農薬の毒性・健康被害にもどる
t09303#登録失効農薬について−回収義務づけの法改定を#99-09
当グループでは、このほど、農水省がまとめた登録失効農薬のリストを入手しました。86年に社会党を通して農水省に同様のリストの提出を求めた時には、「調査対象が膨大であり、調査には相当長時間を要するので、事実上提出は不可能である」との答えしか返ってこなかったことを思えば、今回は国会議員経由の資料請求から1週間も経たないうちに、リストが提出されたのですから、隔世の感があります。恐らく、登録農薬についてのデータベースが完備していることも一因だと思われますが、このような情報はインターネットなどで公開すべきものです。
ここでは、1989年以後に失効した農薬を下表に挙げておきます。売れなくなって製造をやめたり毒性が問題である農薬が混じっていますが、失効農薬は使用されることのないように回収すべきでしょう。
★登録失効した問題農薬
以下に、毒性や残留性に問題があると思われる農薬について、簡単に説明しておきますが、表の備考欄に塩素系と記したものはダイオキシンを含有する恐れがありますし、リン系やカーバメート系は、その慢性毒性が懸念されることをお忘れなく。
【2,4−PA系除草剤】では、ダイオキシンを含有し、環境ホルモンの疑いのある薬剤ですが、アミン塩が依然として登録されています。
【水田除草剤CNP】は胆嚢ガンとの因果関係が問題となり、94年3月にメーカーの三井東圧(現三井化学)が製造販売を中止しましたが、登録失効したのは、2年半後です。なお、CNP中のダイオキシン問題については、最近のてんとう虫情報を参考にしてください。
【DNBP】は動物実験で催奇形性が報告されていた除草剤です。
【DSMA】は砒素系の除草剤で、動物実験で、生殖毒性や催奇形性が認められていました。
【EDB】は土壌くん蒸剤や検疫くん蒸剤として多量に使用されたことがあり、発がん性や生殖毒性のある環境ホルモンの一種です。
【MCC】は、ダイオキシン同様クロロアクネをひきおこすテトラクロロアゾベンゼンを不純物として含みます。
【MCPB、MCPP、MCP】などの除草剤はダイオキシンを含む恐れのある除草剤で、表にある塩以外で、まだ登録されているものもありますから、要注意です。
【PCP】は、水田除草剤として大量使用され、多くの魚毒事件をおこし水質汚濁性農薬に指定された経緯があります。80年代後半からは殺菌剤用途に限られて登録が続いてきましたが、90年になってやっと失効したわけです。不純物として含有されていたダイオキシンは水田土壌にいまも残留しているだけでなく、シロアリ駆除剤としても使われたため、身近なダイオキシン汚染源となっているでしょう。環境ホルモン作用があることも心配です。
【TPTA、TPTH】は有機錫系の殺菌剤で神経毒性がある上、生態系への影響が懸念されていました。
【オキサジアゾン】は水田用除草剤として使われ、発がん性の疑いがあり、魚介類への蓄積が問題となりました。
【クレオソート】は農薬登録は失効しましたが、いまだ、木材防腐処理に使われている臭気の強い薬剤で、環境ホルモンのPAHが含有されています。
【クロメトキシニル】は、CNPと同系の水田用除草剤でダイオキシンを含有し、魚介類への蓄積が目立った農薬のひとつです。
【クロルベンジレート】はDDTと類似した構造をもつ殺虫剤で、発がん性があります。
【ダイホルタン】は発がん性のある殺菌剤です。
【ビンクロゾリン】は、環境ホルモン作用のある殺菌剤です。
【ホルムアルデヒド】は発がん性のある化合物(ホルマリンともいう)ですが、農薬としてよりも、衣類や文房具、日用品、家具・建材用樹脂など、身のまわりで多用されていることが問題です。室内汚染の結果、シックハウス症候群の原因になる人もでています。
★失効農薬を使用禁止し、回収を義務づけよ
