ダイオキシンにもどる
t09305#埼玉県幸手市の倉庫火災によるダイオキシン−同族体・異性体構成からみえること#99-09
6月に発生した殺虫剤火災に伴なうダイオキシンの環境調査結果の詳細が、埼玉県から送られてきました。大気汚染濃度については、試料採取が火災発生から6日後のせいだったためか、対照地区と大きな違いがみられませんでしたが、土壌試料については、下表にみられるように、火災による新たなダイオキシン類の発生の影響がはっきりとみられました。
報告書では、コプラナーPCBのデータもありますが、紙面の都合で、ここでは、ダイオキシン(表中DD)とジベンゾフラン(DF)の同族体・異性体の検出結果をまとめてみました。従来のように、ダイオキシン類をTEQのみで評価していては、TEFがゼロとなっている他の同族体・異性体の毒性・残留性が見落とされ、環境汚染と原因物質の追及がおざなりになるので、今回のようなに詳細なデータを公表してもらう必要があります。
@DDとDFの含有量
全DD+DF含有量は、隣接地土壌(a)で6200ppt、風下320m地点土壌(b)で3200pptとなっており、それぞれ、対照土壌(c)の14.4倍、7.4倍であった。このことは、火災によって新たにダイオキシンが生成したことを示唆している。
また、土壌(a)における2378−四塩化DF以外の同族体・異性体の含有量は、すべて対照土壌(c)に比べて高いが、増加率は同族体・異性体によって異なっている。なかでも、DD類の含有量の高まりが顕著である。表の右欄に示した土壌(c)に対する土壌(a)含有のDD類比率が15以上のものについては、同族体・異性体の頭に↑印をつけた。
A同族体・異性体構成比
火災によって生ずるダイオキシン類のために、隣接土壌(a)中の個々の同族体・異性体の含有率(表中括弧内の数値)は対照土壌(c)のそれと異なっているものが多い。特に、DD類の含有率が対照土壌(c)よりも高いのに対し、DF類の含有率では、低くなっているものが多い。
BS−421などの塩素含有化合物の影響
今回の結果から、殺虫剤に含まれる塩素系化合物S−421が、火災による新なダイオキシン生成に寄与していることは否定できないが、その程度は不明である。ダイオキシン同族体・異性体の中では、八塩化DDや四塩化DD(1368-、1379-異性体が多い)、七塩化DDの含有量が高いことが注目される。
CTEQへの寄与
土壌(a)に含有されるDD+DFのTEQ値は35pg/gであるが、この数値に対する
同族体・異性体の寄与率は、23478-五塩化DFが最も高く26%、ついで234678-六塩化DFが14%、12378-五塩化DDの9%の順となっており、この3者で約半分を占める。
火災時に発生するダイオキシンの調査報告は殆どなく、十分な考察をすることはできません。今後、火災関連データを蓄積するとともに、身のまわりで塩素系化合物を使う場合、その物質が火災によってどの程度のダイオキシン発生源となるかを予め検討しておく必要があるでしょう。
表 土壌中のダイオキシン類含有量調査結果
<単位:pg/g=ppt、()内の数値はダイオキシン含有比率%>
試料 土壌(a) 土壌(b) 土壌(c) 土壌(c)に
採取場所 隣接地 風下350m 風下1.6km 対する(a)含有
農協ライスセンター 第二浄水場 権現堂小学校 DD・DFの比率*
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2378-四DD 1.2 (0.019) 1pg/g以下 1pg/g以下 2.4
↑ 1368-四DD 970 (15.65) 420 (13.13) 35 (8.14) 27.7
↑ 1379-四DD 320 (5.16) 160 (5.00) 13 (3.02) 24.6
↑ 全四DD 1300 (20.97) 600 (18.75) 61 (14.19) 21.3
12378-五DD 6.3 (0.10) 1.7 (0.053) 1pg/g以下 12.6
↑ 全五DD 270 (4.35) 100 (3.13) 16 (3.72) 16.9
123478-六DD 9.6 (0.15) 3.5 (0.11) 2pg/g以下 9.6
123678-六DD 15 (0.24) 7.6 (0.24) 2.0 (0.47) 7.5
↑ 123789-六DD 16 (0.26) 4.1 (0.13) 2pg/g以下 16
全六DD 240 (3.87) 71 (2.22) 19 (4.42) 12.7
↑ 1234678-七DD 220 (3.55) 86 (2.69) 11 (2.56) 20
↑ 全七DD 480 (7.74) 170 (5.31) 23 (5.35) 20.9
↑ 八DD 2700 (43.55) 1700 (53.13) 110 (25.58) 24.5
↑ 全ダイオキシン 5100 (82.26) 2700 (84.38) 230 (53.49) 22.2
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2378-四DF 6.9 (0.11) 1.8 (0.056) 20 (4.65) 0.3
↑ 1368-四DF 8.1 (0.13) 35 (1.09) 1pg/g以下 16.2
全四DF 240 (3.87) 110 (3.44) 88 (20.47) 2.7
12378-五DF 13 (0.21) 5.3 (0.17) 7.5 (1.74) 1.7
23478-五DF 18 (0.29) 6.8 (0.21) 3.9 (0.91) 4.6
全五DF 290 (4.68) 110 (3.44) 42 (9.77) 6.9
123478-六DF 23 (0.37) 9.3 (0.29) 5.5 (1.28) 4.2
123678-六DF 23 (0.37) 8.4 (0.26) 3.2 (0.74) 7.2
123789-六DF 6.1 (0.10) 2.9 (0.09) 2pg/g以下 6.1
234678-六DF 48 (0.77) 20 (0.63) 4.0 (0.93) 12
全六DF 310 (5.00) 130 (4.06) 29 (6.74) 10.7
1234678-七DF 130 (2.10) 58 (1.81) 14 (3.26) 9.3
1234789-七DF 21 (0.34) 11 (0.34) 2.5 (0.58) 8.4
全七DF 250 (4.03) 130 (4.06) 28 (6.51) 8.9
八DF 90 (1.45) 56 (1.75) 9.3 (2.16) 9.7
全ジベンゾフラン 1200 (17.74) 530 (15.63) 190 (46.51) 6.3
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全DD+全DF 6200 (100) 3200 (100) 430 (100) 14.4
pgTEQ/g 35 14 6.2 5.6
*:土壌(c)の検出量がND(検出限界以下)の場合は、その半数値をベースに比率を
算出した。
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作成:1999-10-27