食品汚染・残留農薬にもどる
t14201#こんな残留基準ポジティブリスト制度ならいらない−毒性不明の農薬に一律基準を設定するとは!#03-07

 前号で、3年以内に残留農薬についてポジティブリスト制度が導入されることを紹介し、厚生労働省が意図している制度の問題点を指摘しました(記事t14103) 。
 ポジティブリスト制度とは、農作物に基準の設定されていない農薬が検出された場合は、その流通を禁止するというものです。現行制度は、基準値がないものはどれだけ残留していようと規制はできませんでしたから、ポジティブリスト制を導入することによって今後、少しは、残留農薬の規制が厳しくなるのではないかと思われましたが、とんでもない思い違いであることが判明しました。
 6月27日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会・残留農薬部会・乳肉水産食品部会合同部会で、配布された次頁の図を見てください。残留基準を@規制対象(現在基準値のあるもの)、A暫定基準を設定するもの、B一律基準値が適用されるものと、3つに分けてあります。
 @は今回はそのままのようです。
 Aは、現在基準値はありませんが、コーデックス基準、登録保留基準があれば、そのまま横すべりさせるということです。
 Bは、どこにも基準値のない農薬で、ADIなどのリスク評価がされていないものです。これに一律の基準を決めてしまうというわけですが、これこそ科学的根拠なしの暴挙と言えるでしょう。
 こうして全部の農薬に科学的根拠もなしに基準を設定して、さあ、ポジティブリストだと言って、何が変わるでしょう。どこが規制強化でしょう。以下、詳しく見ていきます。

暫定基準−残留実態調査は基準値緩和の布石−省略−

★安全性評価がないものには一律基準値
 さらに、ポジティブリスト制度を骨抜きにする提案がなされています。図の斜線の部分は「一律基準値」なるものを適用することになっています。残留基準が設定されない空白部分は皆無です。国内外を問わず農薬でありさえすれば、それを使っていようがいまいが、すべての農作物に一律の残留基準を決めるということが、「一律基準」で、その説明には『安全性の評価が行なわれておらず、ADIも不明な未知の物質が広く対象となる』とあります。このような物質は、まさに、使用してはならない農薬であって、ポジティブリストに入らないものであるはずです。毒性不明のものまで、しかもすべての農作物に一律基準値をきめては、基準のない農薬が使用された農作物は市場を流通させないという、本来のポジティブリスト制度の意味が失われます。
 資料では、毒性不明の農薬のADIを0.0001mg/kg/日(毒性評価された多くの農薬のADIの中で最低の部類に入る)とした場合、「一律基準」0.1/0.05/0.01ppmに対応した農産物の摂取量などが机上計算され、体重50kgの人が、1日15g以下しか食べない農作物ならば、一律0.1ppmの基準で問題ないとの見解が示されています。これからは、ADIなど決めずに、1日150g食する農作物の基準0.01ppm、15g食する農作物の基準0.1ppmとすればよいとでもいうのでしょうか。

★似非ポジティブリスト制度は許せない
 毒性試験がなされていない農薬の残留基準をとりあえず、すべての農作物で一律に決めておけばいいという発想は、決して消費者サイドのものでありません。このことで、いったい、誰が得をするのか、考えてみてください。それは、農作物や農薬の生産・販売により利益を得る者であること間違いありません。国内の登録農薬については、適用農作物が決まっており、農薬取締法の使用基準省令で、違反は罰せられるため、適用のない農作物に一律の残留基準を設定しても、規制上の意味をなしません。
 「一律基準」で一番メリットを受けるのは、海外の農産物輸出国といっても過言ではないでしょう。外国でのみ使用されている農薬で、その作物に基準がなければ、ポジティブリスト制度では、日本では販売禁止になり、海外から、WTO協定違反だと非難される恐れが生じます。そんな非難を受けることのないよう、安全性評価がなされていなくても、予め、残留基準を決めておこうというわけでしょうが、このような国民の食の安全をないがしろにし、海外での生産者、特に国際巨大アグリビジネスの意向に沿うようなポジティブリスト制度は断じて許せません。

★消費者本意のポジティブリストをめざそう
 現在でも農薬の神経系・免疫系・生殖系毒性の評価が十分なされているとは言えません。複合毒性については、評価が困難であるとの理由で、手をつけられていません。農薬摂取量を過大にしているポストハーベスト農薬の使用も農産物輸出国のいいなりです。子供や妊婦に対する安全係数をどうするか。農薬グループ別の残留基準や総農薬残留基準の設定は?、空気・水・食品の三大農薬摂取経路による総農薬摂取量規制は? などの未検討な課題を放置したまま、厚生労働省が提案するようなポジティブリスト制度の施行することは、決して、消費者のためにはならず、食の安全に逆行するものです。
 7月から発足した食品安全委員会は、農薬のADIを設定しますが、その根拠となる毒性データは企業秘密ということで公開されません。この検証もできないADIをもとに、厚生労働省が提案通りのやり方で残留基準値を設定した場合、見直しを命ずる権限を有しているのは、当の食品安全委員会です。はたして、委員会は厚生労働省への指導力を発揮するのでしょうか。
 私たちは@国内登録のない農薬・農作物について、海外に合わせた残留基準を設定しない。A毒性・残留性試験データのない農薬・農作物に一律残留基準を設定しないことを柱に、真に消費者を守るポジティブリスト制度をめざしましょう。
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作成:2003-07-26、更新:2003-8-18