ダイオキシンにもどる
t09501#57農薬でダイオキシン含有量はTEQ値検出限界以下というが−農水省の調査報告は疑問だらけ#99-10
 てんとう虫情報89号の記事にあるように、今年の3月、農水省は私たちに対して、約100種の農薬中のダイオキシン含有量を調査し、公表することを約束しました。その後、同省は7月にCNP、2,4−PA、TPN、MCP、イミベンコナゾールの5農薬について調査結果を明かにしただけで(てんとう虫情報91号参照)、そのままになっていました。何度かデータ公表を求めた結果、このほど、57種の農薬についての調査結果が明かになりましたが、結果は、すべての農薬について、含有ダイオキシンのTEQ値は検出限界以下ということでした。
 ここでは、報告にあった農薬がどのようなものであるかを示すための一覧を表1のようなかたちでまとめてみました。同表には、調査した農薬の原体名(活性成分)、用途及び主な商品名、生産量(表中で剤は製剤、その他は原体の生産量。()は1996農薬年度の、他は1997年度の生産量。*は輸入量)、及び原体の化学構造の分類を示しました。

★化学構造との関係
 化学構造中に塩素を含む化合物はすべて、ダイオキシンを不純物として含有している可能性があります。なかでもベンゼン核に塩素が結合した塩素化ベンゼン類や塩素化フェノール類を合成原料として使用する場合には、副生されるダイオキシンの種類や量が多いと考えられます。また、最終化合物中に塩素を含まなくとも、原体の製造過程で中間化合物として塩素含有化合物を使用している場合もダイオキシンが不純物として混入してくる恐れがありますし、製剤の添加剤に塩素系の化合物が配合されている場合もあります。
 表1の化学構造欄におおまかな構造上の分類を示しましたが、ここでの記号は次のような構造を有することを意味しています。
 
 0:原体の化学構造単位中に塩素をもたない
 T:ベンゼン核に1個の塩素が結合した構造単位を有する
 T’:ベンゼン核以外に結合した塩素を1個有する
 U:ベンゼン核に2個の塩素が結合した構造単位を有する
 V:ベンゼン核に3個の塩素が結合した構造単位を有する
 W:ベンゼン核に4個の塩素が結合した構造単位を有する

 原体の化学構造中に塩素を含まない記号0の農薬については、農水省はメーカーから提出された製造工程や製剤成分の資料から、ダイオキシンが含有される恐れがあると判断して調査対象に選んだと思われますが、今回の発表では、分析対象が原体か製剤かの区別が明らにされていません。
 I、U、V、Wはそれぞれ、ベンゼン核に1から4個の塩素が結合した構造をもつ化合物であることを意味しており、一般に、塩素数が多いほど含有されるダイオキシンの種類や量が多いと考えられます。また、ダッシュをつけたものは、ベンゼン核以外に塩素が結合しているものです。
 表に挙げられた農薬は、いずれもTEQが検出限界以下というものの、全ダイオキシン含有がゼロであるかどうかはわかりません。原体生産量の多いものは、作物汚染や環境汚染につながりやすいので、年間200トンを超えるエトフェンプロックス、キザロホップエチル、トリフルラリン、トルクロホスメチル、フサライド、プロシミドン、ペンシクロンなどの農薬にTEQ値に表われない、どのようなダイオキシン同族体・異性体が含まれているか気にかかるところです。
表1 ダイオキシン類含有量調査対象農薬一覧

