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t11903#情報公開法での農薬毒性データの開示は不十分 −さらなるデータ公開を求めての異義申し立て#01-09
 4月から施行された情報公開法に基づき、高松市での松枯れ対策農薬空中散布の中止を求めている「紫雲山緑の保全を考える住民の会」が、@スミチオン登録時に提出された資料のうち毒性に関する部分、Aスミパイン中のスミチオン以外の補助成分名と成分比及びその環境ホルモン作用に関する一切の資料、の開示を農水省に対して請求していました(てんとう虫情報113号参照)。
 4月27日づけで、農水省から前者については行政文書開示決定通知書、後者については行政文書不開示決定通知書がきました。後日、スミチオンに関する毒性試験データについて、200頁を超える資料のコピーが送付されたものの、これらは、いずれも、毒性試験報告のまとめというべきものでしかなく、農薬工業会の会誌『農薬時報』に掲載される毒性試験の概略よりはましなものの、農水省が求める学術雑誌への投稿論文のレベルには到底達しない内容でした。私たちが期待していた農薬登録時にメーカーが提出したデータそのものとはほど遠いため、「住民の会」は異議申し立てをしています。

 ところで、今回の請求は、農薬毒性データについて初めてのもので、情報公開法では、この程度のことがわかるといお手本にはなると思い、本誌にその内容の概略を示すとともに、さらなるデータの開示を求めて、農水省への異議申し立てを行なうにあたっての私たちの主張も掲載しておきます。

★公開された毒性試験内容は
情報公開法によって開示されたスミチオンの毒性試験データは次頁の表のような内容で、試験項目と実験動物と原体製剤別の試験件数を一覧で示しておきました。
 これらは、メーカーが既に開示している毒性情報を少し詳しくしたものですが、原体の毒性試験では、実験に使用したスミチオン純度の項が黒塗になっているなど科学的な論議が出来る内容ではありません。
何年にどこの試験機関で実施したものであるかは、明かになっていますが、実験の結論をだすにいたった過程を示す肝心の数値データが欠けており、学術論文の体をなしていません。
 たとえば、急性毒性試験では、簡単な実験条件と実験から得られたLD50(半数致死量)の数値が示されているだけで、それを算出するにいたった数値データはまったくありません。
 亜急性や慢性毒性試験では、実験動物の個体別はもとより、投与群別の体重推移、臓器重量分布や生化学検査の数値データの多くが示されていません。ひどい場合には、単に「検査したが異常は認められない」としか記載がない個所もあります。私たちがわかるのは、対照群ですら実験動物の死亡率が50%を超え、中には70から90%という、ひどい試験もあるなということぐらいです。このような試験から最大無作用量が決められるか疑問です。また、腫瘍が良性か悪性かなどは、標本データが開示されない限り、メーカーの言い分通り評価されてしまうのではないかと心配です。
 刺激性試験や催奇形性試験、変異原性試験については、他の資料で明かでなかった数値データが開示されていました。
 今後、私たちがある農薬の毒性情報を知りたいと思う時、情報公開法による開示請求は、ひとつの手段でしょうが、万全ではないことは、確かなので、いままで通り、既存の文献調査をすることも必要だと思います。

表 開示されたスミチオン毒性試験の項目と報告件数−省略

★不開示に対する異議申し立て理由
【毒性等試験成績報告書を開示すべき理由】
スミチオン等の毒性に関して、「公にすることにより、試験成績を提出した法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害する恐れがある」というのが不開示の理由です。私たちは、いままでも、毒性データや農薬補助成分について明らかにするよう求めてきましたが、今回の通知に対して、以下のような観点から異義申し立てすべきだと考えます。
(1)スミチオン関する試験成績報告書は、農薬取締法第二条に基づいて、農薬登録時に提出された「毒性及び残留性に関する試験成績を記載した書類」即ち毒性・残留性試験データそのもの(以下原データという)と理解される。  そもそも、農薬の登録申請に当たって当該農薬の「薬効、薬害、毒性及び残留性に関する試験成績を記載した書類」に「農薬の種類、名称、物理化学的性状並びに有効成分とその他の成分との別にその各成分の種類及び含有量」の記載が求められるのは(農薬取締法第二条2)、農薬登録制度が「・・・国民の健康保護に資するとともに、国民の生活環境の保全に寄与することを目的とする」(農薬取締法第一条)からである。農薬登録時に提出されたスミチオン関する試験成績報告書は、人の生命、健康、生活に関わる重要な資料であり、「人の生命、健康、生活・・を保護するため、公にすることが必要であると認められる」(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第五条二)情報である。法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとしての非開示決定は情報公開法第五条二に反する。

(2)農水省は農薬の毒性試験については、権威ある学術誌等に投稿して公開するようメーカーに指導している。今回の請求により公開されたのは、試験データそのものでなく、試験結果をまとめた程度のもので、その体裁も学術論文以下の内容となっており、原データが公開されなければ、スミチオンの毒性を科学的・学術的に再評価することはできない。

