ダイオキシンにもどる
t09101#農水省、水田除草剤CNPから「有害ダイオキシン」検出を公表−今まで、「危険はない」といってきた責任はどう取るのか#99-07
★農薬対策室の懲りない面々
去る7月8日、農水省は水田除草剤CNP(商品名MO)に、TEFが設定されている17種類のダイオキシン類の分析結果(農水省はダイオキシン類210種類の中で、この17種だけが有害としている)が0.17〜62.0TEQng/gの濃度で検出されたことを公表しました。それまで、CNPに含有されるダイオキシンに危険はないといい続け、横浜国立大学の益永教授らの分析結果にけちをつけてきた彼らの責任は重いといわざるを得ません(てんとう虫情報88号に詳述)。
また、農水省の情報隠しは相変わらずで、当グループが7月7日に電話で回答を求めましたが、森崎農薬対策室長は、「ダイオキシンの調査結果ですか。いや、まだ、でておりません。一つだけ出てきたのがありますけれども、まだ、まとめて(ないので)、この間お話ししたように、8月頃を目処にという話で・・」と言っていました。その時に、彼らは翌日の記者発表の準備をしていたのです。ここまで平気で嘘がつけるとは思いませんでした。
8日に新聞記事を見て、農薬対策室に抗議し資料を求めると、CNPからダイオキシンが検出されたというだけで他に何の情報もない記者発表用のプレスリリースをファックスで送ってきました。「新聞記事には数値が出ているではないか」と聞くと、「あれは記者会見の席上で質問がでたので答ただけで、数値についてはまだプレスリリースはしておりません」とのことでした。
とにかく、もっとまともな資料を送るようにと伝えましたが、「室長以下、上の者は全然いないので、担当に伝えておきます」という話でした。この時も、彼らは2回目の記者発表の準備におわれていたわけです。おそらく、最初の記者発表の資料があまりにもお粗末だったので、記者たちから責められたのでしょう。9日の遅い時間に再び記者発表がおこなわれ、「CNP中の毒性ダイオキシン含有量」という表が発表されました。これは一応、サンプル別に17種類のダイオキシン量が示されていました。
また、「一部の農家においては、使い残し等のCNP剤が残存しているとの指摘があり、そのため、早急に回収を指導する」として、今さらながらCNPの回収を指示しています。94年にCNP追放運動の高まりの中で、厚生省がCNPのADIを取り消し、CNP剤は製造中止に追い込まれましたが、その時も一応、回収は行われました。当時の農薬対策室に回収状況を聞くと「約8割回収した。既に使われてしまったものもあるのでこれで十分と思う」という返事でした。私たちの100%回収すべきだという要望は無視されました(本誌23、24、26、31号参照)。
今年1月、横浜国大の益永教授らが農家の納屋に残っているCNP剤を集めて分析したことは、本誌88号で伝えていますが、回収漏れのCNP剤があちこちにあることが図らずもわかってしまったわけです。農水省としては、これ以上、分析されたらかなわないという思いもあったのでしょう。とにかく、もう一度回収するとのことです。
さらに、12日にCNPメーカーの三井化学が記者発表しています。中心は9日に発表された「CNP除草剤及び原体中の毒性ダイオキシン類(同族体別)含有量」ですが、こちらは分析者がスウェーデン・ウメオ大学のラッペ教授だと明らかにしています。ラッペ教授は83年、90年にもCNPの分析をしているとのことですが、その時は「毒性ダイオキシン」は確認されなかったが、今回、同教授が新たに開発した分析手法によって確認されたと説明されています。前回の分析では「毒性ダイオキシン」以外のダイオキシンが確認されていたのかもしれません。
三井化学は、7月10日の読売新聞が写真入りで、回収されたCNP剤が野積みされていると報じた記事を意識してか、「回収されたCNPはすべて大牟田工場の貯蔵施設で厳重に保管・管理されている」としています。原体、製剤あわせて8263トンのCNPが4箇所に分けられて保管されているということです。
★公表された農薬中のダイオキシン含有量
今回、農水省が公表した5種の農薬中のダイオキシン含有量は17種のTEFのあるダイオキシンのみを調査対象としたもので、2,4−PA、TPN、MCP、イミベンコナゾールのTEQ値は、すべて定量下限以下とのことです。
