食品汚染・残留農薬にもどる
t14103#3年以内の残留農薬のポジティブリスト制度実施が決まったが#03-06
5月16日の「食品安全基本法案」の可決成立に続いて、5月23日に「食品衛生法等の一部を改正する法律案」が可決成立しました。
その結果、農薬については、残留基準を超える農薬が残留している食品は輸入・加工・販売等をしてはならないという従来の法規制に加えて、残留基準のない食品も同様に流通が出来なくなります。すなはち、残留農薬ポジティブリスト制度を採用することが決められたわけです。また、現行の登録保留基準と残留基準の二本立て基準を、登録と同時に残留基準を設定して一本化する形にもっていくことにもなりました。
いままでは、残留基準のない農薬は、いくら残留していても、流通を規制できなかったため、私たちは、農薬についても、食品添加物並にポジティブリスト制度にすることを求めてきました。今回の法改正により、3年以内にこの制度が実施されることになりましたが、これで、万々歳というわけにはいきません。今以上の多くの農薬に残留基準が決められるだけでなく、外国や国際基準に合わせた緩い基準が設定されようとしているからです。
その一端をかいま見る思いがしたのは、改正法の成立に先だつ5月7日の、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会・残留農薬部会合同部会での、残留基準の新規設定と見直し結果です。その内容をどんなものであったかをみて行きましょう。
★新たな農薬の基準
表1−省略−に示した11種の農薬について、新に残留基準が設定されました。表には、登録年月日や急性毒性区分、魚毒性分類、ADI(一日摂取許容量)などを示しました。 ADIの項の()内の記述は、その試験を基に無毒性量が決定されたことを意味します。毒性については、合同部会に提出された資料から、発癌性と催奇形性の認められた試験の内容を簡単に記述しました。発癌性のある農薬が6種、催奇形性のある農薬が3種あります。
この部会では、ADIの数値やその設定の基になった毒性試験資料などの検討は行なわれません。発癌性のある農薬についても、非遺伝的メカニズムであるとされ、無毒性量以下ならば、問題ないとされます。ADIを既定のものとして、国内における農作物の消費量を勘案することと、農作物からの総摂取量をADIの80%以下にするとの方針のもとに、農作物毎の残留基準がきめられていきます。
しかし、既に登録保留基準が設定されていたものは、その数値がそのまま援用されますし、外国や国際基準のあるものは、その数値が採用されるのが、殆どのケースです。
今回の11農薬で延べ109の基準が設定されましたが、すべて、この例に漏れません。ただし、につい国内登録保留基準2ppmとアメリカ基準6ppmの二つの数値があったテプラロキシジムの大豆の場合は、輸出国に有利な緩い方の6ppmが採用されています。
表1 新に残留基準が設定された農薬の毒性等 −省略−
★4農薬で残留基準の見直し
残留基準の見直しが行なわれたのは、EPN、フェンピロキシメート、クロルピリホス、マレイン酸ヒドラジドの4農薬です。
フェンピロキシメートについては、ADIの再評価はなく、使用実績のない53作物の基準がなくなり、38作物について、0.05〜15ppmに設定されました。
EPNについては、毒性試験の再評価の結果、ラットの無毒性量が0.14mg/kg体重/日とされ、従来のADIが0.0023から0.0014mg/kg体重/日と変更されたのを踏まえ、使用実績のない果実など22作物の残留基準がなくなり、キャベツなど12作物について0.1ppm、小麦、カボチャについて0.2ppmに設定されました。
クロルピリホスとマレイン酸ヒドラジドについては、農作別の残留基準の見直しの内容を少し詳しくみていきましょう。
【クロルピリホス】
ADIは従来通り0.1mg/kg/日(ボランティアによる21日間の人体実験結果得られた無毒性量に安全係数10分の1を乗じた)ですが、個々の残留基準の見直しが行なわれました。
その結果、
基準が緩和されたもの 24作物
厳しくなったもの 46
変わらないもの 57
作物別で、眼につくものは、以下のようです。
(a)基準が厳しくなった作物
ダイコン根 3→0.5(最大残留0.063ppm)
カブ根 3→1 (アメリカ1ppm)
メロン類/スイカ 0.5→0.01(EU0.05ppm)
キャベツ 1→0.05(アメリカ0.05ppm)
