室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t10302#パラジク汚染を防ぐには製造販売禁止しかない−厚生省案はごまかしだ#00-06
 厚生省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会は、去る4月27日、「室内空気汚染に係るガイドライン案」を公表し、意見公募を行ないました。
 その骨子は、室内濃度に関する指針値をトルエンで263μg/m3(0.070ppm)、キシレンで870μg/m3(0.020ppm)、パラジクロロベンゼン(以下パラジク)で238μg/m3(0.040ppm)と設定したことにあります。
 これら三物質は、国立医薬品食品衛生研究所が実施した揮発性有機化合物(VOC)の実態調査の結果、室内汚染濃度が高く(てんとう虫情報99号)、まっさきに規制対象とすべきものであることは間違いありません。しかし、今回だされた指針値の妥当性はどうでしょうか。また、今のところ指針値に何の強制力もないため、このままでは、単なる数値目標に終ってしまう恐れがあるので、どうすればいいか考えてみたいと思います。
★トルエン、キシレンは、一般外気なみの濃度をめざせ
 トルエンとキシレンは、主に塗料や接着剤に用いられる芳香族系溶剤で、建築資材だけでなく、身の回りの様々な生活用品に使用されています。国際がん研究機関(IARC)はいずれの物質をもヒトに対する発癌性については分類できないと評価してグループ3に分類していますが、その一方で、神経毒性や生殖毒性が懸念されている物質でもあります。
 提案された指針値は世界保健機関(WHO)の基準トルエン260とキシレン870各μg/m3を踏襲したもので、特に、目新しい点はありません。

 私たちの身のまわりの製品に使用されている100を超える化学物質が室内空気中に検出されています。ほかにも、室内の火気や熱源あるいは、光による反応で新たに生成される物質、さらには、カビや細菌による代謝生成物など未知の物質もあると考えられます。
 共存する多数の化学物質について、個々の毒性をひとつひとつを評価して基準値をきめて規制していこうという方式は、複合毒性の評価もできない現状を考えると、どうしても限界があります。
 そのため、WHO欧州委員会は、室内を汚染している化学物質トータルを快適な生活に不適な因子−健康に対する危険因子をも含む−ととらえ、総揮発性有機化合物(TVOC)として、規制していこうと提案しています。具体的には下表に示したように、いくつかの種類にわけた化学物質毎に、気中濃度の目標値を設定しています。個々の物質の濃度は、それらが属する種類の全濃度の50%を超えてならないし、TVOC濃度の10%を超えてもならないとされています。
表 WHOヨーロッパによるVOCの長期暴露に関するガイドライン
   (田辺新一著「室内化学汚染」:講談社現代新書45頁)
     VOCの種類             濃度
                         μg/m3
     飽和炭化水素類         100
     芳香族炭化水素類        50
     テルペン類             30
     ハロゲン化炭化水素類    30
     エステル類             20
     アルデヒド・ケトン類     20
     その他                 50
     総計(TVOC)            300
 厚生省はこのヨーロッパの考え方に対し、混合物としてのTVOCの濃度をそのまま健康影響評価に関連づけることは困難であるとしながらも、すべての化学物質について健康影響評価を行なうには膨大なデータが必要であり、短期間に実施することは困難である。また、特定の物質について、ガイドライン値が設定されることによって、まだ、ガイドラインの設定されたいない物質が代替物質として使用され、新たな被害を引き起こすおそれもある。そこで、VOCによる汚染を全体として低減させ、快適な室内環境を実現するための補完的措置のひとつとしてしてTVOCは有効に利用できる可能性がある。との認識をしめしています。
 しかし、今回の指針値の設定に際しては、従来の毒性評価方法を踏襲したままで、芳香族炭化水素であるトルエンやキシレンのヨーロッパでの25μg/m3という目標値に対し、トルエンで約11倍、キシレンで約35倍という高値を提案しているのは納得できません。
 厚生省は、従来の毒性評価に加え、上記のような化学物質の種類毎やTVOCの概念を毒性評価の手法にとりいれるべきです。
 さらに、指針値についていうならば、職場での労働者の曝露基準をベースにするのでなく、有害化学物質を使用しなければ、汚染はゼロであるという原則にたち、すくなくとも、室内汚染濃度が室外汚染よりも高いものについては、一般大気環境並の濃度をめざすべきでしょう。

★高すぎるパラジクの指針値
 パラジクは、トイレタリーや衣料防虫剤として、身の回りで多用されており、一般環境中よりも、人体汚染が進行していることは、1970年代半ばから指摘されていました。
 わたしたちが、てんとう虫情報19号で、パラジクトイレボールを使うのをやめようという投稿記事を掲載したのは、93年11月のことで、当時から、パラジクの使用禁止を念頭においた運動に取り組んできました。
 95年11月に、労働省のパラジク吸入毒性実験で、マウスに発癌性があることが確認されたのを契機に、当グループはパラジク追放運動を提起し、公共施設や駅のトイレなどで、製品が撤去されるところもでてきました。
 監督官庁である厚生省は、マウスの発癌性はヒトには当てはまらないとして、97年に、パラジクの耐容平均気中濃度を590μg/m3(100ppb)としただけで、製品の使用規制措置は何もとりませんでした。この際、毒性評価のもとになるTDIは、0.177mg/kg/日と算出しています。今回提案された指針値は、その後あらたに報告されたビーグル犬を用いた毒性経口投与実験を根拠にしたもので、TDIを従来値の約40%である00.071mg/kg/日として、算出されました。
 しかし、同省が水道水の監視項目としてあげているパラジクの基準の設定のもとになったTDIが0.012mg/kg/日(体重50kgの人が一日2Lの水を摂取すると仮定する)であることを考えると、この指針値は、6倍も高いことになります。
 パラジクの40ppbという高い指針値の設定に問題があるだけではありません。人体汚染の実態をみてみましょう。

