ダイオキシンにもどる
t102012#ISO14001環境規格はダイオキシン汚染事故を防げなかった−荏原製作所のISO認証返上をめぐって#00-05
 荏原製作所は、早くから、国際環境規格ISO14001を取得し、産業廃棄物の削減、排水・排ガス汚染物質の削減、梱包材の有効活用、紙の分別・リサイクル・裏紙コピー、廃棄物の分別・リサイクル、エコマーク事務用品利用、社内緑化推進、社員及びその家族への教育啓蒙活動などを実施しており、環境意識の高い企業というイメージを与えていました。
 その企業ですら、ダイオキシンの垂れ流しを防止できず、藤沢工場のISO14001認証を返上することになったのは、どこに問題があったのでしょうか。荏原製作所への質問で、藤沢工場は、横浜市にある審査登録機関エスジーエス・アイシーエス・ジャパン(以下SGSと略)から97年2月5日にISO14001認証を取得し、2000年2月8日に更新審査を受けた旨の回答を得ました。反農薬東京グループはSGSへ認証機関の責任などについて質問しました。
 SGSは審査に問題はなかったと繰り返し、ISOの限界を主張しました。ということは、ISO14001が荏原製作所のダイオキシンの垂れ流しをチェックできないばかりでなく、環境保全の切り札のように思われていること自体が間違いだというです。ISO14001は認証を受けた企業などが自主的に申告した環境保全に関する項目をチェックするだけのものです。自分たちの環境への取り組みを認証機関に審査してもらうだけのことですから、それを考えると地方自治体などが税金を使って高い認証料を払うのは税金の無駄遣いとも言えます。今後、こうした方面にも目を向けていく必要がありそうです。

★ISO140001規格とは
 ISOはスイスに本部を置く国際標準化機構の略称です。14001規格は、国際的に通用する環境マネジメントシステムに関するもので『全体的なマネジメントシステムの一部で、環境方針を作成し、実施し、達成し、見直しかつ維持するための、組織体制、計画活動、責任、慣行、手順、プロセス及び資源を含むもの』となっています。これと同等の日本工業規格が96年10月20日、JISQ14001として制定されています。
 ISO14001規格に適合するために、事業所は、自らの事業遂行にあたり、どのような環境関連法の適用を受けるかを知り、その法律を遵守するためにどうするかを、明確にする必要があります。さらに自らが環境方針をたて、それに応じた環境目的・目標を設定し、達成するためのシステムを構築し、手順を文書化し、しかもきちんと機能していることなどが求められます。
 事業者はISO14001規格に適合していますと自己宣言すればそれですむのですが、客観的な権威づけが必要と思う人のために、第三者認証機関(審査登録機関ともいい日本適合性認定協会=JABの認定を受けねばならない)というのがあり、この機関が、審査して登録することによって、認証というお墨つきが与えられる仕組みになっています。

★SGSへの質問と回答
 私たちが荏原に関連して、SGSに出した質問状への回答の要点を以下にまとめてみました。
【質問@】藤沢工場からのダイオキシン汚染をどのように受け止められているか。認証を与えたのは正しかったと考えるか。
【SGS】基本的には、資格を有した審査員がSGSの手順に従って審査を行ったということで、この問題について調査をしているが、特に問題なかったと結論をだしている。ダイオキシン汚染の原因である配管接続ミスは故意でなく、非常にお粗末な間違いであったという解釈だ。
 ISOの認証機関は適合性の審査をするところであり、問題はなかった。
 法的に雨水のダイオキシン測定義務はなく、測定はやってないわけだ。われわれのISOの審査では配管接続ミスは見つけられないということだ。

【質問A】藤沢工場からの認証返上の申し入れは、何時どのような形でなされたか。その後の措置は?
【SGS】これは3月25日付で取り下げということでファックスで送られてきた。27日に午前中に審査員を派遣して、事実関係の確認をやらせていただいた。そして4月17日に、審査員を派遣し、確認調査を行って、その報告書を得て、登録判定委員会で、認証を与えるかどうか、あるいは認証を取り消したり、取り下げを認めるか討議し、取り下げが了承された。実施規定にある要件(−省略−)のどれにもあてはまらなかった。

