農薬の毒性・健康被害にもどる
t14502#盛岡地裁、イカリ消毒に損害賠償命令〜ゴキブリ駆除剤による健康被害裁判で#03-11
 9月2日、盛岡地裁でTさんの訴えていたゴキブリ駆除剤による健康被害裁判で、ゴキブリ駆除剤と有機リン中毒の因果関係を認め、散布業者のイカリ消毒盛岡(株)に対して628万円の賠償金を支払うよう命じる判決が出ました。

 Tさんは盛岡市で独身寮の寮母として働いていました。98年3月20日、会社はイカリ消毒と契約しゴキブリ駆除を実施しました。Tさんは、きちんと掃除しているのでゴキブリなどはいないと主張したのですが、会社は「契約したから」と強引に防除作業を実施しました。
 使われた薬剤はスミチオンVP乳剤とエクスミン水性乳剤で、それらを棚からしたたるように撒き、床はびちょびちょになっていたということです。業者は、1時間たったら入室して大丈夫と帰ってしまい、Tさんはその薬剤の掃除から仕事を始めなければなりませんでした。判決文は以下のように記しています。
 「原告は、このように残留した本件薬剤を拭き取らなければ、夕食の準備をすることも、食器類の収納をすることもできないと考え、まず、床にたまっている薬液をモップで拭き取り、そのモップを水を入れたバケツで洗い、洗ったモップを手で絞るという作業を繰り返した。次に、棚板のしずくをぞうきんで拭き取り、それをバケツで水洗いし、絞るという作業を繰り返した。その作業を終了するころ、原告は、頭痛、身体の重さ、膝から下のだるさを感じていた。」
 その後、医者に行って点滴などしましたが、体調はいっこうによくならず、原因はゴキブリ駆除ではないかと思い当たり、26日ころ、イカリ消毒に問い合わせ、ようやく、スミチオンVP乳剤とエクスミン水性乳剤であることがわかりました。
  医者は、頭痛、眼痛、全身倦怠、筋肉痛、食欲不振、胸痛、咳などの症状が続いていることなどを考え合わせ、有機リン中毒であると診断しました。仕事ができる状態ではなく、別の病院に入院したり、通院したりして治療に専念したのですが、1年後、症状が固定したと診断されてしまいました。医者は、Tさんが訴えた症状の中から、咳、労作時息切れ、動悸、胸、背部痛、肩こり、頭痛、下肢筋肉痛、握力低下、下肢筋力低下、肺活量低下及び胆石症を有機リン中毒の後遺症としてあげています。これだけの症状はあるけれども、もうこれ以上良くならないというのです。交通事故などによる怪我ではないのですから、症状が固定したというのは早計ではないでしょうか。

★裁判へ
 健康を害し、仕事を失い、収入の道を絶たれたTさんは2000年8月に、散布業者のイカリ消毒と雇用主の電気通信共済会を相手に損害賠償の裁判を起こしました−中略−
 ようやく、今年の9月2日、盛岡地裁で判決がありました。主文は以下のとおりです。
 <主文>
  1,被告イカリ消毒盛岡株式会社は、原告に対し、金628万0461円及びこ
  れに対する平成12年8月30日から支払い済みまで年5分の割合による金員を
  支払え。
  2,原告のイカリ消毒盛岡株式会社に対するその余の請求を棄却する。
  3,原告の被告財団法人電気通信共済会に対する請求を棄却する。
  4,訴訟費用のうち、原告と被告イカリ消毒盛岡株式会社との間に生じた分につ
  いてはこれを4分し、その3を原告の、その余を被告イカリ消毒盛岡株式会社の
  各負担とし、原告と被告財団法人電気通信共済会との間に生じた分については、
  原告の負担とする。
  5,この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
 
 これは基本的に原告勝訴の判決です。散布業者のイカリ消毒は、注意義務違反で628万余の賠償金を支払うことが命じられましたが、防除の契約をした共済会は責任を問われませんでした。判決文に沿って詳しく内容をみていきましょう。

★イカリ消毒の注意義務違反−省略
 【参考資料】判決文の抜粋

★共済会は免罪された−省略

★有機リン中毒は認めたが後遺症は部分的
 続いて判決では、原告が有機リン中毒にり患したかどうかを検討して、確かに有機リン中毒だったと認定しています。その理由として、原告は薬剤のふき取り作業や夕食の準備を行ったときから症状が出ている。これらの症状はスミチオンによって引き起こされる有機リン中毒に合致するものであり、他にこれらの症状を引き起こす原因となる事情を認めることができないというものです。
 イカリ消毒などの被告は、診断書に、唾液分泌過多、縮瞳等の有機リン中毒に特有な症状について記載がない、コリンエステラーゼ値の検査で原告の数値は正常だったなどと有機リン中毒にり患してないと主張していましたが、取り入れられませんでした。
 しかし、原告の症状が有機リン中毒の後遺症に当たるかどうかでは、症状の一部を後遺症として認めていますが、全部ではありません。
 原告側のM医師は、原告が平成10年4月21日から、平成11年3月1日までの間に訴えた症状のうち、脱力感、筋肉痛、全身倦怠感、胸の痛み、目の奥の鈍痛、物忘れ、集中力・思考力の減退、頭痛、下半身の痛み、全身のだるさなどについては、有機リン中毒との関係が疑われる症状であるとし、原告が平成13年5月の時点で自覚していた症状のうち、筋肉・関節の痛み、頭痛、眼痛、思考力・集中力の困難、全身の倦怠感・疲労については、有機リン中毒との 関係が疑われるとしています。
 判決は「原告の症状のうち、有機リン中毒の症状であると疑われる症状については、それがなお継続して発現している範囲で、有機リン中毒の後遺障害に当たるものと認めることがでる。」としていますが、症状が固定したと判断して別の医師が認定した咳、労作時息切れ、動悸、胸、背部痛、肩こり、胆石症、握力低下、大腿四頭筋の筋萎縮、肺活量低下、呼吸筋力の低下による拘束性換気障害については、後遺症として認めませんでした。
 被告側の医師は、コリンエステラーゼ値の低下が持続していないこと、末梢神経麻痺について、原告の症状は重症の中毒でないから、たとえ、有機リン中毒にり患したとしてもその影響は1,2週間にとどまると主張していましたが、しかし、コリンエステラーゼ値が回復しても急性中毒の後遺症が残る例がないとはいえないとされ、判決では「原告の症状が重症の中毒ではないとしても、それだけで後遺障害が発生しないとまでは認めることができない。」と後遺症を認めています。

★後遺症の程度が
 では、後遺症の程度はどのくらいか。判決では、後遺症として認められる症状は、いずれも原告の自覚症状を中心とするもので、客観的な指標で計ることは困難であるとして、「原告の労働能力の喪失率について、これを10パーセントとすると評価するのが妥当である。」と結論づけています。自覚症状しか後遺症として認めないとしておきながら、客観的に検証できないとして、労働能力の喪失率を10%として評価するというのは、おかしいのではないでしょうか。これで は、90%は働けるということです。
 この結果、損害賠償も削られ、請求の3割くらいしか認められていません。いつも、損害賠償の裁判では、たとえ勝訴しても非常に低い金額しか認められません。被害者にもっとやさしい判決であってしかるべきだと思います。(文責 辻 万千子)

★原告投稿:ゴキブリ駆除剤による健康被害裁判を闘って

仙台高裁の控訴審で、和解成立


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作成:2004-2-28