食品汚染・残留農薬にもどる
t15003#緩い基準を大量に決めても農薬摂取量は減らない〜残留農薬等の暫定基準に関して意見提出#04-01
厚生労働省は、昨年10月28日に、残留農薬等のポジティブリスト制度に関連する暫定基準一次案(約1430頁)を公表し、3ヶ月間にわたり、パブリックコメント(意見公募)を行ないました。農薬のポジティブリスト制度というのは、残留基準のないものは検出されると違反になり、回収などの措置がとられる制度のことです。現在、日本では食品添加物がこの制度で運用されていますが、農薬については2006年頃から実施されることになっています。しかし、厚労省の出しているポジティブリスト制度案は、偽のポジティブリスト制度で、毒性の評価はせず、外国や環境省が決めている基準を横滑りさせ、さらに、毒性のわからないものについては、一括して基準を定め、それ以下ならいいとする案になっています(t14201参照)。
★647の農薬等について暫定基準
厚労省の案では、表1に示したように動物薬195種と農薬452種を対象に、農水畜産物250種(内訳は表2)の暫定残留基準(農作物は農薬,水畜産物は動物薬の基準が主に設定されている)が示されましたが、今回の資料中には、いままで残留基準の評価に際して、公開されてきたADIとその算出根拠となる毒性試験データの概要もなく、単に登録保留基準や海外の基準を踏襲したにすぎませんでした。
また、加工食品の残留基準(52農薬35食品について延べ112、表3参照)が提案されましたが、すべて、国際基準を採用したもので、乾燥いちじく類の臭素250ppmを筆頭に、小麦ふすまや米ぬかでDDVP、MEPが10とか20ppmという高い設定値もみられました。さらに、検出限界以下とする13種の農薬等(表1中のND薬剤)も挙げられています。
表1 暫定残留基準の対象農薬等の数 −省略
表2 暫定基準の対象農水畜産作物の種類 −省略
★パソコンのない人はパブコメできないの?−省略
★(投稿)スミチオンのパンへの残留基準でパブコメ提出(埼玉学校給食を考える会)−省略
**********当グループが提出したパブリックコメント***********
今回、食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度の導入に際して、提案された
規制案について、特に農薬に関して意見を述べるが、これは、農薬に限らず、動物用薬
剤、飼料添加物についてもあてはまることはいうまでもない。
@ポジティブリスト制度の在り方
厚生労働省が提案しているポジティブリスト制度においては、基準が設定されていな
い農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則として禁止するとなっているが、食品
添加物のポジティブリスト制度と同様、基準が設定されていない農薬等が使用された食
品の流通を原則禁止すべきである。
A農薬摂取量を減らすことを目標においた残留基準設定が必要
農薬等の残留基準は個々の化学物質について設定されたADIと農作物等の平均的摂
取量をもとに決められるが、多くの仮定に基づいて算出されたADIは健康な成人男子
が一生涯摂取しても影響がでない量とされているだけで、心身発達途上にある子供(胎
児を含む)や老人、農薬に対する感受性の大な人には、必ずしも安全とはいえない。
また、人が摂取する農薬は多種類におよぶが、複合毒性の評価はなされておらず、個
々の農薬のADIがクリアされることのみをめざす現行残留基準は科学的とはいえない。
農薬は、人の健康にさまざまな影響を与える殺生物剤であるから、その摂取を出来る
かぎり減らそうとする努力が大切である。そのためには、農薬の使用を減らすことも念
頭においた施策がとられるべきであり、対象農薬の数を増やし、かつ、高い残留基準を
設定しても、食の安全・安心にはつながらない。
いままで実施された残留農薬調査をみると、残留基準を超えた農薬の比率は少ないが、
なんらかの農薬が残留している農作物は、約20%に及び、その比率を減らしていくこ
とが望まれる。
以下に総括的意見を記する
B暫定基準と最終残留基準について
(1)ADI設定の根拠である毒性試験データが開示されていないため、基準案の妥当性
が、検討できないのは、問題である。最終基準案の設定に際しては、登録時に提出された
毒性試験、残留性試験のデータを開示すべきである。
(2)個々の暫定基準の設定に際して、国内の登録保留基準と諸外国の基準のうち、低い
数値を採用すべきである。
(3)残留基準に設定に際しては、ADIに基づく単なる毒性評価だけでなく、市場に流
