ダイオキシンにもどる
t08902#農水省一転して、ダイオキシン調査農薬名公表#99-05
前号で、あまりにひどい農水省の情報隠しを詳しく伝えました。農水省植物防疫課農薬対策室は、ダイオキシンが含有する可能性のある農薬名すら明らかにできないと頑張っていました。その理由として、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(トリップス協定)があるからだとしていましたが、こんな馬鹿な話はありません。
そこで、国会で質問をした谷本たかし参議院議員を通じて、外務省とトリップス協定の解釈について話し合いを持ちました。外務省にトリップス協定を理由に情報隠しが行われていると伝えると、「ちょっと解釈が違うのではないかと思います。こういうことが国会で答弁されていたとは知りませんでした。持ち帰って検討したいと思います」と驚いていました。その際、農薬中のダイオキシンのデータを提出しないことも伝えておきました。
その後、トップの記事にあるように、東京高裁が住友化学に対して毒性データを提出するよう命令を出しましたので、この情報も外務省に伝えました。谷本議員は、4月に行われた反農薬東京グループと農水省との話し合いの際に提出するよう求めた資料を早く出すよう農水省に催促しました。農水省は例によって「ご説明に伺います」とのことだったので、反農薬東京グループから辻も参加して一緒に聞くことになりました。
<農薬中のダイオキシン分析調査について>
何故か、そこへ外務省の係官も参加して、農水省の話を聞きました。農水省は前回と同じ農薬対策室長と課長補佐がきました。室長は、前回あれだけ頑に拒否した資料、すなわち、ダイオキシンが含有している可能性があるとしてメーカーに調査させた農薬30種のリストと17種のダイオキシンの分析結果を示す資料を提出してきました(下表参照)。
また、今年の3月に再度、メーカーに指示してダイオキシンの調査をさせているとのことですが、その簡単な概要も持ってきました。前回は、農薬メーカーへの指示書すら出せないといっていたものです。これは、遅くとも夏くらいまでに報告があがってくるだろうとのことでした。「で、ちゃんと公表するのですか」と聞くと、ダイオキシンが検出されたか、されないかに関わらず、農薬名、検出濃度を「メーカーの了解を得た上で」公表すると約束しました。
調査をする対象農薬は
@ベンゼン環に塩素がついている化学構造を有するすべての農薬
A化合物中に塩素がついているベンゼン環を含まなくても、合成過程で塩素がついているベンゼン環が関与することが明らかな農薬
B原体はダイオキシン類を含む可能性がないが、製剤化の過程でダイオキシン類が生成する可能性のある製剤、その他成分にダイオキシン類を含有する可能性がある製剤
とのことです。
製造工程でも塩素含有ベンゼン化合物を使用する農薬を分析対象としたのは、一歩前進といえます。ただし、上記@Aでは分析対象はすべて農薬原体となっているのは、問題です。なぜなら、実際に散布する農薬製剤の製造工程では、他の農薬との複合化や、粘土状物質・乳化剤・溶剤・展着剤・その他の添加剤の配合が行なわれますし、加熱処理することもありますから、原体にないダイオキシン同族体・異性体が製剤中に検出されることもおおいにあり得ます。従って、分析はすべての製剤に対して行なうべきです。
また、調査するダイオキシン類とは、毒性等価係数(TEF)の設定されている17種類のダイオキシン、ジベンゾフランのみとの説明でした。要するに2,3,7,8の位置に塩素がついているものだけで、CNPに含まれている1,3,6,8-四塩化ダイオキシンやパラチオンより急性毒性が強い1,2,4,7,8-五塩化ダイオキシンなどは調査しなくてもいいことになるのも問題として残ります。また、17種のダイオキシンの検出限界をTEFに応じて、同族体毎に1000倍の幅で設定しているのもおかしいことです。TEFが確定したものでないことを考えれば、検出限界は最も低い0.1ng/g以下に統一するのが筋でしょう。
登録されている農薬原体は約550種類ですが、@からBまでで大体100種類の農薬になるとのことでした。それで、万一、この中から17種類のダイオキシンが検出されたら、製造中止などの措置を取ると言っていましたが、登録取り消しは考えていないということなので、96年にダイオキシンが検出されたPCNBのようにこっそり製造中止にして闇から闇へ葬るつもりなのでしょう。