農薬取締法によれば、製造販売される農薬は登録されていなければなりません。登録は3年間有効で、再登録しなければ、自動的に登録失効ということになり、製造販売できません。ほかに登録が失効するのは、製造メーカーが製造廃止届けを出した場合、毒性や環境汚染などが問題になり、農林大臣が使用規制をした場合などですが、後のケースはほとんどありません。毒性が原因であっても、そのことを明かにせずに、メーカーがこっそり製造をやめたり、再登録をしないで、農薬が市場から消えていきます。
また、失効した農薬を使用することは、法律上禁止されていませんし、たまに行政指導で、回収が指示されても、単に努力目標であって、義務はありませんので、農家の納屋に残っていたり、手持ちのものを使いきってしまうことが多々あります。本号で触れた野鳥怪死事件を報じた読売新聞の記事には、農家が所有していた農薬として28年も前に登録失効したDDTやパラチオンの写真が載っています。
毒性が問題となって登録が失効した農薬は、そのことを明確にした後、使用禁止や輸出禁止措置をとり、回収を義務づけるような農薬取締法の改定がのぞまれます。
★有効期限切れの農薬の回収も必要だ
たとえその農薬の登録が失効していなくとも、最終有効期限を過ぎた農薬をそのまま保管し、使うことにも問題があります。農薬製剤には、容器にその最終有効年月が記載されており、その殆どは、製造後3年にあたる年月となっています。有効年月を過ぎた農薬は、保存状態にもよりますが、分解も進んでいて、農薬としての有効性が失われているだけでなく、作物に薬害を与えたり、毒性や残留性が元の農薬よりも大きい有害な物質が生じている恐れもあります。たとえば、ジネブなどのジチオカーバメート系の殺菌剤は高温で保存すると有害なETUの含有率が高まりことがわかっています。また、製剤中に不純物として存在するダイオキシンの量が保存中にどのように変化するかを調べることすら行なわれていない点も懸念材料です。
農水省は、購入した農薬は、その年のうちに使いきってしまえと指導するだけです。農家が農協から購入するのは、予防的病害虫対策として過度の農薬使用を折り込んだ防除暦によるのですから、購入した農薬を使いきらずに、翌年以降に持ち越して、不要になった農薬がたまって、有効期限が過ぎてしまうことは、当たり前のことです。農家の多くが、このような期限切れ農薬をかかえこんでいる実情は、失効農薬をそのまま使用してしまうことや農薬安全使用基準を無視した適用外使用にもつながります。農家がストックしている有効期限が切れた不要農薬の回収を農薬販売店や製剤メーカーが責任をもっておこなうような制度と法の整備が必要です。
表 1989年以後に登録が失効した農薬リスト
農薬一般名 主な商品名 用途 失効年月日 備考
2,4-PAナトリウム塩 ローンキープ 除草剤 92/10/24 塩素系
2-ナフトール キヒテープ 忌避剤 92/04/09
BINAPACRYL アクリシッド 殺虫剤/殺菌剤 91/03/31
CNA レジサン 殺菌剤 94/03/10 塩素系
CNP MO 除草剤 96/09/29 塩素系
CPCBS(クロルフェンソン) サッピラン 殺虫剤 96/07/24 塩素系
DCV マツケミン 殺虫剤 95/04/27 ウイルス
DNBP(ジノセブ) プリマージ 除草剤 89/06/22
DNBPA(ジノセブアセテート) アレチット 除草剤 90/04/30
DSMA シバガード 除草剤 94/02/08 砒素系
EDB くん蒸用EDB 殺虫剤 90/12/18 臭素系
MAF モンガレ 殺菌剤 97/03/17 砒素系
MAFA ネオアソジン 殺菌剤 98/04/30 砒素系
MBPMC(テルブカルブ) リネルーブ 除草剤 98/07/09 カーバメート系
MCC スエップ 除草剤 94/04/25 塩素系
MCPB酸 クサキット 除草剤 91/02/28 塩素系
MCPBナトリウム塩 トロポトックス 除草剤 92/06/23 塩素系
MCPPナトリウム塩 DSCP 除草剤 93/03/12 塩素系
MCPアリルエステル アリルMCP 除草剤 90/10/21 塩素系
MCPカリウム塩 除草剤 90/02/28 塩素系
