ダイオキシンにもどる
t13003#連載 農薬などに含まれるダイオキシン BCNP中のダイオキシン問題#02-07
 水田用除草剤CNP(商品名MO)中に不純物として含まれるダイオキシン問題は、82年から83年にかけて、消費者・農民による全国的な第一次MO追放運動の契機になりました。その後、CNPは胆嚢ガンとの因果関係が明かになり、第二次MO追放運動の結果、94年3月に、メーカーの三井化学がその製造自粛・回収を表明、96年9月に登録が失効しています。
 CNP中のダイオキシンは、その同族体・異性体分布パターンをみると、1,3,6,8−と1,3,7,9−四塩化ダイオキシンが多くを占め、いずれもがTEF(2,3,7,8−四塩化ダイオキシン等価換算係数)がゼロであるため、総ダイオキシン類は0.2%強と高濃度で含有されるにもかかわらず、毒性が過小評価されてきました。
 99年、横浜国立大学の益永さんらが、はじめて、CNP中にTEQとして1万ng/g原体の濃度でダイオキシンが含まれていたと発表した時、農水省やメーカーはそんな分析結果は、信用できないといっていたのですが(記事t08801)、以下に示す今回の独自調査で、やっと、益永さんらの主張を認めたわけです。

(3−1)CNP中ダイオキシン含有量調査−データバラツキの原因は
 農水省の調査では、CNP中のダイオキシンで分析の対象になったのは、TEFがゼロでない17種のダイオキシン・ジベンゾフラン及び12種のコプラナーPCBだけで、他の同族体・異性体は一顧だにされていません。
 農水省が入手したのは1972年から94年にかけて製造された24検体(粒剤11、乳剤12、原体1)で、ダイオキシンの検出率は88%、実測最大値は2万7000ng/g原体、TEQ最大値は1万3000ng/g原体でした。
 一方、メーカーの三井化学も、農水省と同じ29種の異性体・同族体について、スイスのRCC社で分析した結果を発表しました。1968年から91年製造の33検体(粒剤23、乳剤10)中32検体にダイオキシンが検出され、実測最大値は2万9000ng/g原体、TEQ最大値は7400ng/g原体でした。
 TEQであらわしたダイオキシン濃度と推定製造年の関係を図−省略−に示しました。農水省と三井化学の調査結果を粒剤、乳剤、原体(これは、農水省の1検体しかなく、図に表示できなかったが、83年製造で、8.8ngTEQ/gである)に分け、分散図としてプロットしました。検出範囲が、0.02から13000ngTEQ/gと幅ひろいため、一部100ng台以下の表示は数値で示してあります。
 □印表示の三井化学の調査と△印表示の農水省の調査との間にも、また、白抜き表示の粒剤と黒塗り表示の乳剤との間にも、ダイオキシン濃度にこれといった傾向はみられません。
 製造推定年による濃度変化では、75年前後にピークがみられました。バラツキ幅が結構あり、特に75年は3900〜13000ngTEQ/g、76年は1700〜11000ngTEQ/gでした。
 三井化学が99年に発表した77年製造のCNP粒剤中のダイオキシン濃度は62ngTEQ/gと今回の発表とでは、100倍以上の差があることを含め、バラツキの原因を尋ねたところ、
「@原体は一定量ごとに反応釜で製造するため、運転制御のごくわずかのバラツキで製造ロットによってはダイオキシン類等の不純物がppb〜ppmオーダーで異なる。Aサンプルが古かったことにより粒剤中での原体に偏りが生じて、分析上のバラツキが生じた。B分析において、多く含まれる混ざり物の除去が技術上困難な点があり、この除去の仕方によってバラツキが生じた」という3つの可能性を示唆してきました。もうひとつ、保管条件との関係はなかったのかということが気になります。
  *農水省による農薬に含まれるダイオキシン類の調査結果について
  *三井化学によるCNP除草剤中のダイオキシン類分析結果について

(3−2)82年以降のダイオキシン濃度低下原因は、製造工程の改造
 図をみると、製造推定年の82年を境に、ダイオキシン濃度が150ngTEQ/g以下に激減していることがわかります。82年というのは、CNP中のダイオキシン問題が毎日新聞で大きく報道され、PCPやCNPの製剤工場であった久留米市にある三西化学農薬公害裁判の原告・支援者グループが火付け役となり、夏頃からMO追放運動が全国化していった年でもあります。この時、ダイオキシン含有量を減らすため、製造工程を変更したのかと三井化学に尋ねてみましたところ、
「CNPは上市当初、2塩化体であるニトロフェン(NIP)が微量含まれることから、特許問題に発展し、その含有率の低減の為に技術的な検討をしてきました。更に、1979年NIPに有毒作用があると米EPAが認定したことから、米国ではNIPの回収が行われました。この情報を受けてNIP削減のための製品の精製工程を追加しました。その結果として、NIP削減とともに、当時問題になっていた毒性のないダイオキシン1368−TCDDが削減され、また同時に当時検出されなかった毒性のあるダイオキシン類も削減されたと考えます。」との見解が示されました。
 要するに、精製工程の追加により、意図しなかったダイオキシンまでも減ったというわけです。81年の時点でも、原体中に含有される不純物ダイオキシンのことなど、意に介さずにCNPを製造しつづけようとした、三井化学の姿勢は問われて然るべきでしょう。

