室内汚染・シロアリ防除剤にもどる
t12501#文部科学省が学校での化学物質室内空気汚染防止で通知−厚労省指針値を安全基準と解してはならない#02-02
 去る2月5日付けで、文部科学省は各都道府県知事や教育委員会ほか宛てに、『「学校環境衛生の基準」の改訂について』を通知し、4つの室内汚染物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン)について、学校内での室内汚染濃度を厚生労働省指針値以下にするよう等の指導を行ないました。
 これは、昨年12月に公表した、室内汚染実態を踏まえたものです。ここでは、調査結果と通知の内容を示しますが、指導がなされたからといって安心できません。かえって、この通知で、化学物質に過敏な子どもたちが切り捨てられてしまう恐れもあるからです。
★学校での汚染実態
 文部科学省の室内空気汚染化学物質に関する実態調査では、4つの化学物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン)の室内濃度の測定が表1に示した全国7ブロック、50の小中学校(新築/既築/改修後の年数などで分類)で実施されました。
 空気の採取時期は、2000年の9-10月期(以下に示すデータでは夏期)と12-2月期(同じく冬期)の2回です。また、教室別では、普通/音楽室/パソコン室/保健室/図工室/体育館の空気が測定対象となっており(パラジクの場合は、さらにトイレの空気を追加)、1100件を超える試料の分析が実施されています。

   表1 調査対象校−省略−
公表された結果の一部を以下に示します。

@季節別  1000検体を超える空気試料の採取時期を夏期と冬期にわけて、分析結果(午前採取)を表2に示しました。
 最大値と平均値では、ホルムアルデヒドは夏期に、他の3物質は冬期に高い数値で検出されています。
   表2 季節別の検出濃度−省略−

A建築・改修後の年数別
 建物の新築・改修後の年数と汚染濃度との関連について、表3のように調査結果をまとめてみましたが、接着剤や樹脂などに由来すると思われるホルムアルデヒドや溶剤由来のトルエン、キシレンとも、新築・改築・全面改修1年程度が高汚染、それ以後が築5年以後が低汚染の傾向にあるようです。
   表3 年数別の検出濃度−省略−

B教室別
 教室別の検出値を表4にまとめました。大別すると、普通教室・保健室・体育館が低汚染、パソコン室・図工室・音楽室が高汚染の傾向にあるようです。パラジクについては、別にトイレ13か所(消臭剤あり5か所,なし8か所)で測定されましたが、消臭剤ありのすべてで0.005〜0.215ppmが、なしでは2ヵ所で0.001が検出された以外はいずれもNDでした。

   表4 教室別の検出濃度−省略-

★改訂された学校環境衛生の基準
 『「学校環境衛生の基準」の改訂について』をごらんください。

★指針値を絶対視しないで、汚染源そのものの排除を
 厚生労働省指針値を絶対的なものと解すると、とんでもないことになります。なぜなら指針値を設定しているシックハウス問題に関する検討会は、『この値までは良いとするのではなく、指針値以下がより望ましい』といい、シックハウス症候群との関連については、『現状の研究では指針値が策定された物質と体調不良との間に1対1の関係は証明されていない』、アレルギーや化学物質過敏症については、『指針値の策定は、極めて低濃度での汚染が問題となり、個体差も非常に大きいことから、現時点で定量的なリスク評価は困難である』としています。
 また、第三回検討会の論議中、「この基準で、シックハウスが起こったらどうするか」との質問に、厚生労働省は『・・ここで示している指針値というものは、既存の毒性指標をベースにして、通常の健康の方であれば、その方が例えば老人あるいは子ども、あるいは極めて感受性の高い方ということも含めて必要な補正をした形で、その濃度以下では生涯曝露されても健康影響は起きないであろうということを指標にして、この指針値を策定しているという経緯があります。ですので今おっしゃった過敏症とか、極めて低い濃度で起こるようなケースというものは、ここでは対象にしていません」と答えています。
 このことからわかるように、指針値は、健康な人が病気にならないための基準であり、シックハウス症候群やアレルギー、化学物質過敏症の発症に対する安全基準値ではないのです。

