食品汚染・残留農薬にもどる
t13002#農作物の残留基準超えと食品衛生法改定の問題点#02-07
てんとう虫情報126号で、中国産野菜に残留基準を超えた農薬が検出されていることを報告しました。その後、検査が強化され、7月15日までに、中国産の冷凍ホウレンソウから、クロルピリホス、パラチオン、ディルドリンが基準を超えて検出されたほか、同国産冷凍ネギやセロリでも、基準を超えたクロルピリホスが検出されています。
中国以外にも、スナック菓子原料用のオーストラリア産トウモロコシからMEP5.6ppm(基準1.0ppm)、タイ産生鮮リーチライムからパラチオンメチル5.4〜7.6ppm(基準値1.0ppm)、 アメリカ産サンキストオレンジから、クロルピリホス0・5ppm(基準値0.3ppm)が、基準超えて検出されています。
本号では、このような残留基準超え対策として、延長国会に、議員提案という形で急拠上程され、7月19日衆議院厚生労働委員会で可決された食品衛生法改定案についてふれたいと思います。
★残留違反率が高い中国産冷凍加工ホウレンソウ
今年になって、中国産野菜に多くの残留基準超えがみつかったのは、いままでなかった下ゆでされた冷凍加工野菜の基準を生鮮物に準ずるものとして、検査の対象に加えたからです。
中国産の冷凍野菜に対する輸入時検査は3月20日から始まり、7月5日までに検査されたのは944件で、そのうち42件から基準違反の残留農薬が見つかっています。
なかでも、冷凍ホウレンソウが41件(別に都道府県や輸入業者による検査で18件違反あり)と多く、基準を超えた農薬の殆どは殺虫剤クロルピリホスで、0.02から2.5ppm検出されています。最も残留値の高かったのは、蝶理が今年輸入した冷凍加工品「茎無しホウレンソウカット」でした。検出されたクロルピリホスの80%近くは、0.1ppm以下で、違反率が高いのは、ホウレンソウにおける残留基準が0.01ppmと低いためだったと思われます。この数値は、現在きめられている230近くの農薬の残留基準(0.005から1440ppmまで幅がある)の中では、低い部類に属します。仮に、MEP並の0.2ppmだったら、現在のような騒動にならなかったでしょう。
クロルピリホスの残留基準は124作物について、0.01〜3.0ppmに設定されており、表に示すように、大根が最も高く3ppm、コマツナ、ブロッコリー各2.0ppm、キャベツ1ppm、トマト、ピーマン各0.5ppm、カリフラワー、タマネギ、セロリ各0.05ppm、しいたけ、ホウレンソウ、ニンニク、ネギ各0.01ppm、などとなっています。これらの数値はどのような理由で決められたかはっきりしません。
残留基準からするとホウレンソウよりも、トマトやブロッコリーをたくさん食べる人の方が、多くのクロルピリホスを摂取する危険が高いこともわかります。
中国で、いろいろな野菜にクロルピリホスが検出されている−しかも、いったん下ゆでしたものに検出されており、生鮮物では、より高い数値で残留しているかも知れない−のは、その使用量が多いためと思われます。2000年6月にアメリカで、クロルピリホスの段階的禁止が決まったため、中国への輸出が増えたということはないでしょうね。
★では国産品は安全か
てんとう虫情報127号では岐阜県美並村での有機栽培シソにMEPが残留していたことを報告しました。5月には、福島県のJA伊達みらいから出荷したサヤエンドウに、残留基準値を上回る農薬が検出されました。これは、福岡市における市場調査で判明したもので、残留基準を超えたのは、アセフェートとMEPで、汚染状況は以下のようなでした。
@アセフェート(オルトラン剤) 検出日5月18日 残留値 0.59ppm(基準値0.1ppm)
AMEP(スミチオン剤) 検出日5月24日 残留値 1.5ppm(基準値0.5ppm)
@については、4月27.28日にオルトラン水和剤を「柿」に撒布。その残量を「桃」に撒布した際にサヤエンドウに飛散し付着した。
Aについては、5月8日頃、害虫防除のためスミチオン乳剤を栽培者が撒布した。
同農協は「今回の問題により、全品目の全生産者より農薬撒布履歴を求め、農薬安全使用法に適合した生産者の「安心」「安全」な青果物のみを出荷してまいります。」と述べています。
福島県では、県産農作物に残留農薬が確認された場合に、出荷地域や生産者名などの公表を検討するとのことですが、公表基準については、まだ迂余曲折がありそうです。次節の食品衛生法改定案では、残留検査の結果、基準超えた農作物の出荷元が公表されることになります。
さらに全農大分県本部は、県薬剤師会検査センターと連携し、独自に県産農作物の残留農薬の分析を実施することをきめましたし、長野県のいくつかの農協では、レタスやハクサイの出荷前の残留農薬の検査の動きがでてきています。
いずれも、安全性を消費者にアピールするのが目的です。
★食品衛生法改定−包括的禁止で問題は解決するか
厚生労働省は、7月10日、特に残留基準違反がめだつ、中国産冷凍ホウレンソウについて、日本輸入食品安全推進協会ら輸入業者に輸入自粛を求める通知をだしましたが、これでは、不十分と思ったのか、包括的輸入禁止措置(輸入検査で、違反のあった個々の食品を廃棄・返送するのでなく、違反の多い特定地域の食品の輸入を禁止する。法案では、国内の特定地域も対象となる)をとるべきだとして、議員提案で食品衛生法の改定がはかられました。