キュウリ/カボチャ 0.1→0.05(アメリカ0.05ppm)
(b)基準が緩和された作物
コムギ 0.1→0.5(アメリカ0.5ppm)
ネギ 0.01→0.2(アメリカ0.2ppm)
オクラ 0.1→0.5(EU0.5ppm)
エダマメ 0.1→0.3(アメリカ0.3ppm)
アスパラガス 0.5→5(アメリカ5ppm)
その他の野菜 0.01→0.5(アメリカ0.5ppm)
バナナ 0.5→3(EU3ppm)
ミカン/レモン/オレンジ 0.3→1(国際1ppm)
茶 3→10(最大残留値4.19ppm)
昨年来、中国産冷凍ホウレンソウで、クロルピリホスの残留基準(0.01ppm)超えが問題となりましたが、その際中国から基準が厳しすぎるとのクレームがありました。EUの基準0.05ppm並に緩和されるかと思ったら、基準値は変りませんでした。
ダイコンの葉とカブの葉については基準が新設されましたが、前者が2ppm、後者が0.3ppmとなっているのは、どのような根拠があってのことでしょうか。変更のあった多くの農作物で、外国基準に対して右へならへして、独自性がないことをみると、あらためて、いままでの残留基準の設定方法がどうなっているのか、問い直してみる必要があるような気がします。
【マレイン酸ヒドラジト】
マレイン酸ヒドラジドのADIは当初5mg/kg/日とされていましたが、01年12月に、0.25mg/kg/日と再評価されました。これは、96年のJMPRの報告でラットの無毒性量が25mg/kg/日とされ、その100分の1が採用されたということです。メーカーの日本ヒドラジンが02年MH系農薬の製造中止・回収にいたったのは、発癌性の不純物であるヒドラジンの含有量がEUの基準を満たすことができないと判断したからでしたが(てんとう虫情報132号)、このことは、なんら触れないまま、残留基準が見直されました。
ADIが20分の1になったのだから、残留基準もこれに準ずるかと思ったら、そうではありません。多くの果実は40→0.2ppmに、野菜は25→0.2ppmとなっているものが大部分ですが、その中に、
(a)基準が緩和された作物
カブ根 25→30(カナダ30)
その他の野菜 25→30(カナダ30)
ニンジン 25→30(EU30)
パースニップ 25→30(EU30)
(b)基準が変わらないもの
バレイショ 50→50(国際基準50)
タマネギ 20→20(最大残留値13.0)
ニンニク 50→50(最大残留値35.4)
ホウレンソウ 25→20(最大残留値18.2)
夏ミカン全果実 40→40
(c)基準の変更度合が低いもの
カンショ 35→10(最大残留値4.2)
テンサイ 20→15(最大残留値9.9)
ミカン 40→35(残留値5.7〜25.0)
オレンジ 40→15 (最大残留値6.2)
ブドウ 40→25(最大残留値18.2)
キウイ 40→20(最大残留値10.9)
パイナップル 40→15(最大残留値6.7)
が目につきます。
無原則に単に外国の例に合わせた数値や残留試験で実測された最大残留値でもクリアーするような数値が残留基準として設定されていることがわかります。
★今後に向けて
厚生労働省は、3年以内に、約200種の農薬について残留基準を決めるとしています。この7月1日から、食品安全基本法に基づく食品安全委員会がADIを決めることになりますが、その設定根拠となる毒性試験の原データ等は、相変わらず、企業秘密の名のもとに、公開されないため、検証することができません。上述のように登録保留基準と外国・国際基準が援用され、基準の設定数のみが増えていくのを見ると、厚生労働省が意図するポジティブリスト制度が、私たち消費者が求める食の安全・安心とは程遠いものだとの印象をぬぐえません。
私たちは、水道水の農薬基準について、個々の農薬についてでなく、農薬グループと総農薬についての二本立ての規制を求めましたが(てんとう虫情報140号)、たべものについても同様な観点での基準設定が望まれますし、さらに、水、たべものだけでなく、空気からの摂取をも含めた、総農薬摂取量についての規制・基準を求めていく必要もあります。
【参考資料】
5月7日厚労省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会・残留農薬部会合同部会の
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作成:2003-11-25