環境汚染にもどる
t09801#これでは、環境汚染・健康被害防止に役立たない−「PRTR法」に対して意見書提出#00-01
 99年7月「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善促進に関する法律」(通称PRTR法)が公布されました。この法律の目的は、有害性が判明している化学物質について、人体等への悪影響との因果関係の判明の程度に係わらず、環境中への排出を減らそうとすることにあります。
 そのため、事業者に対して、@化学物質の排出量の届出(PRTR=環境汚染物質排出移動登録制度)とA化学物質安全性データシート(MSDS)の交付が義務付けられることになりました。
 農薬については、法制定に先立つ2月に、農薬工業会が@農薬取締法に基づき登録された農薬は、PRTR法に該当しない、A農地への農薬散布は(PRTR)法の対象外となる、などの要請を行なっていました。
 一方、私たちが農薬及びその関連製品による環境汚染・健康被害防止のためにいちばん知りたいのは、どのような毒性をもつどんな化学物質が、何時、どこで、どの程度使用されているかということです。PRTR法がそのような情報の入手に役立つことを期待していたわけですが、中央環境審議会がこのほど提案した政令案は、そんな希望にほど遠いものでした。
 政令案では、第一種指定化学物質の選定基準を「農薬については使用形態から見て明かに環境中に放出されやすい物質であることから、年間10トン以上の物質を選定することが適当である」として、農薬活性成分119物質が指定されました。また、第二種指定化学物質として、農薬18種が指定されました。
 しかし、指定化学物質を含有する製品の要件については、「発癌性の疑いのある物質の場合は、0.1%以上、その他は1%以上含む製品を対象する」とされました。これでは、粉剤や水和剤などの中には、法律の対象外となってしまうものもでてきます。
 さらに、最大の問題点は、事業者としてPRTR提出が義務付けられるのは「常用雇用者数21人以上。年間取扱量1トン以上」の者であり、農薬製造メーカーや販売業者は該当するものの、農薬を使用する中小及び個人の農林水産関連業者やシロアリ防除剤・防疫薬剤散布業者等が法の適用を受ける事業者の対象から除かれていることです。
 法律においては、事業者の定義として「業として第一種指定化学物質又は第一種指定化学物質を含有する製品であって政令で定める要件に該当するものを使用する者」が挙がっているにもかかわらず、運用面では「業種ごとに第一種指定化学物質等の取扱等の様態を勘案し、定点における排出量の把握自体が困難である場合、業の特性として個々の事業者による取扱量が少ない場合等、届出義務を課すことによって、事業者の負担が排量等の把握により得られる効果に比して、相対的に過大となる場合においては、そのような業種について、個々の事業者に届出義務を課さずに国が推計により排出量を把握することが適当である」との考えが示され、大部分の農薬及びその関連製品の使用者からの情報は、単に、監督省庁による推計値にすりかえられることになってしまいました。
 そこで、 中央環境審議会環境保健部会が、11月19日に、PRTR法の対象となる化学物質、製品の要件、対象事業者の案を公表し、これに対する意見の公募をしたのを契機に、当グループは、農薬に焦点をあて、以下のような意見を提出しました(環境庁報道発表資料へ)。

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宛先:中央環境審議会環境保健部会事務局
【1】対象化学物質について
意見(1)
 農薬の活性成分はすべて、第一種指定化学物質とすべきである。

 理由(1−1):農薬は、農業用だけでなく、同じ化学物質を含む製品が、
  非農耕地で使用される薬剤、家庭用殺虫剤、シロアリ駆除剤、木材処理
  剤、防疫用薬剤、工業用殺菌・抗菌剤、衣料防虫剤、その他さまざまな
  分野で用いられている(以下、これらを農薬関連製品という)。
  農薬及びその関連製品を合計した総量を指定化学物質選定基準とすべき
  である。仮に、農薬としての数量が少なくともその他の分野での数量を
  あわせると選定基準の年間数量を超えることもあろう。
 理由(1−2):類似した化学構造を有する農薬は一連の物質群として取
  扱い、その総量を指定化学物質の選定基準とすべきと考える。