<トリップス協定はデータ非開示の根拠にならない>
突然の豹変ぶりには、こちらも驚きましたが、外務省が農水省にトリップス協定の解釈を講義したのかもしれません。外務省は、基本的に申請の際に出されるデータは開示されないが、公衆の保護に関する規定があるので、開示される場合もあるとして、ダイオキシンについては「特定の種についてはきわめて強い毒性がある。有害性にかんがみれば客観的情報はオープンにすべき」と話しました。農水省も「外務省からダイオキシンのデータは出すようにと言われたので」と洩らしていました。しかし、これを文書にして出してほしいというと、途端にトーンダウンしてわけがわからなくなります。外務省の文書というのはここまで言っていることと書くことが違うのかと驚いた次第です。
外務省のメモは以下のようなものです。
「1、TRIPS協定第39条3は、農薬等の販売申請の際に提出が求められるデータについては、原則として開示から保護される旨規定している。
2、他方、特定のケースが、開示の認められる公衆の保護に必要な場合に該当するか否かは個別具体的なケースに即して判断する必要がある。
本件の場合、ダイオキシンの強度の有害性については科学的にも異論のないところであるが、開示が認められるかどうかは、開示される情報の具体的内容、開示の具体的手法、公衆の保護の筆要請等を考慮した上で判断されるべきものと考える」
農薬の申請の際に提出が求められるデータは原則として開示しなくてもいいという解釈は東京高裁の判断よりずっと業界よりです。農水省とこんなところで合意しているのかもしれません。
外務省はダイオキシンのデータについて農水省に出せと言っておきながら、文書は何を言っているのかさっぱりわからないという不思議な関係になっています。
いずれにしても、TRIPS協定が情報隠しの隠れ蓑として使えないということだけは明らかになったと思います。
<資料:1996年度に実施した30農薬のダイオキシン類分析結果>
下記の30農薬のうちPCNBの7塩化ダイオキシン検出値13ppb以外は、いずれも検出界以下であった。
★対象農薬一覧
農薬活性成分名 用途 主な商品名
2,4−PA 除草剤 2,4−D
4−CPA 植物成長調整剤 トマトトーン
CVMP(テトラクロルビンホス) 殺虫剤 ガードサイド
CVP(クロルフェンビンホス) 殺虫剤 ビニフェート
ECP(ジクロフェンチオン) 殺虫剤 VC
MCPA(MCP) 除草剤 MCP
MCPB 除草剤 MCPB
MCPP(メコプロップ) 除草剤 MCPP
MDBA(ジカンバ) 植物成長調整剤 バンベルD
PCNB(キントゼン) 殺菌剤 ペンタゲン
TCTP(クロルタールジメチル) 除草剤 ダクタール
エトベンザニド 除草剤 ホドサイド
クロキシホナック 植物成長調整剤 トマトラン
クロメプロップ 除草剤 センテ
クロルフルアズロン 殺虫剤 アタブロン
クロロネブ 殺菌剤 ターサンSP
ジクロルプロップ 植物成長調整剤 ストッポール
ジメチルビンホス 殺虫剤 ランガード
テトラジオホン 殺虫剤 テデオン
トリアジメホン 殺菌剤 バイレトン
トルクロホスメチル 殺菌剤 グランサー
ビフェノックス 除草剤 モーダウン
ピラゾレート 除草剤 サンバード
フェノチオール 除草剤 ゼロワン
プロクロラズ 殺菌剤 スポルタック
プロチオホス 殺虫剤 トクチオン
プロフェノホス 殺虫剤 エンセダン
ペントキサゾン 除草剤 ベクサー
メトミノストロビン 殺菌剤 オリブライト
ルフェヌロン 殺虫剤 マッチ
★分析対象と検出限界
分析対象は2,3,7,8位置に塩素を含有する17種のダイオキシンとジベンゾフランである。それぞれの検出限界は以下のようで、TEF(2,3,7,8-四塩化ダイオキシン毒性等価係数)を乗ずるとすべて0.1ngTEQ/g以下になるよう設定されている。
ダイオキシン ジベンゾフラン
4塩化物 <0.1ppb 4塩化物 <1 ppb
5塩化物 <0.2 5塩化物 <0.2
6塩化物 <1 6塩化物 <1
7塩化物 <10 7塩化物 <10
8塩化物 <100 8塩化物 <100
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作成:1999-05-27