環境汚染にもどる
t14802#埋設POPs系農薬のその後−ダイオキシンも含まれていた#03-12

30年以上前に、農水省の指示により、土中埋設処理されたBHC、DDT、ドリン剤等POPs系有機塩素農薬については、2年前の01年12月に、その実態調査結果が公表されました(記事t12403。25道府県174個所に3680トンの農薬が埋設)。
 本年9月には、佐藤謙一郎衆議院議員の質問主意書への政府答弁書で、その後の状況の一端が明かになりました。
 当グループは、農水省リストの載っている25道府県に、次の4つの質問を行ないましたが、その結果を前記答弁書の内容と合わせて、本号で紹介します。

★道府県への質問と回答から
 1)埋設個所の地名について明かにしてください。市町村名で結構です。
 2)埋設個所毎に、埋設状況を教えてください。
 3)埋設個所毎に、その周辺でのPOPs系農薬の環境調査結果を明かに    してください。環境省の示した指針値を超えた埋設個所は詳細な地名    を明示ください。  4)01年の農水省発表以降、判明したPOPs系農薬の埋設個所について    は、その所在地名毎に農薬種類別数量、埋設状況、環境調査結果をお    示しください。
 25道府県すべてから回答が得られ、その結果を表1にまとめました。
回答内容は、まちまちで、滋賀県のように9頁にわたる記者資料を送付してくれたところもありましたし、和歌山県のように、「本県においては、現在、埋設個所はない(H13年度に既に掘り上げ、施錠可能な倉庫で、厳重に保管管理している)」としたり、山口県のように「山口県の状況につきましては、農林水産省が佐藤謙一郎衆議院議員に答弁したとおり」との杓子定規の回答をくれたところもありました。

 1)については、「犯罪の予防その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれたあることから明かにできない」との理由で、市町村名をあかさないところが、13県ありました。農水省が、具体的な場所については、明かにできないとしていることを、拡大解釈して、それだけでは場所を特定できない市町村名まで明かさないというのは納得出来ません。現に、きちんと回答をくれた県もあるのですから。また、基準を超えた場所については、その処理方法を住民に説明しなければならないのに、秘密にするのは、こっそり処理しようというのでようか、困ったものです。

 2)については、回答内容をそれぞれ、表中に記入したとおりです。

 3)については、環境分析を実施したのは180個所中164個所で、そのうち、16個所で、環境省の暫定マニュアルにある管理指針値(土壌の場合は、決められた溶出試験を実施した時の溶液濃度)を超える農薬が検出されています。

4)については、滋賀県の4個所以外、あらたに判明した個所はないとのことです。
 −以下の表と記事は省略−
  表1  道府県別のPOPs系農薬埋設状況
 【宮城県の場合】
 【福島県の場合】
 【長野県の場合】
 【滋賀県の場合】
  表2 滋賀県の埋設個所での土壌中のPOPs系農薬の分析調査
 【鳥取県の場合】
 【熊本県の場合】
★処理方法は、いまだ確立せず
 昨02年8月30日に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が閣議決定されました。同条約の第六条には、「ストックパイル及び廃棄物から生ずる排出を削減し又は廃絶するための措置」の条項があり、POPs系農薬やダイオキシン含有農薬の廃棄物や回収物についても、適切に処理することが求められています。
 過去において農水省の指示で埋設されたり、すでに回収されているもの、さらに、現在、農家が保有しているPOPs系農薬等について、今後、どのように処理されるのでしょう。

 質問主意書に対する答弁で、農水省は『財団法人残留農薬研究所に委託して、平成12年度から、メカノケミカル法(回転する円筒内に鋼球等を入れた粉砕器で物質を粉砕する際に化合物が分解しやすくなることを利用して、常温・常圧で有機塩素系農薬を分解する技術)、ジオメルト法(処理対象物に設置した電極に通電することにより生じた約二千度の高熱によって、有機塩素系農薬を分解する技術)等の技術について、当該技術を用いた場合の有機塩素系農薬の分解率及び有害物質の生成の有無の検討を進める』としていますが、その実証試験で、どのような結果が得られたかは不明です。
 一方、環境省のPOPs対策検討会では、10月21日開催された第四回会議で、01年度と02年度に実施されたPOPs農薬無害化処理技術実証等検討調査の結果が明らにされました。
環境省POPs対策検討会(第4回)議事次第にあるH13年度資料H14年度資料  社団法人「土壌環境センター」が実施したもので、 @直接溶融ロータリーキルン方式とA外熱式乾留炉+二次燃焼炉方式の二つが検討されています。  両方式とも、埋設POPs農薬を用いた実験で、その分解率を高め、燃焼に際して発生するダイオキシン類(コプラナーPCBを含む)が、排出基準に適合するような条件が検討されています。埋設POPs自体に含有されているダイオキシン類よりも排出ダイオキシン類の量は少ないものの、新に生成するHCB(ヘキサクロロベンゼン)の排出に問題がある場合もみつかっています。
 運転が炉の設計通りいかず、高温が保持できなかったり、バグフィルターがうまく働かなかったりすると、POPsの分解率が低下したり、投入量よりも多いダイオキシン類が排出される恐れがあります。炉の残灰やバグフィルターに捕捉された飛灰について、POPsの含有濃度そのものの規制が検討対象になっていないのも気懸かりです。
 埋設されたものの中には、POPs系有効成分、粘土類を補助成分とする粉粒剤、溶剤を含む乳剤、他の農薬との混合剤だけでなく、有機リン剤や水銀剤ほかが混入している場合もあります。容器・包装資材、農薬保管用品、コンクリート容器・槽も処理しなければなりません。さらには、散布器具や保護具、研究用器具なども捨てられているかもしれません。その上、POPsで汚染された土壌の処理方法も開発される必要があります。
 埋設物にいろいろな形態のものが存在するため、一括処理するよりも、溶剤可溶性のものと低汚染度の固形物にわけて、処理した方がいいかもしれません。
 今のところ、両方式ともせいぜい各年2日間程度の実証試験ですし、まだ、安定運転の技術が確立したとはいえません。