【質問B】認証返上申し入れに対して、認証を与えたことに対する責任をどのようにとるか。
【SGS】返上と責任というのはまったく関係ない。更新審査は1月24、25日に現場の審査を行った。それでその審査員はレポートを委員会に出し、委員会の結果でまた更新されたということだ。通常の審査が行われて、彼らの監視すべき項目について監視していたということだ。

【質問C】直接担当した審査員に手続きや判断上の誤りがあったどうかを調査したか。
【SGS】基本的にはないということだ。たまたま、初回審査、および更新審査でも、SGSの一番古手の審査員がチームリーダーをつとめており、審査員の質とか、そういう意味においては問題なかったと考えている。

【質問D】荏原製作所がISO審査の際に虚偽の申告をしたり、事実を隠蔽したことがあったかどうかの調査したか。また、荏原製作所がISO14001取得を再度申請してきた時には、どういう態度を取るか。
【SGS】虚偽の報告は見つけられなかった。再度取得を申請したときに、基本的には新しいお客さんと同様にそのまま対処する。

【質問E】いままでに、ISO14001認証を返上した例があるか。
【SGS】14000ではわれわれのところに返上要請というのはない。9000では40件くらいある。これは事業がなくなったとか、合併したとか、あるいはもうお金を使うのがイヤだとか、さまざまだ。

【質問F】一般に、認証機関の審査における手続きや判断ミスがなくても、審査申請者の申告に偽りがあるかないかを見抜けなければ、荏原製作所と同様なことが、今後おこることを防げないと思うが、どう考えるか。
【SGS】巧妙に仕組まれた嘘の場合は見つけることはなかなか難しい。

【質問G】現行制度では、ISO14001認証を取得していることが、事業所内が有害物質で汚染されていたり、規制基準以上の有害物質を一般環境中に放出していないことの保証にはならないと考えてよいか。
【SGS】保障にはならないというふうにおいては完全な、保証という考え方はない。しかしながら、そういうような形で法の遵守というチェックの仕組みはある。これから漏れるものはないのかという話については、あり得ますということだ。

【質問9】荏原製作所のような事態が起こった原因はどこにあると考えるか。
【SGS】このような原因自体はきわめて単純、お粗末と。これはミスであって意図的ではないと私どもは信じている。

★法律違反は是正するよう勧告−省略−

★ISOは環境汚染がないことを保証していない
 ISO14001の環境規格に適合しているということは、単なるシステム上のことであり、認証取得事業所が環境中に有害物質を放出していないことの保証にならないことがはっきしたと思います。
 98年にも、松下電器や東芝のISO14001規格を取得していた複数の事業所で、国の基準を超える高濃度のトリクロロエチレンらの地下水汚染が発覚していますが、これらのケースでは、ISO審査の時点で、有機塩素系溶剤の使用がなく、過去に使用していた溶剤による汚染がチェックされなかったということが問題となったこと思いだされます。  SGSとの次のやりとりでも、ISO規格の限界があきらになりました。

【反農薬】そうすると、SGSとしては審査の方法に問題はなかったし、審査員もレベルの高いものが責任者だったし、レポートもよかったということだ。そういうことでありながら、ダイオキシン垂れ流しが発見できないということは、結局、認証制度そのものの限界ということか。
【SGS】ISOをとれば、環境は万全だという考え方自体は贔屓の引き倒しであって、ISOの審査は適合性の審査だ。
【反農薬】結局、会社が環境の計画を出し、それをちゃんとやっているかどうかということを調べるというのが認証機関なのか。
【SGS】そうだ! ベースはそこにある。つまり、ISOのシステム自体は基本的に、企業自身が決めることだ。
【反農薬】一般には世の中では、ISO14001をとれば環境問題にいっさい問題ない企業だと思いこんでいる。
【SGS】それはある意味において贔屓の引き倒し。そういう形でよくしていくと自ら思って、実際、世の中よくなっていることは事実だ。今回、荏原みたいな事件があったからISOはまったく無意味だという言い方されても、われわれは困る。これでよくなったという企業、会社の方が圧倒的に多い。