一方、三井化学製の除草剤CNPについては、最終有効年が1975から1995年である11の試料(粒剤:4、乳剤:6、83年製造の原体:1)が分析され、それぞれについて、17の同族体・異性体毎の数値が明かになっていますが、もっとも多く含まれる毒性がさだかでない1,3,6,8−四塩化ダイオキシンなどの量は不明です。公表された含有量データの一部を表に示しますが、同時に、横浜国立大学の益永の分析値(99年7月の公表)も同一単位に換算して載せてあります。益永報告では、もっとも毒性の強い2,3,7,8−四塩化ダイオキシンがいずれもNDとなっています。これについては、分析チャートにおいて、他の大きな異性体ピークの裾に乗っており、定量が不正確なため、NDとして、TEQには含めないこととしたとの断わりがあります。片や、三井化学の方は、いままで、頑としてその存在を認めなかった2,3,7,8−四塩化ダイオキシンをはっきり分離して定量しています。また、表で、明かな通り、三井化学の報告と益永報告とでは、個々のダイオキシンの含有量もTEQも大きな相違があります。
このあたりの疑問をはらすため、両者のサンプルをクロスチェックをするなどして、ぜひとも、含有量が違う理由を明かにしてもらいたいものです。
表 除草剤CNP製剤中のダイオキシン含有量
(単位:ng/g原体)
報告 三 井 化 学 調 査 益永報告(1999年7月発表)
剤型 粒剤 乳剤 乳剤 粒剤 粒剤 乳剤 乳剤 乳剤
最終有効年 1980 1986 1994 1995 1978 1983 1986 1989
2378-四DD 5.8 0.036 0.90 ND ND ND ND ND
12378-五DD 82 12 53 ND 9800 1700 9.5 1.4
123478-六DD ND ND 0.59 ND 280 140 ND ND
123678-六DD 59 120 40 ND 5900 1500 325 7.0
123789-六DD 20 82 20 ND 2000 650 120 2.6
1234678-七DD 9.6 58 11 ND 1400 375 36 1.3
八DD 0.68 5.8 0.63 0.33 100 8 3.1 0.42
2378-四DF 12 34 51 ND 120 ND 0.5 0.12
12378-五DF 2.9 8.2 27 6.6 ND ND ND 0.39
23478-五DF 4.9 0.6 2.2 ND 770 ND ND 0.15
123478-六DF ND 1.8 0.26 ND 48 ND ND ND
123678-六DF 0.62 0.86 1.5 ND 160 ND 28 0.8
234678-六DF 34 23 34 0.068 8900 1250 14 1.4
123789-六DF ND ND ND ND 22 ND ND ND
1234678-七DF 1.4 0.96 1.6 ND 210 49 2.1 0.12
1234789-七DF ND ND ND ND 2.7 1 0.12 ND
八DF ND ND ND ND 4.6 3.2 0.55 ND
国際TEQ 62 33 45 0.4 7000 1200 54 2.0
DD:ダイオキシン、DF:ジベンゾフラン、TEQ:2,3,7,8-四塩化ダイオキシン毒性当量
以上のような情報を整理して以下のような要望と質問を農水省、三井化学、労働省に送りました。
★農水省への質問・要望書
すでに、農薬中のダイオキシン含有量について、調査結果を明かにするようたびたび要望していますが、去る7月8日に記者会見で公表された5種の農薬の分析結果については、その公表内容が不十分ですので、以下の内容を公表するよう再度要望します。
@公表されたCNPなど5種の農薬について、分析に供した試料の生産メーカー、原体・製剤の別、製造年月、分析機関を明かにしてください。
A農薬中のダイオキシン含有量調査は、TEFの設定されているものだけでなく、他の毒性が不明の同族体・異性体についても分析を行なうよう指導してください(少なくとも、塩素数の異なる同族体毎に定量を実施すべきです)。また、ダイオキシン分析の定量限界をTEFに応じて設定していますが、すべての同族体・異性体について、もっとも定量下限の低いTCDD並の0.1ppb以下にして定量数値を公表してください。