(3)農薬の毒性試験に関しては、アメリカの毒性試験会社が、毒性試験データを捏造していたことがあった。これは、試験成績書のような原データの綿密な再検討によって明かになったものである。
 毒性試験データのすべてを開示することによって、だれでも毒性データの評価ができるようにすれば、データの捏造の抑止効果も大きいと思われる。

(4)毒性試験の原データが公開されなければ、科学的であるべき毒性データが、環境やヒトの安全を守るという視点からではなく、企業の権利・利益を優先させる立場から評価され、結論がゆがめられる恐れがある。

(5)毒性試験データが開示された後、それをそのまま他者が盗用して、あたかも自ら実施した毒性試験データかのように登録申請時に提出しても、現在の農薬登録制度のもとで、そのような不正を見抜くことは容易であるから、当該企業の権利、利益を侵すことにはなり得ない。

(6)日本の農薬取締法が適用されない外国の企業が、開示データを盗用して、国外で製造販売することは、国際間の相互監視が厳しい現実の中では、容易にはおこらない。

(7)食品添加物については、すでに毒性試験に関する原データの開示が行なわれており、なんら当該企業の権利、利益に不都合はおこっていない。

(8)毒性データは、スミチオンの散布により被害を受ける恐れのある使用者や散布地周辺の住民、残留した農作物を食する消費者に、その情報をすべて公開すべきである。

(9)東京高等裁判所は、消費者団体が控訴人となった「新残留農薬基準取り消し訴訟」の控訴審で、国やメーカーの反論にもかかわらす、99年4月15日、農薬スミチオンの毒性試験データについての「文書提出命令」を下だしている(てんとう虫情報89巻頭記事参照)。
 なにも、裁判をおこさなくとも、スミチオンの原毒性データは公表すべきである。

(10)毒性試験成績報告書は企業が何億円ものをかけた財産だから公開しないという主張があるが、議員や大臣になった人は財産を公開せねばならないように、商品を売りたい企業は、試験データなどを公開するの筋である。
 公開により消費者の信頼をうることがむしろ当該企業の利益につながる。

(11)毒性試験に用いたスミチオンの純度が不開示になっているのは、毒性試験結果を権威ある学術雑誌に投稿し公開するようにという農水省の指導に反する。なぜなら、学術雑誌には、実験に使用した化学物質の素性や性質を記載するのが常識である。

(12)仮に純度50%の物質で実験が行われたとすれば、その実験の正当性が学術的に疑われるだけのことである。純度を公表することは、毒性実験が正当であることの必須条件であり、開示することの方が、当該企業の利益につながるであろう。

【農薬補助成分を開示すべき理由】
 スミパインの補助成分名とその成分比については、全くその内容が開示されませんでした。開示すべき理由は以下の通りです。

(1)当該農薬の有効成分以外の補助成分によって毒性・残留性が異なることは周知のことである。補助成分名と成分比及びその毒性試験資料は人の生命、健康、生活に関わる重要な資料であり、「人の生命、健康、生活・・を保護するため、公にすることが必要であると認められる」(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第五条二)情報である。法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとしての非開示決定は情報公開法第五条二に反する。

(2)スミパイン製剤は、市販されており、製品を入手して化学分析すれば、補助成分やその含有量を知ることができる。故に、これら成分を開示しても、法人の権利や利益をそこなうことはない。

(3)企業がスミパインの製造・販売権利を守るには、特許制度を利用することで十分である。物質、製法、組成物、用途などに関する特許権を取得しておれば、たとえ、成分等が開示されても当該企業の権利、利益が侵されることはない。

(4)すでに、化粧品については、含有されているすべての成分について表示が行なわれており、そのことによって当該企業が権利・利益を害されてはいない。

(5)スミパインは農薬登録された製品であり、かりに他者が同じような農薬を国内で登録しようとしても、多くのデータの提出が義務づけられ、成分等を開示したからといって、それを知った他社が、新たに農薬登録することは、不可能であり、当該企業の権利、利益が侵されることはない。

(6)スミパインは、環境中に散布することを目的に製造販売されており、その活性成分であるスミチオン=フェニトロチオンについては、化学物質名や含有量が公開され、毒性や残留性、環境への影響についての試験が義務づけられ、その結果の一部が公開されている。
 一方、活性成分と補助成分からなる製剤については、農作物や環境やヒトに影響を与える恐れがあるため、製剤としての毒性・薬効試験等が義務づけられ、その結果の一部が公開されている。
 しかし、補助成分そのものについては、活性成分と同時に散布するにもかかわらず、活性成分とは異なり、成分名すら開示されないのは、合理的でない。

(7)スミパインの使用者やその影響を受ける恐れのある散布地周辺の住民に対して、補助成分の種類や含有量が開示されないのは、企業の権利・利益を優先する考え方である。

(8)事故がおこった場合、製剤中にどのようの化学物質が含まれているか判明しないと適切な診断と治療が施されない。農薬の場合、補助成分の方が活性成分よりも毒性が強い場合もある。最近、化学製品について、MSDS(製品安全データシート)の提出が義務づけられてきたのは、消費者保護の立場が優先されるようになってきたからである。スミパインの場合も、環境保護、人体への安全性を重視し、補助成分等を開示すべきである。
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作成:2001-10-27