街の農薬汚染にもどる
t11304#木材防腐剤クレオソート油の禁止を求めよう#01-04
 このほど明かになったスイスの研究者の論文によると、同国ではクレオソート剤で防腐処理された鉄道のまくら木が、環境汚染源として無視できないことがわかりました(M.Kohler et al.: Environ.Sci.Techonol.vol.34、p−4766,2000)。
 ヨーロッパでは、EU統合にあたり、加盟国間での規制状況に違いのあるクレオソート処理木材をどうするかが論議されていましたが、そのための調査の一環として、この研究がなされ、クレオソート由来の環境汚染状況があきらかになったのです。

★クレオソートとPAH
 クレオソート油は、コールタールの蒸留によってつくられ、200近くのいろいろな化学物質が混合した薬剤です。その中にはPAH(多環芳香族炭化水素類)が80−85%、単環芳香族炭化水素類が5ー15%、フェノール類が5ー12%含まれているといわれていますが、製剤中の個々の成分の含有量は製品によってバラツキがあります。
 PAHというのは、亀の甲構造の6員環であるベンゼン核が複数個あつまった構造をもつ化学物質の総称で、2環構造のものにはナフタレンが、3環構造のものにはアントラセンなどがあり、さまざまな化学製品やその原料として使用されているものもある一方で、ゴミの焼却やエンジンでの燃焼によっても生成する5環構造のベンゾ(a)ピレンのような非意図的環境汚染物質もあります。
 ベンゾ(a)ピレンは発癌性物質として知られており、環境省が環境ホルモンリストに挙げてもいますし、PAHの中には、ほかにも環境ホルモン作用が疑われるものがあることは、アメリカのEPA(環境保護庁)によって指摘されています。
 コーラーらの調査では、クレオソート剤8種に含有されている16種のPAH成分の含有量の範囲は表のようになっており、総PAH(16種)含有量は20−43%です。
 スイスでは、いままでに9百万のクレオソート処理まくら木が使用されており、11万6000トンのクレオソートが処理されました。その結果、16種のPAH総量が2万3400トン、ナフタレンが1100トン、ベンゾ(a)ピレンが18トンまくら木に含有されており、環境への総PAH放出量は年間1710トンと推算されました。
 揮発性しやすい2−3環のPAHは使用間もない時に主に鉄道作業員が被曝することになり、4−6環の揮発しにくいPAHは、木材中に残存し、長期にわたりジワジワと環境を汚染することになります。
 現在、EUの規則では、ベンゾ(a)ピレンの含有率が50ppm以下のクレオソートは非発癌性に分類されていますが、これより含有率の高い薬剤も使われおり、最も規制の厳しいデンマークでは、すでに完全使用禁止になっています。
 ベンゾ(a)ピレンの含有量を減らすことはもちろんですが、最近のアメリカの国家毒性計画にもとづく、ラットを用いた動物実験では、ナフタレンの発癌性が明らかになっていることも問題にすべきでしょう。アメリカ・ミシシッピー州コロンバスでは、住民がクレオソート木材処理工場から排出される薬剤により呼吸器系疾患や生殖系及び神経系など健康被害を受けたとして、カール・マックギー・ケミカル社を相手に訴訟を起こしています。

表 スイスでのクレオソート製品8種中のPAH含有量−省略

★クレオソート剤使用に終止符を!
 日本では、木材防腐工業組合の調べによると、防腐剤処理されたまくら木の99.9%は、クレオソート油によるもので、その生産量は2万6525立方米(99年)あるということです。ほかにも同剤で処理された木材の生産は1万3000立方米あり、電柱や建材、樹木の添え木、公園の階段などのガーデニング材に使われています。
 クレオソート油剤自体の最近の年間使用量は6100から7300トンの間にあり、このところ減少傾向にあるというものの、日本工業規格(JIS)では、クレオソートによる木材防腐の規格があり、身の回りで使用し続けられていますし、過去において処理された木材が廃材として今後どんどんで排出されると予想されます。
 クレオソート使用によるPAHの環境汚染や人への健康被害が懸念されるのは、ヨーロッパ諸国とかわりありません。
 わたしたちは、クレオソート油に含有されるPAH類の中に発癌性や環境ホルモン作用の疑いのある物質があることを問題にしてきました(パンフ「農薬と環境ホルモン」p−120)。また、てんとう虫情報103号では、廃まくら木のガーデニング転用の危険性を指摘しました(記事t10303)。今後、さらに、以下のことを求めていきたいと思います。
   @クレオソート製剤中のPAHほかの含有成分を明らかにする
   Aクレオソート処理木材(新材、廃木材、古まくら木、ガーデニング材など)中
    のPAHほかの成分と環境中への放出実態を明らかにする
   Bクレオソート処理木材の製造販売使用を禁止する
   Cクレオソート処理木材のリサイクルを禁止する
   Dクレオソート処理木材の安全な処理方法を検討する

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作成:2001-05-26