 通知には、このような厚生労働省検討会の見解が示されないまま、数値のみが基準として挙げられているため、教育委員会等の中には、指針値以下なら安全だと思い込んでしまうところもでてくるのではないでしょうか。指針値以下でもアレルギーの子供が反応してしまうことも否定できないのです。そんな時、指針値を楯に、何の対策もとられず、原因物質が放置されたままになる恐れもあります。
 くれぐれも、今回の通知により、厚生労働省指針値がひとり歩きして、この数値を絶対的な線引きと教育現場が考えないように願いたいものです。
 今回の通知には、汚染濃度が高かった場合の事後処理対策として、換気の励行/発生原因の究明/発生抑制措置 があげられています。でも、もっとも確実で簡単な方法、すなはちその物質を使わないという指示がありません。上述の調査結果をみても、パラジクについては、トイレタリーが汚染源となっていることは明かで、このような製品を使わなければ、汚染はなくなり、空気調査もする必要もありませんから、一石二鳥です。
 そういえば、てんとう虫情報44号で中学一年の理科の教科書に、パラジクを使用した融点の実験が載っていたのを問題にしたことがありました。その後、この教科書はどうなったのでしょうか。教科書検定がお手のものである、文部科学省は既にこの実験の記述をけずってくれているでしょうね。
 さらに付言すると、すでに、国土交通省は、自ら発注する建物の営繕について、室内汚染物質を含有しない資材を使用するよう通知していますが(てんとう虫情報104号)、校舎等の新築・増改築・改修に際して、文部科学省も同様の指導をすべきでしょう。

★指針値は低くし、農薬もターゲットに
 東京都衛生研究所の瀬戸さん等は、同所年報51号(2000年)で、室内汚染物質の実測値をもとに決めた推奨値(これ以下であることが望ましい濃度レベル))と要監視濃度(早急に対策をとり、改善することがのぞましい濃度レベル)を表5のように提案しています。
 私たちは、シックハウス問題に関する検討会がパブリックコメントを求めるたびに、しつこく、汚染実態に基づいた指針値を設定するよう求めてきましたが、はたせるかな、都衛研の推奨値はすべて、厚生労働省指針値を大きく下まわっています(ホルムアルデヒドとパラジク以外の物質は、対策・改善を必要とする要監視濃度ですら、指針値より低い)。
 表5 都衛研の室内空気中のVOC濃度推奨値・要監視濃度と厚生労働省指針値
                                (単位:ppm)
  項目          ホルムアルデヒド トルエン エチルベンゼン キシレン スチレン  パラジク  ナフタレン  ブタノール

 推奨値        0.0668*  0.020 0.004    0.006  0.001  0.008  0.0006  0.004
要監視濃度        0.10*   0.050 0.012    0.020  0.006  0.100  0.002   0.010
厚生労働省指針値  0.08     0.07   0.88     0.20   0.05   0.04
 *:都衛研は、ホルムアルデヒドについて、数値を設定していないが、汚染実態調査から算出すると表の値になる。
 室内空気汚染物質は、ホルムアルデヒドやパラジク、VOC(揮発性有機化学物質)だけではありません。農薬もターゲットにする必要があります。毒劇指定のある農薬(神奈川県で使用中止)、環境ホルモン系農薬(東京都や岐阜市の教育委員会が学校で使用しないよう指導)、子供の神経系への影響が心配されている有機リン剤(MEP=スミチオン、ダイアジノン、DEP=トリクロホン=ディプテレックス、DDVP=ジクロルボス、マラソンほか)は早急に使用を止めさせるべきでしょう(金沢市では学校、保育園、 幼稚園で薬剤使用禁止、埼玉県では県有施設等での薬剤使用規制)。 。そして、文部科学省は、アメリカにおける学校での農薬使用通知法=トリチェリ条項(記事t12003)をも参考し、さらに、薬剤そのものを使用しないよう指導すべきだと思います。
 なお、反農薬東京グループは、上記の主旨を5項目にまとめて、2月12日付けで、文部科学省に申し入れを行ないました。
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作成:2002-02-25