室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t10404#厚生省シックハウス検討会:室内濃度指針値は原案のまま決定、VOCは総量規制の方針、クロルピリホスは上限値設定予定#00-07
 厚生省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する3回目の検討会が、6月26日に開催され、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼンの室内濃度に関する指針値をそれぞれ原案通り260μg/m3(0.0070ppm)、870μg/m3(0.0020ppm)、パラジクロロベンゼン(以下パラジク)で240μg/m3(0.040ppm)とする中間報告書が提示されました。
 私たちはてんとう虫情報103号(記事t10302)に示したような意見を提出し、検討会を傍聴しましたが、残念ながら指針値を変更させることはできませんでした。しかし、報告書では、今後の方針として、個々の室内汚染物質について指針値を設定していくだけでなく、TVOC(総揮発性有機化合物)の指針値策定も合わせて検討していくとの方針が示されました。
 また、室内汚染濃度の高いエチルベンゼンやスチレン、シロアリ防除剤クロルピリホスや環境ホルモンであるフタル酸エステル系可塑剤についての指針値も検討していくことが打ち出されました。

★傍聴でわかったこと
 この会議では、意見募集で寄せられた質問・意見に対する厚生省の回答が読み上げられました。それについては後で述べます。会議の中で明らかになったことがありました。まず、私たちが出した意見書で触れているWHOヨーロッパの目標値に関して、厚生省の回答では「直近のWHOのガイドラインに出ていない」となっていましたが、委員から「直近でなくても他にあるのでは」という質問が出ると、厚生省は「1990年の第5回の国際空気質会議のドキュメントの中にある。TVOCのことも書いてある」と述べ、私たちがでたらめなことを言っているのではないことが明らかになったわけです。そして、何故、これが「直近の」WHOの空気質ガイドラインから消えたのは不明とのことで、今後、調査をすることになりました。
 また、「この基準でシックハウスが起こったらどうするのか」との質問に、厚生省は「この基準はシックハウス症候群や化学物質過敏症を考慮しているのではない。化学物質過敏症に関しては解明できていない。原因、治療法はこれからの課題だ。その研究結果をみてからガイドラインに入れる」と回答しました。シックハウス検討会などと名をつけていながら、中身は健康な人が病気にならないための基準だということです。
 さらに、TVOCの基準を決めるということになっていましたが、VOCとは何かということも、はっきりしていませんでした。つまり、ホルムアルデヒドを入れるのか入れないのかで大きく変わってきますが、この会議でははっきりしませんでした。
 クロルピリホス以外に、シロアリ防除剤として使用されているピレスロイド系や有機塩素系の薬剤について検討する必要があるとの指摘には、厚生省は実態調査を踏まえてやると述べたにすぎませんでした。

★パブリックコメントに対する厚生省の回答
 検討会に寄せられたパブリックコメントの数は36件(内訳は企業14、事業者団体5、NGO5、個人12)、延べ207の意見が寄せられたとのことです。

(1)指針値について
 57件の意見がありました。そのうち、TVOCや複合毒性に関するものが私たちの意見も含め10件近くあり、このことが、中間報告にTVOC指針値の設定方針につながったと思われます。
 私たちの意見にたいする答えは以下のようでした。

【意見:個体差に関する安全係数をさらに厳しくすべきである】との要求に対して『個体差に関する不確実係数は10が一般に広く認められており、これによって、より強い影響を受ける可能性がある場合も考慮した補正が行なわれます。しかし、用量−反応曲線が急勾配である場合など、慎重な検討が求められる物質については、係数の必要な調整が行なわれます。今回の3物質については、個体差に関する不確実係数は10で評価できると判断しています。』との答えでした。

【質問:パラジク指針値0.040ppmの空気濃度の場合、血液濃度はどの程度になると予測するか】という問いについては、単に、長野県衛生研究所の調査報告にある平均値(てんとう虫103号参照)をあげるだけで、まともに答えようとせず、胎児や乳幼児の影響については全く触れられていません。

