程度の人体汚染がおこっていたかが気懸かりですし、この薬剤で処理された家屋に住む人は大丈夫か、またPCP処理材が建築廃材としてでてきた場合に、新たな汚染をひきおこさないかなど、心配の種はつきません。
(3)その他の農薬
表Cに挙げた6種の農薬は、いずれも、その化学構造から、ダイオキシンの混入が予測されるもので、なぜ、いままで、調査されなかったのか不思議に思います。
殺菌剤PCNBは、環境庁の分析でTEQが0.13ppbであったということで、製造中止になりました。メーカーの報告だけを信じていた農水省はこれをチェックし得なかったというわけです。1956年に登録されたこの農薬は、農家にとってはなじみのものだけに、海外からこっそり持ち帰って使用していたということがないようにお願いしたいものです。MCPとTPNのTEQ値は、PCNBより高いのですが、製造は続いています。
2,4−PA(2,4−D)とTPNは、ダイオキシン問題だけでなく、その発ガン性が疑われており、前者では、水田・芝地・非農耕地での、後者ではハウス内での使用が環境汚染・人体被害の観点から特に気になります。
★農薬中のダイオキシン分析の問題点
表に挙げた農薬のダイオキシン調査結果をみて、以下の2点が問題になろうと思います。
(1)まだまだ足りない農薬中のダイオキシン分析
製剤中にダイオキシンを不純物として含有する恐れのある農薬は、まだ、たくさんあると思われます。原体の化学構造中に塩素を含有するものはもちろん、塩素化ベンゼンや塩素化フェノール類をはじめとする塩素含有化合物や塩素系溶剤を用いて合成するすべての農薬が、原体と製剤の双方についてのダイオキシン含有調査の対象になるはずです。益永報告の結果をみると、製剤の製造年によって含有量が違うので、この点も調査の際の変動因子として配慮されねばならないでしょう。農水省が保存状況を問題にするなら、ダイオキシンが生成しにくいための取り扱い方法をきちんと指示すべきでしょう。
(2)17種のダイオキシンの分析だけでよいのか
農水省は、農薬中のダイオキシンについては、1989年から210種あるダイオキシンのうちTEF(2,3,7,8−TCDD等価換算係数)のゼロでない17種のみの報告でよいと農薬業界に窓口指導をしたそうです。残りの193種のダイオキシンの毒性はほとんどわかっていないにもかかわらず、分析報告もしなくてよい、といっているのです。
たとえば、CNP中に見出だされる1,3,6,8−四塩化物をはじめとする多くのダイオキシンについては、TEFはゼロとなっており、いくらダイオキシンが検出されても、TEQは低い、従って無害だという結論になります。発ガン性の疑われる2,7−二塩化ダイオキシンもゼロ評価です。また、マウスでの半数致死量が、3mg/Kgである2,3,7−三塩化ダイオキシンや5mg/kgである1,2,4,7,8−五塩化ダイオキシンが、特定毒物である農薬パラチオンより急性毒性が強いにもかかわらず、TEFはゼロとなっているのです。
毒性が不明なダイオキシンをそのままにしておいていいわけがありません。ダイオキシン同族体・異性体の分析に際しては、2,3,7,8位置に塩素を有するものと、その他のダイオキシンにわけて、すべてをきちんと調査し報告すべきです。また、毒性不明なダイオキシンの規制にもとりかかるべきです。
表 農薬中のダイキシン類含有量(単位:ng/g原体=ppb) *:2,3,7,8-位置に塩素を含有する異性体のみ
(A)水田用除草剤CNP
出典 文献1 文献1 文献3 文献4 文献4 文献4 文献4 文献4
有効期限 1977.10 1980.10 不明 1978.10 1983.10 1986.10 1987.10 1989.10
ダ 3塩化 ND ND
イ 4塩化 1889000 1560000 <0.1* * *
オ 5塩化 356000 410000 <0.2* * * *
キ 6塩化 3000 8900 <1* * * *
シ 7塩化
ン 8塩化
小 計 2244000 1976000 8640000 4040000 3420000 437000 279000
1塩化 ND ND
ジ 2塩化 2100 3900
ベ 3塩化 8100 4600
ン 4塩化 178000 100000 <1*
ゾ 5塩化 20000 11000 <0.2*
フ 6塩化 3100 2200 <1* *
ラ 7塩化
ン 8塩化
小 計 211000 126000 280000 140000 10000 736 744
合 計 2460000 2102000 8920000 4180000 3430000 438000 279000*
I-TEQ <0.1 7100 1280 62 3.9 4.9
(B)その他の水田用除草剤
出典 文献4 文献4 文献4 文献4 文献1 文献1 文献4 文献1 文献3
農薬名 PCP PCP PCP PCP NIP NIP NIP クロメトキシニル クロメトキニル
有効期限 1967.10 1970.10 1971.10 不明 不明 不明 1969.10 1979.10 不明
ダ 3塩化 2140 14100 428
イ 4塩化 5430 4290 428 <0.1*
オ 5塩化 714 140 143 <0.2*
キ 6塩化 ND ND ND <1*
シ 7塩化 * * * *
ン 8塩化 * * * *
小 計 11400000 168000 32600 6300 8290 18600 5350 1000
1塩化 4860 10000 6860
ジ 2塩化 1710 2860 3000
ベ 3塩化 6710 13400 6430
ン 4塩化 4140 7000 4570 <1*
ゾ 5塩化 ND ND 1140 <0.2*
フ 6塩化 ND ND ND <1*
ラ 7塩化
ン 8塩化 * *
小 計 260000 37000 64800 2700 17430 33300 7710
合 計 11700000 205000 97200 9000 25720 51800 13100 23000
I-TEQ 17000 485 2440 197 1.5 <0.1
(C)その他の農薬
出典 文献3 文献4 文献4 文献3 文献3 文献4 文献3 文献3 文献4 文献4
農薬名 テトラジホン 2,4-PA 2,4-PA 2,4-PA ECP MCP MCP PCNB TPN TPN
有効期限 不明 1996.10 1998.10 不明 不明 1974.10 不明 不明 1973.10 1993.10
ダ 4塩化 <0.1* <0.1* <0.1* <0.1* <0.1*
イ 5塩化 <0.2* <0.2* <0.2* <0.2* <0.2*
オ 6塩化 <1* <1* <1* <1* <1*
キ 7塩化 <10* <10* <10* <10* <10* *
シ 8塩化 <100* * <100* <100* * <100* <100* * *
ン 小 計 0.22 0.42 2060 194 173
ジ 4塩化 <0.1* <0.1* <0.1* <0.1* <0.1*
ベ 5塩化 <0.2* <0.2* <0.2* <0.2* <0.2*
ン 6塩化 <1* <1* <1* <1* <1*
ゾ 7塩化 <10* <10* <10* <10* 13*
フ 8塩化 <100* <100* <100* * <100* <100* *
ラン 小計 3.64 0.08 27 6.5 21
合 計 3.86 0.50 2090 201 194
I-TEQ <0.1 <0.005 <0.005 <0.1 <0.1 2.1 <0.1 0.13 0.44 0.39
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作成:1999-04-29