意見(2)
 農薬やその関連製品に含まれる活性成分以外の溶剤、界面活性剤、警戒剤、
 共力剤、その他の添加剤についても、どのような化学物質が使用されてい
 るかを調べ、有害なものは第一種指定化学物質に組み入れるべきである。
 例えば、家庭用殺虫剤やシロアリ防除剤に添加されている共力剤S−421
 (オクタクロロジプロピルエーテル)は、一般環境よりも、室内汚染度が
 高く、母乳中にも検出されており、第一種指定化学物質に組み入れる必要
 がある。
 理由:農薬及びその関連製品に含まれる化学物質は、環境中に放出される
  ものであり、製剤成分が生態系や人の健康に影響を与える恐れが強い。

意見(3)
 第二種指定化学物質案にあるアミトロールは、登録が失効しているにもか
 かわらず、環境中に見出だされているため、第一種に指定して、汚染源を
 調査すべきである。

意見(4)
 農薬及びその関連製品に含まれるダイオキシン類はその含有量の報告を義
 務づける必要がある。

【2】製品の要件について
意見(5)と理由
 農薬及びその関連製品については、環境中に放出することが避けられない
 から、活性成分の含有量のいかんにかかわらず(活性成分0.1%以下の
 農薬製剤も販売されている)、第一種指定化学物質とすべきである。また、
 有害性のある不活性成分についても同じである。

【3】PRTR対象事業者について
意見(6)
 農林水産業業者、非農耕地用農薬散布業者、防疫用薬剤散布業者、シロア
 リ防除業者などの農薬及びその関連製品の使用者(=散布者)は個人か事
 業体であるかにかかわらず、すべて事業者とすべきである。

 理由(6−1):農薬は農薬取締法、家庭用殺虫剤は薬事法というような
  縦割り行政による推計は正確性を欠くため、本法律で、一元管理するの
  が筋である。
 理由(6−2):農薬取締法にもとづいて収集される、農薬の都道府県別
  出荷量は、その地域での使用量と一致しておらず、これを元にした地域
  別推計は正しくない。
 理由(6−3):農薬及びその関連物質の使用量は、個人や小規模事業者
  による比率が高く、案にある雇用者21人以上/年間取扱量1トン以上
  の事業者は限られている。もっとも情報公開が必要とされる化学物質の
  地域別放出量を知ることができない。
 理由(6−4):過去において、農薬BHC・DDT・PCP・CNP等、
  シロアリ防除剤クロルデン、魚網防汚剤TBTによる水系汚染や魚介類
  汚染が深刻になったのは、個人や小規模事業者の広範な使用によったた
  めである。地域的な汚染を防止するには、環境に放出する末端使用者か
  らの情報を把握することが重要である。

意見(7)
 自治体の管理する施設での農薬及びその関連物質の使用は、外部業者に散
 布を委託するか否かにかかわらす、自治体が使用量を報告すべきである。

意見(8)
 以下の業種も農薬及びその関連製品を使用しているため、報告漏れないよ
 う注意されたい。

 農業関係:農場・牧場などの事業者、魚貝類の養殖業者、造園業者、シロ
  アリ防除業者、木材処理業者、農薬空中散布業者、公園・街路樹・鉄道
  敷地・道路・河川敷・堤防・ゴルフ場などにおける農薬散布業者。

 ゴミ関係:ゴミ処分場、中間処分場、埋立処理場、集積場、焼却場、下水
  処理場などにおける薬剤散布業者。

 建材関係:一般住宅、公共住宅、集合住宅、病院、幼稚園・学校、図書館、
  博物館、その他の公共施設、オフィスビルなどでの農薬散布業者。
  畳業者。建材業者。家具製造業者。
 交通関係:電車・バス・航空機などにおける薬剤散布業者。

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作成:2000-01-30