ダイオキシンにもどる
t12007#農薬中のダイオキシン類の検査方法に関する意見書を提出#01-10
 農水省は4月に農業資材審議会に対して、農薬取締法に基づき、農薬中のダイオキシン類の検査方法を決定するための意見を求めていましたが、同審議会は、7月25日付けで、次のような意見を答申しました。
『農薬中のダイオキシン類の検査すべき水準(検査基準)、有効成分中の濃度に換算して、全ての同族体及びその異性体について毒性値0.1ngTEQ/gに対応する濃度とすることが適当である。』
 同省は、以前から行政指導により、ダイオキシン類の含有量を報告するよう農薬メーカーに求めていますが、ようやく法律に基づく検査方法を定めることにしたようです。

 審議会に設けられた「農薬中の有害物質の検査に関する小委員会」の報告書では、農薬中のダイオキシン量や環境への排出量が以下のように推定されています。
 まず、ダイオキシン含有の恐れのある農薬を有効成分に塩素化ベンゼン環を有する構造をもつ等の104種類の農薬としました。
 農作物に残留しているダイオキシンについては、作物に使用される89農薬が対象になるとし、それらがすべてダイオキシン0.4ngTEQ/gを含有し、使用された農薬がすべて農薬残留基準値まで残留しているとの仮定(農薬摂取量は0.645mg/kg/日になるそうです)のもとで、作物全体から総合的に摂取される農薬由来のダイオキシン量を求めるのに、89農薬の使用割合(89農薬の原体流通量/全農薬流通量=6639.7トン/91568.7トン=0.0725)を乗じて、
 0.4×0.645×0.0725=0.019pgTEQ/kg/日とし、この推算値はダイオキシン類のTDIに比べて十分低い数値となった(TDIの0.5%に相当する)としています。
 また、農薬由来のダイオキシンの環境への排出量は104農薬原体の年間流通量6844.2トンに0.4ngTEQを乗じて、2.7gTEQ/年と推定して、ダイオキシン全排出量(99年2620〜2820gTEQ/年)に占める農薬の割合は極めて低いとしています。
 しかし、答申案では、実際に散布される農薬製剤中のダイオキシン量は不明なままですし、プレダイオキシンが散布後にダイオキシンに変化する可能性も無視されています。また、農薬由来のダイオキシンは、農作物だけから摂取するのではなく、空気や水や土壌を汚染し、ヒトが直接吸入したり、魚介類や畜産物に濃縮されるたものを食べることについては、考慮されていません。
 わたしたちは、いままで、本誌でも何度も主張したきた内容を下記のようにまとめた上、てんとう虫情報の記事の抜粋を資料として添付して、意見具申しました(ダイオキシン参照)。

★意見
 農薬製剤中のダイオキシン類(塩素化ダイオキシン、塩素化ジベンゾフラン、及びコプラナーPCBをいう)の検査基準として、

@製剤及びその活性成分(=原体)と補助成分のそれぞれについて分析を実施する。

Aすべての同族体・異性体(TEFが設定されているもの。その他については含有する塩素数2から8のジベンゾダイオキシンとジベンゾフラン毎に異性体をひとまとめにする)について、各々の検出限界を0.01ng/g以下とする。

BTEQは個々のダイオキシン類の検出値にTEFを乗じたものとその総和で示す。

C製剤の原料となる農薬活性成分及び補助成分中に含有されるダイオキシン前駆体(塩素化ベンゼン、塩素化フェノール、塩素化ビフェニル、塩素化ジフェニルエーテルなど)の分析を実施する。

D分析は年に二回以上実施する。さらに原料の製法の変更、原料のそのものの変更やその入手先の変更、製剤工程の変更などがあった場合は、その都度実施する。

【関連事項】
 実施された分析結果は公開する。その際、同定されていないダイオキシン類の有無が確認できるよう、分析チャートも公開する。

★理由
@活性成分だけでなく、製剤、補助成分についても分析すべき理由
(a)複合製剤においては、それぞれの活性成分においてダイオキシンが含有されていなくとも複合化によって、新たなダイオキシン類が生ずる恐れがある。
(b)実際に使用される農薬製剤には、多くの補助成分が含有されており、この中には塩素含有物質もあると考えられ、当然ながら、ダイオキシン類が不純物として含有される可能性を否定できない。
(c)製剤の製造に際しては、加熱その他により、化学反応を伴なう場合があり、原料となる活性成分や補助成分などが反応して、新たなダイオキシン類の生成が考えられる。また、原料中にダイオキシン類の前駆体(塩素化フェノール、塩素化ベンゼン、塩素化ビフェニル、塩素化ジフェニルエーテル、その他)が含有されていた場合、製剤工程で新たなダイオキシン類が生成する可能性を否定できない。