★血液・母乳・胎児にも見出されるパラジクは製造販売禁止にすべき
 長野県衛生研究所の調査によれば、同所員並びに家族から得た成人血液60検体のパラジク濃度分布は、図1のように0.4〜211ppb(平均14.9ppb)で、大気中濃度と人の血液中濃度の関係は図2のようになっています。この図から、指針値40ppbの空気濃度の下で生活すれば、人体血液中のパラジク濃度は上の平均濃度よりも4倍近く高い値58ppbいう値になってしまいます。

図1 成人血中パラジクの濃度分布 :省略
図2 パラジクの血中濃度と室内環境:省略

 また、長野市内で出産した16人の妊婦を対象とした調査で、パラジク濃度は、妊婦血液ND〜2.7(平均0.63)、母乳ND〜9.4(平均2.0)、 臍帯血ND〜2.0(平均0.68)各ppbでした。妊婦血液濃度が前述の成人平均よりも低いのは、『調査数が少ないためパラジクを使用していない被験者のみとなったのか、出産に伴ない、血液中での組成に何かの変化があったのかははっきりしなかった』と述べられています。
 図3に示した妊婦血液に対する胎児の臍帯血液及び母乳中のパラジク濃度の関係についても、検体数が少ないせいか、『パラジクは、母乳中濃度と血液中濃度との差に明かな傾向が見られず、また、胎盤におけるフィルター効果の有無については、考察は今後の課題となっている』と指摘されるに留まっています。しかし、胎児は母体から、さらに生まれてからは、呼吸によるだけでなく、母乳からもパラジクを摂取することは確実です。
 母体が、前述の指針値に対応する血液中濃度58ppbまで汚染された場合を想定するといったい、胎児や乳幼児はどれくらいパラジクを摂取しているのかと心配になります。

 図3 パラジク濃度の相対関係:省略

 厚生省に対し、空気濃度が指針値以下になることで、果たして胎児をはじめとする人の健康に何の影響もでないのかと問いただしたくなります。同省が検討した文献の中には、モルモットを用いたアレルギー性結膜炎の実験があり、3.2ppbでも影響がみられるとの報告もあるのですから。
 動物実験で発癌性が認められ免疫系や生殖系毒性も懸念されるパラジクの発生源は、トイレタリーと衣料防虫剤の二つであることは明確であり、人体汚染の事実と重ねあわせると、その使用を止めることが急務であると考えます。汚染をなくすことに直結するパラジク製品の製造販売禁止の実現が切にのぞまれます。以下に厚生省に提出した意見書をしるします。

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【意見書】
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会事務局御中
(厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室)

(1)指針値について
@室内空気中には、100を超える化学物質が検出されるが、今後とも、個々の物質の毒性を従来と同じく動物実験をベースにして評価をしていくのか。その際、それぞれの物質の複合毒性をどう評価するのか基本的姿勢を明らかにされたい。

Aヨーロッパでは、化学物質の種類毎に目標値を決めたうえ、TVOCとしてトータルで室内汚染度を評価しようとしている。従来の毒性評価方法に加え、この考えにたった規制をすべきであると思うが厚生省はどう考えるか。

Bトルエン及びキシレンを含む芳香族炭化水素に関して、WHOヨーロッパの目標値は50μg/m3となっている。複数の化学物質による作用や化学物質過敏症などに対する毒性評価が科学的に完全にできない現状を考えると、指針値は、室内よりも汚染濃度が低い一般大気中濃度の実態に準じて決めるべきである。

C個体差に関する安全係数を一律に10分の一としているが、化学物質の影響を受けやすいと考えられる心身発達途上にある子供たちや抵抗力の弱い老人、過敏症のひとたちへの影響を考えて、さらに厳しくすべきである。

D厚生省研究班の報告によるとパラジクは、室内空気汚染がすすんでいるだけでなく、 血液、母乳、胎児への汚染もみられる。指針値0.040ppmの空気濃度の場合、人体血液濃度はどの程度になると予測されるか。その血中濃度で、胎児への移行はどうなるか、また、母乳濃度はどの程度になると予測されるか。さらに、それらの濃度で、胎児をはじめとする人体への影響をどう考ええるか。まったく影響ないがないと断言できるか明らかにされたい。

E厚生省は水道水の監視項目にパラジクの基準を設定しているが、その数値を算定した手順と根拠を教えてほしい。

Fパラジクの汚染源がトイレタリーと衣料用防虫剤の二つであることを考えると両者の製造・販売を禁止することこそが、その人体汚染をなくすことにつながると思うが、どう考えるか。

G室内汚染の指針値を単なる目標値でなく、強制力のある規制値とすべきと考えるが、どう思うか。

(2)測定方法について
@化学物質の室内汚染濃度の測定方法として、試料採取を床上1.2〜1.5mとしているが、空気より比重の重い物質も多々ある上、寝たきりの病人や乳幼児はもっと低い位置で空気をすっている。床上10から30cm程度の空気も分析する必要はないか。

A室内をはいまわる乳幼児は、空気から汚染物質を摂取するだけでなく、壁・床・家具表面に触れたり、なめたりすることも多く、経口、経皮的に摂取することも配慮せねばならない。表面ふき取りによる分析調査もすべきではないか。

B室内空気汚染物質が、食品を二次汚染することが考えられる。特に脂溶性物質の食品への濃縮も懸念される。今後の課題として、実態調査を考えてほしい。

C室内で使用されたり、室内空気に検出される化学物質が、室内で使用される火気や熱、光により化学反応をおこしたり、細菌やカビによって分解されて、新たな化学物質が生成する恐れがある。これらの汚染実態も調査してほしい。
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作成:2000-06-25