食品汚染・残留農薬にもどる
t13905#連載:水道水中の農薬規制について その2#03-04

 前号で述べたように、水道水中の農薬については、水質基準でなく、水質管理目標設定項目を設定することが提案され、検討対象として101種の農薬が選定されました。ここでは、この考えの妥当性について検証してみましょう。

★農薬の選定の問題点
 検討対象農薬の選定に際しては、各農薬のADI(一日摂取許容量)と年間出荷量が目安にされています。
 農薬の毒性は、慢性毒性だけではありませんから、いくらヒトの安全確保が第一だといっても、ADIのみを選定指標とすることは納得できません。ヒトの飲み水に、水生生物の生育が阻害されるような化学物質が混入していては、安心できませんから、農薬取締法で、水生生物に対する影響を防ぐために使用基準等が決められている農薬も選定対象とすべきです。
 使用量の多い農薬は、それだけ、汚染度が大きくなる恐れがあるのは、当然ですが、年間50トン以上という線引き基準は問題です。せめて、化学物質の排出規制をめざすPRTR法並の基準−第一種指定化学物質で、年間生産量10トン以上−をとるべきでしょう。また、いままで、検出されなかったからといって、毒性に問題のある農薬の監視を怠ることはできません。
 前号の表に挙げた101種の農薬のほかに、第二候補群(50t以上だが、測定方法が確立されていない)と第三候補群(50t未満で、検出の恐れがないもの)それぞれ26種と79種が挙げられていますが、第二候補群を早急に検査対象にすることはもちろん、表にない農薬を上記の観点から追加すべきです。

★農薬の評価値の問題点
 ADIは、農薬の選定だけでなく、評価値の算出のもとにもなっています。しかし、ADI算出の根拠になる毒性試験データは、公開されていませんから、その妥当性について、科学的な論議のしようがありません。
 体重50kgのヒトが一日2Lの水を飲むとの仮定を認めても、個々の農薬の評価値を求める際に、ADIに乗ずる係数は0.13から0.024と幅があり、とても、科学的なものとはいえません。多くの農薬で、水から摂取する農薬はADIの10分の1だとして、係数は0.1となっているのですが、おなじみの有機リン剤MEP(フェニトロチオン)の場合は、係数は最も低い0.024で、この点、何の説明もなされていません。

★総農薬方式の基準が0.5から1.0に
 検討対象に選定された農薬毎の検出値/評価値比の総和(以下Σ値という)で、総農薬を規制しようというのが総農薬方式です。当初、Σ値を0.5にするという案が提示されていました。これは、実測結果から、Σ値が0.2、0.3になることがあっても、0.5となることはないから、最大見積りを0.5にしておけばよいとの考えで、提案されたものです。しかし、論議の過程で、1とする方が、科学的だということになりました。
 検討対象とされた個々の農薬のどれかひとつが評価値を超えた場合、相対比の総和であるΣ値は1を超えることになります。すなはち、Σ値を1としたことにより、個々の農薬の基準も評価値を超えてはならないということになります。この点は、実測値を基に提示された当初案の0.5よりは、科学的意味があるかのような錯覚を抱かせますが、1になったことは、疑いもなく、当初案より2倍多い農薬の摂取が是認されたことを意味します。
 一方、EUでは、水道水中の農薬を絶対濃度で規制しており、農薬の種類を問わず、単一農薬で0.1μg/L、総農薬で0.5μg/Lとしています。農薬メーカーらは、毒性の異なる農薬を同一視することに反対しましたが、現在でも、この数値で運用されているようです。

★検出限界の魔術を見抜こう
 もうひとつ、基準を運用するのに重要なことは、分析方法の精度、得に検出限界をどの程度にするかということです。
 農薬毎に検出限界が異なると次のような不都合がおこって、Σ値を過小評価することになるので注意を要します。たとえば、個々の農薬の検出限界を評価値の10分の1とすると、0.01mg/Lの評価値の農薬の検出値が0.001mg/Lの場合は相対比が0.1とカウントされますが、0.0005mg/Lの場合、相対比は0.05でなく、ゼロと評価されることになります。総農薬のΣ値を算出する際、仮に20種の農薬で、それぞれの相対比が0.05あったとすると、Σ値=0.05×20=1で危険な水となりますが、検出限界が10分の1では、Σ値=0で、全く安全な水となります。
 こんな数字の魔術で安全性が保証されるとはとてもいえませんから、すべての農薬で検出限界を技術的にも可能な0.01μg/Lとした分析を行なうようにすべきです。

★どちらのエイヤ方式を選ぶか
 上述のように、日本も、EUも、この程度なら当面は問題ないだろうとして、目標値なり基準値をエイヤーと決めたエイヤ方式といえるものです。
 もともと、飲み水から摂取する農薬等の量は、少ない方がいいに決まっていますから、管理基準を、実測値よりも高く設定することは、理屈にあっていません。
 農薬を実際に摂取する量を考えてみましょう。
たとえば、除草剤グリホサート(ラウンドアップ)の場合、日本の総農薬方式では、評価値は2mg/L(実際に散布する濃度の500分の1くらい)ですから、他の農薬が含まれなければ、その10分の1の200μg/Lが含まれた水でも飲んでいいということになりますが、EUでは、0.1μg/L以下にしなければならないのですから、どちらの水を良とするかは自明ですね。

    【参考】厚生労働省厚生科学審議会生活環境水道部会の 水質基準の見直しについて
      第1候補群の101農薬 第二候補群26種と第三候補群79種

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作成:2003-09-26