この改定法では、食品そのものだけでなく、添加物、器具、包装容器、乳幼児おもちゃを対象に、特定の国又は地域で製造等がなされ、又は特定の者により製造等がなされた特定の食品等について、検査等の結果、@食品衛生法の基準に違反する食品等が相当数(5%程度を意味する)発見されたこと、A生産地における食品衛生上の管理状況、Bその他の厚生労働省令で定める事由からみて、当該国等の当該食品等に食品衛生法の基準に違反する食品等が相当程度含まれるおそれがあると認められる場合において、@人の健康を損なうおそれの程度、Aその他の厚生労働省令で定める事項を勘案して、食品衛生上の危害の発生を防止するために必要があると認める時は、当該食品等の販売、製造、輸入等を告示をもって禁止することができることになっています。
残留農薬についていえば、海外からの輸入農作物だけでなく、国産品についても、また、農作物、そのものだけでなく、加工食品についても、基準を超えたものは、地域指定で販売・輸入禁止措置をとることが可能になったわけですが、これで、安心することはできません。
衆議院厚生労働委員会(7月19日)での質疑のTV中継と議事録
リアルプレイヤー メディアプレイヤー
★残留基準が緩ければ意味がない
前述の法改定は、残留基準を超えることが、包括禁止の要件のひとつになっています。 しかし、忘れてならないのは、残留基準が国際平準化という名のもとに、緩く設定されていることです。前述のように中国産のホウレンソウがやり玉にあがったのは、残留基準が0.01ppmと低い数値であったからです。これが、DEPやMEP並の基準であったら、違反件数は大幅に減ったことと思われます。
表 有機リン系殺虫剤のADIと残留基準(ppm)−省略−
−中略−
私たちは、厚生省がこれら新残留基準の策定をはじめた91年から、@毒性だけでなく、残留実態に基づく基準を設定すること、A同じ作用機構の農薬はまとめて総量規制すること、B基準のない農薬や農作物について、規制措置がとれない現行制度を食品添加物並のポジティブリスト制にすること、C日本では適用されないポストハーベスト使用を認めないこと、などをかかげ、残留基準をさげることを求めてきました。
しかし、厚生労働省は、このことに耳をかさず、現在230近くの農薬について設定されている残留基準を、来年度から3年間でさらに200程度の農薬について、増やすとの方針を示しています。
高い残留基準をそのままにして、法を改定したり、新たな農薬の残留基準を設定しても、国民の農薬摂取量を減らすことにはなりません。
★残留基準がなければ、意味はない
現在、残留基準の殆どは、農作物についてしか設定されていません。
今回問題となった冷凍野菜をはじめ、ジュース、ジャム、酒類、食用油、漬物、乾物、麺類、シリアル食品、パン、菓子、乳製品、魚肉・畜産加工品、その他の加工食品について、残留基準はなきに等しいといって過言ではありません(輸入食肉、牛乳などに一部農薬の暫定基準があるのみ)。加工食品についても、基準を作らなければ、改定法の力は半減します。
さらに、表−略−でわかるように、MEPのおくら、こまつな、サヤインゲン、セロリ、にんにくなどには残留基準はありません。基準は、すべての農作物で決められてはいません。農薬の場合、食品添加物と異なり、基準のないものについては、食品衛生法違反として、法的な取締はできないのです。したがって、外国産のにんにくにMEPがいくら残留していても、よほどのことがないかぎり、フリーに市場に出回るということになります。
このような不合理を防ぐために、わたしたちは、前述のポジティブリスト制度を提唱しています。
★農薬摂取量を減らすために−ポジティブリスト制度の実施を
ヨーロッパでは、欧州委員会が、7月のはじめに、2003年7月までに、メーカーが安全基準に達していることを証明できなかった農薬320種を市場から撤去するとの方針を明かにしました。今後、さらに150種の農薬が追加されるだろうとのことです。農薬を増やし、残留基準をふやすという日本の方針とは、えらく考え方が違いますね。
私たちは、農薬について、残留基準の設定数を減らしても安全性が保たれるよう、ポジティブリスト制度をとることを求めます。
−中略−
使用する農薬の数を減らし、ポジティブリスト制度をとり、リストにない農薬を含む農作物や加工食品の製造・輸入・販売をしてはならないとし、農作物やその加工品にも農薬表示することを義務付ければ、必ず残留農薬の減少につながります。7月19日の委員会では、賛成多数で、改定案は可決されましたが、その論議の中で、厚生労働大臣が、2、3年でポジティブリスト制度にしたいと表明したことが注目されます。
また、委員会では、改定法の運用について、議員から、食品の安全確保のための検疫・検査、研究体制の充実強化すること、食品衛生行政の運営に当たっては、一般消費者等の意見を適切に反映すること、食品衛生法の抜本改正を早急に行なうことほかの決議文も採択されました。
今回の改定案を実効性のあるものにし、農薬摂取量を減らすには、まだまだ、やることがあります。
@調査実施機関が国か地方自治体であるかにかかわらず、食品衛生法違反の
国内・国外産農作物及び加工食品について、違反の事実とともに、出荷元
を明らかにさせること。
A加工食品について残留基準を設定すること。
B残留基準を厳しくすること。
Cポジティブリスト制度をとること。
を求める運動を展開していきましょう。
●参考:7月4日、ヨーロッパ委員会が2003年7月までに320農薬の市場撤退方針を打ち出す。
渡部さんの日本語訳と撤退予定農薬リスト
この記事の出典:反農薬東京グループホームページ。購読希望の方は、〒番号/住所/氏名/電話番号/○月発行○号からと購読希望とかいて、注文メールをください。
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作成:2003-01-27、更新:2003-02-09