農薬原体名      用途           主な商品名  生産量(トン) 化学構造分類

DBN             除草剤         カソロン         97.5*      U
ECP             殺虫剤         VC           102.3      U
IPC             除草剤         クロロプロファム    78.5       T
MCPB            除草剤/植調剤  MCPB/マディック  (200.2/)   T
TCTP            除草剤         ダクタール       剤4.8      W
イナベンフィド       植調剤         セリダード      52.4       T
イプコナゾール       殺菌剤         テクリード       24.0       T
ウニコナゾールP       植調剤         スミセブン       76.0       T
エスフェンバレレート     殺虫剤         スミアルファ                  T
エチクロゼート        植調剤         フィガロン       2.9        T
エトキシスルフロン       除草剤         トップラン                  0
エトフェンプロックス     殺虫剤         トレボン        384.5      0
エトベンザニド      除草剤         ホドサイド      11.2       U
オリザリン          除草剤                                 0
カルプロパミド      殺菌剤         ウイン                     Tと2個のT'
キザロホップエチル     除草剤         タルガ         403.4      T
クミルロン           除草剤         ガーミラ                   T
クロキシホナック        植調剤         トマトラン                   T
クロフェンテジン       殺虫剤         カーラ          剤38.0*    2個のT
クロメプロップ       除草剤         センテ          (8.5*)     U
クロルフェナピル       殺虫剤         コテツ                     T
クロルフタリム         除草剤         ダイヤメート      9.0        T
クロロネブ          殺菌剤         ターサンSP       剤64.0*    U
クロロファシノン        殺鼠剤         ネズコ                    2個のT
シラルフルオフェン       殺虫剤         ジョーカー       38.6*      0
ジクロメジン        殺菌剤         モンガード      55.0       U
ジフルベンズロン     殺虫剤         デミリン        (5.0)      T
テクロフタラム         殺菌剤         シラハゲン                  WとU  
テトラコナゾール       殺菌剤         ホリガード                 U         
テトラジホン         殺虫剤         テデオン        16.0*      VとU  
テフルベンズロン      殺虫剤         ノーモルト        8.0*       U
テブコナゾール       殺菌剤         シルバキュア      27.0*      T
トリアジメホン        殺菌剤         バイレトン       5.0*       T
トリアジン          殺菌剤         アニラジン       43.4       Tと2個のT'
トリフルミゾール       殺菌剤         トリフミン                   T'
トリフルラリン         除草剤         トレフアノサイド    245.0*     0
トルクロホスメチル       殺菌剤         グランサー       523.0      T
ビフェノックス        除草剤         モーダウン       -          U
ピラクロホス         殺虫剤         ボルテージ      55.2       T
ピラゾレート        除草剤         サンバード      137.4      U
フェナリモル          殺菌剤         ルビゲン       7.0*       2個のT
フェノキサプロップエチル  除草剤         フローレ                    T
フェンバレレート       殺虫剤         スミサイジン      156.0      T
フサライド          殺菌剤         ラブサイド      750.4      W
フラメトピル         殺菌剤         リンバー                   T'
フルバリネート        殺虫剤         マブリック       23.8       T
プロクロラズ        殺菌剤         スポルタック      6.8*       V
プロシミドン        殺菌剤         スミレックス       685.8      U
プロチオホス         殺虫剤         トクチオン        126.0*     U
ヘキサフルムロン        殺虫剤         コンセルト                   U
ヘキシチアゾクス       殺虫剤         ニッソラン        50.5       T
ベンゾフェナップ     除草剤         ユカワイド       142.1      U
ペンシクロン         殺菌剤         モンセレン        227.0*     T
ペントキサゾン       除草剤         ベクサー                   T
ホサロン            殺虫剤         ルビトックス      33.0*      T
メタスルホカルブ       殺菌剤/植調剤  カヤベスト                  0
メトミノストロビン      殺菌剤         オリブライト                 0
★TEQのみではダイオキシン評価はできない
 農薬中には、原料化合物の純度や製造反応条件によって、さまざまな種類のダイオキシンが副生し、原体や製剤中に不純物として混入してきます。しかし、分析対象となっているのは、210種の同族体・異性体中で、TEFがゼロでない17種(2378位置に塩素を有するもの)だけしかありません。しかも、同族体・異性体毎に検出限界を100ppt〜1000ppbの幅で設定しているという問題点もかかえています。
 農水省が調査するようメーカーに求めたのは、17種のダイオキシンの含有量のみで、公表したのはそれにTEFを乗じたものの総和であるTEQ値です。ダイオキシンの毒性については、不明なものが多く、TEFも確定したものでないため、17種のダイオキシンについては検出感度をあげた実測値を、また一〜八塩化物の異性体については各々の総量を調査して明かにすべきです。TEFがゼロとされている193種のダイオキシン同族体・異性体の毒性がないとはとてもいえないことを考えれば、今回の報告は、決して農薬についてのダイオキシン安全宣言ではないといえます。

★農作物へのダイオキシン汚染に対する農薬の寄与は不明
 農作物に含まれるダイオキシンは、散布される農薬以外に土壌・水・大気の一般環境のダイオキシン汚染の程度も反映されます。
 農作物の可食部にどの程度のダイオキシンが検出されているかについては、厚生省や地方衛生研究所の食品群別の調査や作物別の調査報告がありますが、そのダイオキシンが農薬に由来するか環境汚染に由来するかを明確に区別した調査はありません。
 土壌に残留した農薬やその不純物の作物に対する残留性には、作物や薬剤の種類により特徴があります。たとえば、ディルドリンはキュウリへの、HCBはニンジン・カブ・ジャガイモ・落花生などへの残留性が高いことが知られています。
 ダイオキシンについては、有色野菜や油脂分を多く含む作物への蓄積の程度は高いと思われますが、どのような同族体・異性体が、どのような作物に残留しやすいかについての、きちんとしたデータはありません。
 ダイオキシン含有量1ppm(=μg/g)の農薬が1ppmの濃度で農作物に残留している場合、ダイオキシン濃度は1ppt(pg/g)であるといった、単純なものではないので、今後、より一層の精密な研究が必要ということになります。