【質問:厚生省は水道水の監視項目にパラジクの基準値を算定手順と根拠を教えてほしい】との質問への答えは『2年間のラットの経口投与試験で腎臓への影響から得られたLOAEL(最小毒性量)を不確実係数1000で補正してTDI107μg/kg体重と計算され、ガイドライン値はTDIの10%を割り当てることにより300μg/Lと設定されています。』とありました。
 水道水のTDI値は、今回の指針値の基準となった71.4μg/kg体重よりも高い値になっていることがまず納得できません。この数値からいうと、水道水の監視項目の数値は、ただちに30%減の210μg/Lに見直す必要があります。
 また、パラジク摂取量の飲料水からの寄与率が10%となっていることをはじめて知りました。パラジクの場合も残留農薬基準の設定と同様、空気、水、魚介類、畜産物、農作物などからの摂取量がいくらかを調べて、それぞれについて基準値を決めるというのでしょうか。それならば、空気からの摂取を100%として決めた今回の指針値はおかしいということになります。こんな数値の議論などあまりしたくはないのですが、検討会の学者さんたちは、いったいどういう考えのもとで論議されているのでしょう。

【意見:パラジク製造・販売などの禁止について】は、使用禁止も含め4件の意見がありました。これにたいしては、『現時点では、策定した指針値をもって、安全性は確保できるものと考えています。今後の汚染実態の推移や新たな知見の集積により、必要な見直しを検討していきたいと思っています。』との答えです。

他の団体等からの意見として
【意見:今回の指針値を新築住宅に適用することをやめてほしい】という業界側と思われるむしのいい主張に対しては『今回のVOCの指針値策定では、新築の場合、居住開始後に居住者が暴露されるであろう最大濃度を測定することを想定しているので、測定値が指針値を超えたからといって、その濃度で継続的に暴露されない限り、すぐに健康影響が起きるという性質のものではありません。また、築後の内装や建材からのVOCの室内放散は、その住宅の構造や仕様等により、時間経過による減衰の程度が大きく異なることも予想されます。従って一定期間の暴露の起こる毒性を指標として指針値を策定し、測定法は暴露が最大となるであろう方法を採ることによって、より安全性を確保できる評価を行なうことで、VOCの室内濃度の低減化の促進が期待できるものと考えます。』として、要求を拒絶しましたが、指針値をどの程度超えた濃度が、どのくらい継続した場合に健康被害が起こるかは明示されていません。

【意見:シックハウス対策のための指針値設定あるのだから、アレルギーや化学物質過敏症への対策を基本にすべき。今すぐには無理ということであれば、少なくとも将来的な削減計画と目標値を設定するべき】に対しては『今般の指針値策定は、既存の毒性知見をもとに、耐容1日摂取濃度(TDI)を算出し、個体差等の不確実係数で補正し、より影響を受けやすい方々をも考慮した策定になっています。これによって室内汚染レベルの低減化が促進されるものと期待します。なお、アレルギーや化学物質過敏症を考慮した指針値の策定では、極めて低濃度での汚染が問題となり、個体差も非常に大きいことから、現時点で定量的なリスク評価は困難であり、むしろ慢性暴露による中毒量そ指標とした指針値を策定して、その普及に努めることで、いっそうの室内汚染の低減が図れればいいと思っています。』と答えており、今回の指針がシックハウス・化学物質過敏症対策にならないことがはっきりました。

【意見:壁・床・家具表面ふき取りによる分析調査や汚染物質の反対や微生物分解の調査、食品への二次汚染実態調査の実施】については、『今後の検討課題とする』とのことです。

 この会議の議事録は9月以降に厚生省のホームページで公表されます。また、当日の資料も厚生省生活化学安全対策室に申し込めば送ってもらえます。

(2)測定方法・その他について
 全部で150件の意見があったとのことです。
 私たちの意見に対する答えは以下のようでした。
【意見:化学物質の室内汚染濃度の測定方法として、床上10から30cm程度の空気も分析する必要はないか】に対しては、『特殊な事情については別途希望に応じて行なうことが適当と考える。』と、トンチンカンな答えでした。畳に寝ていることを想定した条件が特殊なこととは、とても思えませんので、再検討してもらいたいものです。

【意見:壁・床・家具表面ふき取りによる分析調査や汚染物質の反対や微生物分解の調査、食品への二次汚染実態調査の実施】については、『今後の検討課題とする』とのことです。
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作成:2000-08-25