通している農作物等の残留実態調査に基づく平均値(又は中央値)を考慮した残留基準を
設定する。
すなはち、ADIに基づいて算出された基準と残留実態調査にもとづいて算出された
基準の低い方を残留基準として設定し、より農薬の摂取量を減らす方向を打ち出すべきで
ある。
(4)残留基準の設定に際しては、水、空気からの摂取も充分配慮する(特に、農耕地近
郊の大気汚染や室内汚染、街中汚染、飲料水汚染が懸念される農薬)。
(5)妊婦、心身発達途上の子供への影響を配慮した基準を設定する。
(6)化学構造の類似した農薬をひとまとめにした、農薬グループ別の基準を設定する。
(7)総農薬摂取量をへらすため、総農薬基準をきめる。その際、残留農薬の分析精度は、
基準値の100分の1のレベルにする。
(8)原則として、日本において、いままで、その農薬に適用のない農作物の残留基準は、
設定しない。
海外でのみ使用される農薬については、当該国から要請があった場合、毒性・残留性、
残留実態に関する資料の提出を求め、別途検討し、新たに基準が設定されるまで、輸入を
禁止する。
(9)毒性や残留性に問題があり、既に、国内で登録が失効し、使用されなくなったにも
かかわらず、海外で使用されている農薬の場合、当該農作物を輸入禁止する。
日本の農薬取締法では、食用及び飼料用作物に適用外使用することは認められておら
ず、適用のない農薬が使用された農作物は、たとえ、残留基準以下でも販売を禁止となっ
ている。
国内適用のない農薬を外国で使用して栽培された農産物を輸入した場合、残留基準を
超えなければ、市場流通してもよいとすると、国産とのバランスを著しく欠くことになる。
(10)ポストハーベスト農薬について、輸入を円滑にするため、高い数値基準が設けられ
ている農薬があるが、この残留基準は国産品に準ずる基準にする。
収穫直前又は収穫後に使用する農薬は、残留量が高くなり、摂取量が増大することに
つながるため、その使用を認めないよう国際的に取り決めることが求められる。
国産米の場合、くん蒸剤臭化メチル由来の臭素の残留量が問題となり、貯蔵米につい
ては、低温貯蔵に改められた。小麦等の穀類へのEDBは、発癌性故に使用されなくなっ
ている。神経毒性・環境ホルモン作用のある有機リン剤のポストハーバスト使用を止め、
代替技術を開発すべきである。
(11)日本で登録のない農薬は、国際的な又は輸出国におけるADI評価に基づく残留基
準と輸出国での流通品の残留実態調査で得られた平均値(又は中央値)のいずれか低い方
を採用する。
(12)国内又は国外で販売・使用禁止にされている農薬については、その残留基準を設け
ない。
ただし、環境汚染により残留が避けられない農薬ついては、残留基準をNDとしてよ
い。
(13)毒性・残留性の評価がなされていない農薬・農作物については、残留基準を設けな
い。
C残留基準がNDである農薬について
(1)分析方法と検出限界値を明確にして、再度、パブコメを求めるべきである。
(2)動物実験で、発癌性、催奇形性、生殖毒性の認められた農薬については、安全サイ
ドにたった評価をすべきで、その残留基準を原則NDとすべきである。
D魚介類、卵、生乳、畜産物の残留基準について
(1)水系に流入し生物濃縮率の高い農薬については、魚介類についの残留基準が必要で
ある。
また、農薬と同じ成分を含む養殖用薬剤の残留基準も必要である。
(2)飼料の栽培等に使用された農薬、農薬と同じ成分を含む動物用薬剤等が卵、生乳や
畜産品に移行する恐れが大であるため、農薬残留基準の設定・強化が必要である。
E加工品の残留基準について
(1)現在、加工食品の残留基準は、冷凍野菜が生鮮物に準じて設定されているだけであ
るが、食用油、ジュース、酒類、乾物等の原材料に近い加工品については、原料農作物に
使用される農薬等のすべてについて、これに準ずる残留基準を設定すべきである。
(2)加熱調理を伴なう加工食品について、その過程で、新に生成する農薬等の代謝・分
解物で、有害性が判明しているものは、基準を設定すべきである(たとえば、エチレンチオウレア)。
【資料】04/04/13 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会議事録 配布資料
04/05/26 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会議事録 配布資料
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作成:2004-07-23