★POPs系農薬中のダイオキシン類
 環境省の試験で、埋設されていたPOPs系農薬自体に、ダイオキシン類が混入していることが判明しました。表3に、製剤毎に含有農薬活性成分とダイオキシン類濃度をしめしました。
 BHC剤は、表示の有効成分濃度と総POPs濃度(表示成分以外のものも含有されているケースがある)に大きな違いがみられますが、これは、製剤の中に活性成分γ体だけでなく、α体やβ体、δ体という異性体が多く含まれているからで(日本では、γ体の分離工程をはぶき、他の異性体を増量剤程度に考えていた。そのため、BHC汚染が一層拡大する原因となった)、三共ガンマ粒剤では、α体が約77%含有されていました。
 ダイオキシン類は、すべての製剤に検出されています。同じ製剤でも、含有濃度が異なりますので、埋設保管中に他の農薬により汚染されたとの考えを否定することはできませんが、BHCの場合は、単なる汚染にしては、数値が高く、もともとの製剤中に含有されていたことも考えられます。ただし、ダイオキシン類の実測値が3300ng/gと最も高かった三共ガンマ粒剤では、六塩化ジベンゾフランが64%を占めていましたが、同じ試料の前年度の分析では、この同族体は10%以下であること、()内に示したコプラナーPCBの比率などの同族体・異性体組成分布もバラツキから多いことからみて、ダイオキシン類汚染原因を明確にすることは困難です。いえるのは、現行の農水省指導方針−0.1ngTEQ/g以上含有するものを規制する−を超えるダイオキシン類が検出されている場合があるので、埋設POPs系農薬(特に、BHC)の取扱いや保管はダイオキシン含有農薬として厳重に行なわねばならないということです。

表3 POPs系農薬中の有効成分とダイオキシン類分析値 −省略−

★今後の問題
 POPs系農薬の埋設個所で、判明しているのは180ですが、その中には、農薬の所在が正確につかめていないところもあります。ほかに、300kg以下の小規模の埋設個所が、まだ、相当数存在するとの情報もあります(てんとう虫情報97号参照)。農水省も地方自治体も、その埋設個所を積極的に調査しようとしません。アンケート結果に示したように、市町村名すら公表しないのは、あまりことを荒立てず、できれば、わからないままに済ませたいという思惑があるように感じます。
 旧日本軍の投棄・埋設した化学兵器について、環境省は情報の提供を求めていますが、埋設POPs系農薬についても、同様に情報をひろく求めて、埋立場所を特定する努力を惜しむべきではありません。

 環境省の検討会では、01年に出した「埋設農薬調査・掘削等暫定マニュアル」の見直しが検討されています。埋設地点の特定においては、化学兵器の探索に使用された地中レーダも必要と思われます(マニュアル2005/03/30改定版)。
 埋設個所を公開することは、犯罪防止上問題があるとするわりには、埋設個所の監視・保全対策がなおざりになってます。上に建物があり、人が出入りする場合や他の用途に転用される場合は、どうなるのでしょう。情報公開をきちんとした上での厳重管理が必要なのではないでしょうか。
 長野県の事例をみると、既に掘り上げられた場所に土壌汚染がないかも、きちんと確認する必要がありますし、汚染土壌や無害化処理された固形排出物のについては、溶出試験による溶液濃度規制だけでなく、POPsの含有量も規制すべきです。
 また、POPs系農薬の無害化処理技術については、農水省から実証試験結果の報告がありません。環境省では、一括高温焼却に力が注がれていますが、保管用コンクリート資材・汚染土壌ほかの汚染度の低いものの分離処理プロセス、PCBにみられるような化学処理方法、分解菌を使用した微生物処理方法、低温でのメカノケミカル処理方法なども検討されるべきです。
 さらに、BHCについてですが、日本では、DDTと同時に埋設処理されたものは、POPs系農薬とされていますが、てんとう虫情報147号に示した、農家からの廃農薬に回収においては、一般農薬として扱われています。国際的なPOPs条約に、BHCが含まれていないのが、その理由でしょうが、環境省の試験では、ダイオキシンの含有が明かになっていますので、PCPやPCNBと同等に扱った回収・保管管理・処理をすべきだと思います。
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作成:2004-5-25