MCPヒドラジド マシバ 除草剤 94/10/19 塩素系
MPMC(キシリカルブ) メオバール 殺虫剤 94/01/29 カーバメート系
MTMC ツマサイド 殺虫剤 97/09/28 カーバメート系
PCP銅塩 アブトン 殺菌剤 90/06/26 塩素系
PCPナトリウム塩 PCP/クロン 除草剤/殺菌剤 90/02/19 塩素系
TCAカルシウム塩 ゲルバー 除草剤 92/07/28 塩素系
TCBA トリバック 除草剤 90/02/28 塩素系
TPTA スズ 殺菌剤 90/08/24 錫系
TPTH(水酸化トリフェニル錫 スズH 殺菌剤 90/08/24 錫系
こうじ菌産生物 アグリガード 殺菌剤 99/04/08
黄リン 猫イラズ 殺鼠剤 92/07/23 無機リン
酸化第二鉄 稔粉 忌避剤 95/06/08
次亜塩素酸カルシウム キャッチャー 殺菌剤 98/03/31 塩素系
酢酸 モミエース 殺菌剤 97/12/16
銅アンモニウム錯塩 コポックス 殺菌剤 93/04/08
アルキルベンゼンスルホン酸塩 プルーンS 植調剤 93/10/31
アロキシジム クサガード 除草剤 98/05/20
アンシミドール スリトーン 植調剤 96/07/14
ウニコナゾール スミセブン 植調剤 94/01/07
エースフェノン キャスタイト 除草剤 90/12/24
エチクロゼートナトリウム ルチエース 植調剤 93/07/31 塩素系
エトリムホス エカメット 殺虫剤 93/04/09 リン系
オキサジアゾン ロンスター 除草剤 95/04/14 塩素系
オリエンティールア チャハマキ性フェロモン その他 99/07/11
キンクロラック ファセット 除草剤 99/04/10 塩素系
クレオソート キヒコートO 忌避剤 92/02/13
クロメトキシニル エックスゴーニ 除草剤 97/04/20 塩素系
クロルベンジレート アカール 殺虫剤 94/06/26 塩素系
サリチオン サリチオン 殺虫剤 94/05/12 リン系
シリロシド ネズミン 殺鼠剤 93/12/10
ジケグラック アトリナール 植調剤 96/09/24
ジフェナミド エナイド 植調剤 95/01/26
スルファミン酸塩 リンチプレート 除草剤 91/05/15
ダイホルタン ダイホルタン 殺菌剤 89/12/25 塩素系
チアザフルロン エルボタン 除草剤 99/03/28
テトラヒドロチオフェン ヤガミン 忌避剤 97/03/31
テレピン油 T-7.5-E 誘引剤 93/09/17
テレフタル酸銅 ボルコン 殺菌剤 96/04/13
トリクラミド ハタクリン 殺菌剤 93/08/31 塩素系
ニコチン酸アミド カケンタミン 植調剤 91/07/30
ニトラリン プラナビアン 除草剤 91/01/31
ノボビオシン ノボビオシン 殺菌剤 89/05/01 抗生物質
ノルフルラゾン ゾリアル 除草剤 89/06/25 塩素系
バーナレート バーナム 除草剤 90/09/25
パラホルムアルデヒド ホルサイド 殺菌剤 90/12/25
ビスチオセミ カヤネックス 殺鼠剤 92/08/29
ビンクロゾリン ロニラン 殺菌剤 98/04/14 塩素系
ピラゾホス アフガン 殺菌剤 99/07/11 リン系
フェナジンオキシド フェナジン 殺菌剤 91/05/18
フェノキシカルブ インセガー 殺虫剤 96/11/07 カーバメート系
プロパジン ゲザミル 除草剤 91/12/12 塩素系
ヘキサジノン ベルパー 除草剤 99/04/08
ベンゾメート シトラゾン 殺虫剤 98/08/03 塩素系
ホサミンアンモニウム クレナイト 除草剤 94/01/30 リン系
ホスダイフェン カスバロン 殺菌剤 94/01/12 リン系/塩素系
ホルムアルデヒド ホルマリン 殺虫剤/殺菌剤 90/11/22
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作成:1999-09-27