Bいままで、貴省がメーカーの調査報告を鵜呑みにし、TEFの設定されているダイオキシンを含有しないとしてきた農薬の中に、新たにそのダイオキシンを含む農薬がでてきたことで、貴省の行政指導に対して不信感を覚えます。今後は、メーカーに分析結果を報告させるだけでなく、独自に分析し、その結果をクロスチェックするようお願いします。
除草剤CNPについては、今回の三井化学の報告と横浜国立大学益永報告とで、ダイオキシン含有量について、大きな差があります。相互のクロスチェックを行ない、その理由を明確にすることをのぞみます。
C現在実施している農薬中のダイオキシン調査はもちろんですが、いままでに、貴省に報告されたものについても、直ちに公表してくださるようお願いいたします。
★三井化学株式会社への質問・要望書
@貴社がダイオキシン含有量を測定したのは、どんな機関ですか。この機関を利用した理由は何ですか。
A貴社が測定に供したCNP試料について、その素性を明かにしてください。
CNP原体については、その製造年月。製剤については、農薬登録番号と製造年月、及び製剤工場。
B調査したCNP原体及び製剤中のダイオキシン分析結果について、調査したすべてのダイオキシン同族体・異性体(含むジベンゾフラン)の含有量を検出限界値とともに明かにしてください。
また、今回の報告だけでなく、いままでの分析知見についても、すべて明かにしてください。
C貴社ではCNP以外にもダイオキシンを含有する2,4,5−T、PCP、PCNBなどを製造販売されていましたが、製造当時の原体及び製剤ダイオキシン含有量について知見があれば、明らかにしてください。
D94年に貴社がCNP製剤の生産販売中止をした際には、回収に万全を期するよう要望いたしましたが、どの程度の量が回収され、その処理はどのようになされたか、教えてください。まだ、保管中の場合は、その場所、今後の処理計画を教えてください。
またPCNB製剤について、製造中止された年月、及び回収された場合は、その量と処理方法を教えてください。
E貴社で2,4,5−T、PCPを製造していた当時、労働者にクロロアクネなどの健康被害がで、職業病の認定を受けた方がでていますが、該当農薬工場で製造に携わっていた労働者のその後の健康状態は、いかがですか。その実態を公表してください。
F貴社の関連会社である農薬製剤工場三西化学(福岡県久留米市荒木町)では、PCPやCNP製造により、周辺住民が健康被害を受け、操業停止と損害賠償を求める民事訴訟がおきていました。83年7月に操業停止した同工場の跡地におけるダイオキシンの環境調査を実施し、その結果を明かにしてください。
G三西化学だけでなく、製剤工場である三中化学、三東化学、及び原体製造した大牟田工場でのダイオキシン環境調査を実施し、その結果を明かにしてください。
★労働省への要望書
99年7月8日に、農水省は三井東圧(現三井化学)で、製造された除草剤CNPにTEFの設定されているダイオキシン類が含有されていたことを認める報告を行ないました。同社では、かって、やはりダイオキシンを含む2,4,5−TやPCPなどの除草剤を製造しており、1960〜70年代に職業病と認定された従業員もでています。また、最近まで、製造していた殺菌剤PCNBにもダイオキシンが含有されており、同社は製造を自主的にやめています。
ダイオキシンは人に対する発癌性があるされており、厚生省や環境庁においても、いままでよりも厳しいTDIが設定され、ダイオキシン規制を目的とした法律も成立しました。貴省は、既に焼却施設での労働者をダイオキシン被害から守るための行政指導をされておりますが、農薬製造業の労働者についての対策は耳にしません。
つきましては、貴省におかれまして、以下の点を要望いたしますので、回答のほどよろしくお願いします。
@三井化学をはじめ、2,4,5−T、PCP、CNP、PCNBなどのダイオキシン含有農薬の原体及び製剤を製造していたすべての工場におけるダイオキシンの環境調査と従業員(職場を変更したものや退職者を含む)の健康調査を実施し、その結果を公表してほしい。
Aまた、既に職業病認定された労働者につきましては、その後の健康状態(死亡した場合は、死因など)を調査してほしい。
お忙しいとは思いますが、7月30日までにご回答下さい。
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作成:1999-7-27