ダイオキシンにもどる
t12908#連載 農薬などに含まれるダイオキシン APCP、PCNB製剤の回収指示#02-06
 前号の冒頭で触れたように、農水省は、4月12日、6種の農薬のダイオキシン含有量についての調査結果を発表しました。
 いままで同省が発表した調査報告は、農薬メーカーから提出させたデータをまとめたものにすぎませんでしたが、今回の報告は、『農林水産省としてダイオキシン類の分析を行った』と自慢気に断わっての発表です。しかも、従来のTEQ値だけでなく、TEFがゼロでない、コプラナーPCBを含む29の異性体・同族体について実測値(ただし、それぞれの検出限界は同じでなく、TEQで0.1ng/g以下となるように設定されている)も明らかにしました。
 いつも、農薬中の不純物のデータは企業秘密にあたり、メーカーが提出した数値を公表すると、公務員の守秘義務違反で処罰を受けるとしていた農水省は、自ら分析しさえすれば、公表しても秘密漏洩にあたらないことを証明してくれました−そもそも、市販製品を分析して、どれほど含有されているかが判明できるようなことを、企業秘密とすること自体がおかしいのだ−。
 農水省が分析した農薬のうち2,4−PAの4検体(85年と97年製造の液剤と99年製造の原体2,4−PA酸各1)、TPNの2検体(99年製造の原体と2000年製造の水和剤各1)、MCPの7検体(99年製造の原体MCPA酸3と99年製造の原体MCPチオエチル、98年製造のMCP粒剤、99年製造の複合剤2000年製造のMCPAナトリウム塩液剤、MCPチオエチル系複合剤各1)は、分析したすべての異性体・同族体でND(検出限界以下)でした。本号では、ダイオイシン類が検出されたPCPとPCNBを表(−省略−)に示し、CNPは次号にまわします。

(2−1)PCPのダイオキシン濃度は最大1500万ng/g
 PCPについて、農水省は、66年から85年にかけて製造された製剤10検体の分析を行ないました。いずれの検体からも、ダイオキシンが検出され、合計値は、実測値で1400から1500万ng/g(TEQ値で4.5から7500ng/g)と大きな幅がありました。異性体・同族体の分布をみると、八塩化物と七塩化物が大きな比率を占めており、これらのTEF(2,3,7,8−TCDD毒性換算係数)がそれぞれ0.0001と0.01と低いため、TEQ値は実測値の1/50から1/3000となっています。もっとも毒性の強い2,3,7,8−四塩化ダイオキシンと1,2,3,7,8−五塩化ダイオキシンはすべての検体に合わせて0.48から70ng/g見出だされています。PCPの製造で、五塩化フェノールを原料にする場合、八塩化物ダイオキシンやジベンゾフランの比率が最も大きくなることが考えられます。ところが、68年の製剤では、八塩化物濃度がNDとなっています。これは、製造法が異なるためかもしれません。
 製造年とダイオキシン濃度の間に特定の関係は見出だされず、製剤の種類や製品のロットで、濃度にバラツキがあるようです。
 PCPは1954年に殺虫剤として登録される以前から、木材処理剤などとして使用され、、シロアリ防除用に使われ、PCPを製造したり、使用する工場労働者には、クロロアクネなどの中毒被害がでたこともありましたが、その原因となったのは、不純物として含有されたダイオキシンであった可能性が濃厚です。
 PCPの日本での累積生産量は約17.6万トンで、その95%は60年から71年にかけて生産されています。仮に、ダイオキシンが今回の検出値の平均200万ng/g(平均TEQ値1400ng/g)混入していたとすれば、累積で約350トン(TEQ値で約250kg)を超えるダイオキシンが環境中に放出されたことになります。
 てんとう虫情報122号で述べたように、いったん環境中に放出された水田除草剤由来のダイオキシンは、なかなか分解されず、今後、何十年も水田土壌中に残存し続けるおそれが濃厚です。

(2−2)PCP回収指示
 この報告を元に農水省は、農家の納屋に残っているような農薬の回収を農薬製造業者に回収の指示をしました。
 PCPについては、原体メーカー八社が構成する旧PCP協議会(呉羽化学/大日本インキ/富山化学/日本カーバイド/日本曹達/保土谷化学/三井化学/三菱化学)が12日に「PCP製品(ペンタクロロフェノール)の回収について」という広報をだしています。
 1957年、アメリカで発生したニワトリ数百万羽が死亡した水腫事件は、PCP処理された獣皮脂肪を飼料としたのが原因で、PCP中に混入するダイオキシン類が主因でした。日本では、このことは省みられず、1950年代の終りから、70年代のはじめにかけて、水田除草剤として使い続けられたPCPは、数々の魚毒事件や製剤工場三西化学による公害事件を引き起こしました。農薬用途以外でも、武田薬品のシロアリ防除剤キシラモン事件がおこり、1990年代にもPCP処理された皮革製品で皮膚障害の報告がみられました。
 水田除草剤が農家を草取りの重労働から開放することのみに眼を向け、ダイオキシン含有を知りながら、農水省はせいぜい水質汚濁農薬の指定をしただけで、手をこまねいてきました。最終製剤が90年6月に録失効した後、12年(最盛利用時期から数えれば30年以上)を経て、やっとメーカーに対して回収を指示したのは、あまりに遅すぎる対応だといわざるを得ません。

(2−3)PCNBも回収−輸出されて薬剤はどうなる?
 PCNB粉剤3検体のうち、2検体でダイオキシンが実測値で62と17ng/g(TEQ値で3.7と0.86ng/g)検出されました。
 PCNBについても、製剤メーカーであったアグロス/日本農薬/北興化学/八洲化学/武田薬品/サンケイ化学/三共など19社が、PCNB製品回収センターを設立し、4月15日に、農家向けに「PCNBを含む製品の回収のお願い」という呼びかけを配布して、PCPと同様、フリーダイヤルを設けた回収体制をとっています。
 PCNBは、1956年4月に登録され、都市への野菜を供給地帯である長野、群馬、茨城、埼玉、新潟なので、連作障害を防止するための土壌殺菌剤として多用されてきました。HCBが不純物として含まれることが問題となっていましたが、97年に環境庁の調査で、ダイオキシンをTEQで0.13ng/g含有することがわかり、原体メーカーの三井化学は3月末で国内向け生産中止し、2000年3月26日に登録失効しました。登録期間中の原体の累積生産・輸入量は3万7671トンです。
 三井化学でのPCNB原体調査では、ダイオキシン濃度は、89年製造の2検体で0.12、90年製造の1検体で0.13ngTEQ/gだったということで、先の環境庁の調査結果と同じレベルでした。
 仮に60ng/gのダイオキシンが含有されていたとすると、いままでに、環境中にばらまかれたPCNB由来のものは、約2.2kgということになります。
 5月末現在の回収量は、PCPで3031kg、PCNBで862kgだということですが、今 後、農家からの回収がきちんとなされるかどうかが気懸かりです。
 また、国内向けの生産中止後、三井化学は、約3000トンのPCNB原体を、アメリ カ、フランス、トルコなどに輸出したというですが、同社が海外のものまで、回収は 考えていないとしていることも問題視する必要があります。
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作成:2002-12-25