★農薬によるダイオキシン汚染は魚介類汚染につながる
 環境庁が本年9月に農用地土壌のダイオキシン調査結果−六種の農作物を栽培する農耕地の土壌中のダイオキシン濃度のTEQ値(ダイオキシンとジベンゾフランとコプラナーPCBの合計量)−を表2のようにまとめてみました(参照:環境庁報道資料)。なお、下の二つは、環境庁の別の報告による市街地とそのうちのバックグラウンド地の土壌ダイオキシン濃度です。
 この調査結果は、栽培した農地で過去及びその作物の栽培中にどのようが農薬が使用されたかのデータがない上、栽培地域における一般環境のダイオキシン汚染の影響も受けている総合的な土壌汚染の状況を示すもので、農薬の寄与率を云々するものではありません。
 表2から明かなように、水稲を除く農耕地土壌のダイオキシン濃度の最大値及び平均値は、バックグラウンド地土壌よりも高く、市街地土壌−農薬由来のダイオキシンの寄与が少ないと思われる−の濃度範囲内にはいています。しかし、水田土壌のみは、最高130pgTEQ/g、平均52pgTEG/gと群を抜いて高い濃度であることがわかり、一般環境汚染の範囲をこえるダイオキシン汚染があることを示唆しています。
 このことは、ダイオキシン含有量の高いPCPやジフェニルエーテル系水田除草剤(CNP、NIP、クロメトキシニルほか)が、過去30年近くにわたって使用され続けられたことと無関係ではないでしょう。しかも、これらの除草剤に多く含まれる八塩化ダイオキシンや1,3,6,8−四塩化ダイオキシンのTEFは前者が0.001、後者がゼロとなっていて、TEQへの寄与率が低いことを考えれば、総ダイオキシン濃度はもっと高くなるでしょう。また、農薬中の不純物としてのダイオキシンだけでなく、残留していた農薬が水田での稲ワラ焼却などの加熱燃焼反応により、あらたなダイオキシンを生成していた可能性も否定できません。そして、これらのダイオキシンは農作物汚染にもまして、水系汚染へとつながり、魚介類へ1000倍ないし1万倍以上の濃縮率で取り込まれている恐れが大であることを見逃がしてはなりません。
 農薬由来のダイオキシンが農作物を通して、人の口に入るだけでなく、土壌・大気・水系汚染を、それにつながる魚介類、さらには牧草や飼料経由による畜産物を通して、人体や母乳中に蓄積してくることをきちんととらえた対策が必要です。
表2 農用地土壌中のダイオキシン濃度
  (環境庁:1999年9月公表、単位:pgTEQ/g)

  栽培作物    最大値   最小値    平均値
  キャベツ         65      1.5        21
  サツマイモ         30      0.066      11
  水稲         130     15         52
  ダイコン         17      2.7        8.3
  ジャガイモ       39      0.16       19
  牧草          27      0.56       8.6
  市街地        61      0.0015     6.5
  バックグラウンド    5.6    0.26       1.8

★農水省がやるべきダイオキシン対策はまだまだある
 ダイオキシン含有農薬のチェックは、当然ながら、農薬取締法を管轄する農水省の役割ですが、同省は、いままで、ダイオキシンを含有する農薬、特に水田除草剤の使用を有害ダイオキシンを含まないとして放置してきましたし、現在でも、農薬メーカーに分析結果の報告を求めるだけで、独自の調査をしようとしません。それどころかCNPやPCPの例にみるように、有害ダイオキシンを含むことを明かにした大学の研究者の報告にケチをつけることすらします(てんとう虫情報88号参照)。このような農水省の態度が、前述のような水田土壌のダイオキシン含有量の高さにつながったといっても過言ではありません。
 農水省は独自に、農薬中に含まれるダイオキシン等の不純物の検査をすべきです。CNPについていえば、横浜国立大学と三井化学の分析結果の相違の原因を、試料処理や分析方法を含め、きちんと解明することにも責任をもち、農薬製品の保存状態によって、ダイオキシン含有量がどのように変化するかを検討することものぞまれます。
 農薬の有効年月が過ぎたものや農家の納屋に保管されている登録失効農薬に含まれるダイオキシンがいつ環境を汚染しないとも限りません。PCPやCNPの農薬登録が失効して、汚染問題は片付いたわけではありません。未回収のダイオキシン汚染農薬(最近ではCNP、古くは、BHCほかの有機塩素系農薬)が、使用されたり、輸出されたりすることのないよう、回収と安全処理を義務づけるよう農薬取締法の改定が必要です。
 さらに、最近、農薬工業会みずからが農水省に対して無登録農薬の取締りを強化してくれといっている現実も懸念されます。なぜなら、無登録農薬は、粗悪原料を使用し、登録農薬より多くのダイオキシン不純物を含んでいる恐れがあるからです。
 おわりに、農薬とダイオキシンに関しては、いままでに本誌で何度も述べてきたように、農薬の原体・製剤工場からの環境汚染や工場労働者や農民の健康への影響など、調査すべき問題が山積みになっていることも指摘しておきたいと思います。

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作成:1999-10-27