(3−3)2,3,7,8−TCDDはどこへ消えた
 農水省と三井化学の分析結果で、同族体・異性体別の詳細データをくらべてみると、最も毒性の強い2,3,7,8−TCDD(四塩化ダイオキシン)が、農水省の調査では、24検体中半分の12検体に0.11〜220ng/g検出されているのに対して、三井化学の調査では、33検体中1検体に133ng/g検出されているだけです。
この差違について、三井化学の見解を聞きました。
「2,3,7,8−TCDDについては、夾雑物の影響により、定量分析が容易でないと言われています。また、2,3,7,8−TCDDの検出に特に着目した分析を行うかどうかでも結果が異なるときいています。分析結果によれば、製剤それぞれの検出下限界は0.01〜130ngTEQ/gと大きな幅がありますが、夾雑物の影響と考えます。サンプルのうち定量分析が可能であったものは1点で、その値が133ng/gでした。分析に関しては、分析期間の技術レベルから十分に信頼できるものと考えております。」とのことです。
 いいかえると、三井化学が委託した分析機関は、2,3,7,8−TCDDをあえて、分析しようとせず、また、分析精度もあまり高くなかったため、検出率は、低かったということになります。
 四塩化ダイオキシンとして、CNP中に最も多く含まれるのは、前述の1,3,6,8−/1,3,7,9−TCDD(TEFはゼロとなっていますが、これら異性体の毒性はよく判っていません)で、その濃度は、2,3,7,8−TCDDの10000倍以上の数万〜数百万ng/gあることが判っています。RCC社の技術では、2,3,7,8−TCDDは、その影に隠れて、分離定量できなかっただけだと思われます。

(3−4)コプラナーPCBのなぞ
 もうひとつ、ダイオキシン濃度調査の詳細データをみて、不思議に思ったのは、12種のコプラナーPCBについての分析値です。農水省と三井化学を合わせた57検体のうち、1968年製造の1検体のみが実測値で880ng/gのコプラナーPCBを含んでいました。
 何故、この年だけなのか。68年といえば、PCBカネミ油症事件がおこった年で、PCBの毒性や残留性がまだ注目されておらず、PCBメーカーは、その用途として農薬補助成分にと売り込んでいましたから、ひょっとして、CNPに添加されたことはなかったかを三井化学に尋ねてみました。
回答は「CNP製剤の補助成分としてPCBを添加した事実はありません。そのため、当該サンプルのみコプラナーPCBが検出された原因は不明です。」としかありませんでした。三井化学はこの事実を原因不明なまま残しておきたいようです。

(3−4)まだまだ、終わらないCNPのダイオキシン問題
 94年春から、自主回収をはじめたCNP製剤について、その状況はどうなっているかを三井化学に尋ねましところ、以下のようでした。
  年月          回収量
94・3〜99・7    8263トン
99・7〜00・3    87.8
00・4〜01・3     5.34
01・4〜02・3     2.31
「回収したCNP除草剤に関しましては、倉庫建屋内に保管し、厳重な管理をしております。保管状況については地元行政に定期的に報告するとともに、国及び地元行政に査察をして頂いております。また、CNP除草剤が農家などから発見情報がもたらされた場合には、都度回収を継続して実施しております。」とのことです。
 99年時点では、CNPは福岡県にある大牟田工場で保管されているということでしたので、その状況はかわらぬようです。この工場は、連載@のジクロロベンゼンのところで述べたように、ダイオキシンの汚染源になっていた、いわば、いわくつきの工場であるだけに、8300トンを超えるCNPの漏洩が保管中に起こらないよう、また、万一火災を起こして、新たなダイオキシンを発生させないよう、国も自治体も厳重な査察を継続してもらいたいと思います。
 CNPは、PCPと同様、ダイオキシン含有が判明していたものの、何の規制もなく、長年放置状態がつづきました。図中の実線は、CNP原体の生産量の推移を示すものです。ダイオキシン濃度の推移と比べてみる時、生産量の多かった時期が、ダイオキシン濃度も高かった時期と重なり、一層のダイオキシン汚染拡大につながったものと推察出来ます。そして、PCPと同様、そのつけは、今後何十年も続くことになるでしょう。さらに、TEFがゼロであるダイオキシン類が分析されていないことも、不安材料のひとつです。もし、1,3,6,8−/1,3,7,9−の毒性が明かになったら、その時は・・・・・。
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作成:2003-01-27