ATEFが設定されているダイオキシンだけでなく、塩素数2から8のジベンゾダイオキシン及びジベンゾフラン毎に異性体をひとまとめにして、分析すべき理由
(a)ダイオキシン類の毒性がすべて判明しているわけでなく。今後TEFの設定されていないものの毒性が問題となる場合も生ずる。
(b)ダイオキシン類の同族体・異性体の数は210種あるが、TEFが設定されたものは17種にすぎない(これにコプラナーPCBが12種追加される)。
 それぞれについて、通常農薬について実施が義務づけられているような毒性試験が実施され、ADIやTDIが設定されているわけではない。
(c)八塩化ダイオキシンは水田除草剤PCP由来のものとして、環境汚染がひどいが、そのTEFは、科学的データが不足したまま、ゼロから0.001の間で、評価がかわっている。
(d)1,3,6,8−TCDDや1,3,7,9−TCDDは、我が国の環境中にひろく検出され、その由来は水田除草剤CNPとされている。このような毒性が明確でないダイオキシンを現在TEFがゼロであるからといって環境中にばらまくことがはたして許されるのか。
(e)下記のように毒性を有するか疑われるのに、TEFがゼロ評価のダイオキシンが存在する。
 2,7−二塩化ダイオキシンは動物実験で発癌性が認められている。
 2,3,7−三塩化ダイオキシンと1,2,4,7,8−五塩化ダイオキシンの急性毒性は、特定毒物のパラチオンより強い。
  1,2,3,4−四塩化ダイオキシンを母ラットに与えて授乳すると新生仔肝の活性酸素関連酵素mRNAの発現に変化を及ぼす(環境ホルモン学会第3回研究発表会要旨集p−70)。
 ダイオキシン類の毒性発現メカニズムと関連あるAh受容体との反応性の研究で、2,3,4,6,7 −五塩化ジベンゾフランが高い反応性を有する(環境ホルモン学会第3回研究発表会要旨集p−97)。

(f)ダイオキシンの同族体・異性体の分布パターンから、汚染がおこった場合の発生源を追及できる。そのためにも、多くの異性体について分析をしておくことが重要である。
(g)同定されない未知のダイオキシン同族体・異性体が存在することを明確にすべきである。
(h)このような分析事例は、小委員会が報告書に挙げられている文献19 p−876の表1ですでに報告されている。

B検出限界を個々のダイオキシン同族体・異性体について0.01ng/g以下とする理由
(a)今後、毒性試験が実施されれば、現在TEFがないかもしくは、低いダイオキシン類について、その数値が変更することもありうる。TEFの数値がかわった場合に対応できるように、できるだけ検出限界を低くかつ同じ値に設定しておくべきである。
(b)従来の分析方法をそのまま踏襲するのではなく、現在汎用しうる最高技術を採用すべきである。現在の分析技術からすれば、全同族体・異性体について各々0.01ng/g以下とすることは容易である。
(c)既に、消費者団体の求めに応じ、パラジクロルベンゼンやオルトジクロルベンゼン中のダイオキシン類について、メーカー各社は、ダイオキシン類の検出限界を0.01ng−TEQ/gとして、データを公表している。

CTEQを個々のダイオキシン類の検出値にTEFを乗じたものとその総和で示す理由
 得られた検出値にTEFを乗じて、個々のダイオキシン同族体・異性体毎のTEQとその総和のかたちで分析結果を示すことは、TEQを過小評価しないために、重要である。
   −中略−

★今後の課題
 農薬中に含有されるダイオキシン類については、単に活性成分中や製剤中に不純物として含有されている量を知るだけでなく、今後の課題として以下のような研究や調査が必要である。

@農薬の活性成分や補助成分及びそれらの中間原料の製造工程で、有機・無機を問わず塩素化合物を使用する場合、製造廃棄物中にダイオキシン類が含有されるか否かをチェックする。また、製剤工場においても工程廃棄物中にダイオキシン類が含有されるか否かをチェックする。

A環境中に散布された農薬は、大気、水、土壌を汚染するので、それぞれの環境中で農薬製剤中に含まれてダイオキシン類の挙動を調べる。さらに製剤に含まれていないダイオキシン類が環境中で新に生成しないかを検討すべきである。
 実験条件として、太陽光、水中で塩素処理、土壌酸性度、微生物、水田や畑での農産廃棄物等の焼却などの影響などが考えられる。

B複数の農薬を散布時に混合する場合に新たなダイオキシン類が発生しないか。複数の農薬が散布された場合、環境中で新たなダイオキシン類が発生しないかを検討すべきである。

C環境を汚染した農薬由来のダイオキシン類が、農産物、魚介類や畜産物にどの程度濃縮されるかを調査する。

D農薬を保管中にダイオキシン含有量がどのように変化するかを調査する。通常、農薬の有効期限は3年であるが、農家の納屋に長年保存されているケースもある。

Eすでに環境中に廃棄埋設された農薬(例えば、BHC、DDT、2,4,5−T、その他)によるダイオキシン汚染の有無を調査する。

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作成:2001-11-25