★ISO規格を環境ビジネスの宣伝の具にしてはならない
 ダイオキシンの環境中へ排出規制は、焼却施設について法律で定められましたが、ダイオキシンを作ることを規制する法律はありませんから、環境基準をクリアしておれば、ドンドン燃やして、大量のダイオキシンを生成している工場でもISO14001規格に適合することになります。
 荏原の場合、会社のいいぶん通りなら、ダイオキシンがたくさんできることはわかっていたが、それを環境中に排出しないようにしている積もりが、配管接続のミスで、排水処理工程を通らないで雨水排水経路にながれ、もろに環境中にでてしまった。ごめんなさい。ということです。
 SGSのように、荏原のダイオキシン汚染の原因は、お粗末な配管接続ミスで、認証機関としては、何の責任もないというのでは、機関の権威はどこにあるのかと疑わしくなります。
 工場では、単純ミスはつきものです。ミスをできるだけ少なくすること、ミスが起こっても事故や環境汚染に出来るだけつながらないようにすることが不可欠で、ISO規格においても、ミスに対応するシステムの確立が求められて然るべきです。荏原のような事故が起こるたびに、システムを見直していくという事後処理専門の規格であってはなりません。過去の事故や汚染の経験を生かし、同様なことをひき起こさないために初めからからきちんとしたシステムを作り、実行していくことが必要なのです。それを手助けするのが審査機関であり、実務にあたる審査員ではないでしょうか。
 SGSと話をしているうちにふと思ったのですが、どうも企業とISO認証機関はもちつもたれつの仲間意識の強い関係にあるなということです。企業は認証を得たことでイメージアップをはかり金儲けの手段とする。認証機関は、認証することで、審査登録料を懐にした上、その後年一回の定期審査や三年毎の更新審査がつづくので金づるを得たことになる。おまけに、審査員(約30万円払って、5日間の研修を受ければ、とりあえず、審査員補を名乗れる)の中には、企業OBが多いときては、環境問題に対する視点が、どうしても企業よりに偏るのではないかと思います。
 認証機関とそこで働く審査員に環境保全に対する厳しい使命感がなけれが、ISO14001環境規格は、単なる環境ビジネスの宣伝道具となり、有名無実化してしまう恐れが濃厚です。

★自治体がISO認証をとるのは税金の無駄使い
 本年2月末現在、ISO14001規格審査登録数は3318件となっており、業種別では電気機械業界の30.2%を筆頭に民間企業が圧倒的な比率を占めています。その中で、地方自治体の認証取得は、80件を超え、今後取得を計画しているところもあります。
 ISO14001規格とはどういうものかを知り、それに適合するように事業者が、環境マネジメントシステムを作り、きちんと実行していくことは、マイナスではありません。しかし、そのことと第三者機関から認証を取得することは別問題です。
 ISO14001規格については、適合を自己宣言すればすむわけです。わざわざ認証を取得するメリットは、企業の場合はイメージをアップし、商取引がうまくいくことにも結びつくかもしれませんが、自治体の場合は、単に権威づけをねらうこと以外にありません。
 たとえば、東京都は、自分がISO14001の取得をめざすだけでなく、都と取引のある事業者の入札参加条件にISO14001などをいれることも考えているようですが、これとて、東京都は自らが取得していないと取引する相手に格好がつかないということが理由みたいです。
 数百万円の認証審査料を支払うだけでなく、毎年、審査のために税金を使い続けることは、はっきりいって無駄使いです。ISOの趣旨にそって内部審査をすれば、多くのことは決着します。グリーン購入品はこれこれを使用しています。トイレにはパラジクを使いません。コーピー紙の月間使用は何枚という計画をたて、ISO14001規格に適合していますと公表すれば、すむことをわざわざ、○○機関からISO14001認証取得したと、あぐらをかいていては何にもなりません。それよりも、住民の監視とチェックを受けた方がよっぽど役たちます。
 自治体は、ISO14001規格の内容を勉強し、住民を加えた内部審査機関でもつくって、システムを構築した上、規格に適合していますと自己宣言するようにしましょう。
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作成:2000-05-28