行政・業界の動きにもどる
t15207#4月から改定化審法が施行〜生態毒性評価の導入/監視化学物質の新設/既存化学物質の有害性報告も事業者に義務付け#04-04
 前号で、殺虫剤ケルセンの登録失効の一因が、四月から施行された新化審法にあることを述べました。この法律の正式名称は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」という長ったらしいものですが、自然環境中で分解し難い化学物質の製造・輸入・使用等の規制が目指されています。
 農薬や医薬品の成分はそれぞれ農薬取締法や薬事法の取締り対象となっているため、原則として、化審法は適用されません。しかし、既存化学物質名簿(73年の化審法公布当時、すでに製造・輸入されていた約2万種の化学物質のリスト)にはいっている場合や同じ成分がシロアリ防除剤など他の用途に使われる場合には、化審法が適用されることになります。そこで、新化審法では、どのような点が改定されたかをまとめてみました。

    【参考】・製品評価技術基盤機構の化審法のページにある改正化審法
        ・経済産業省の化審法のページ
        ・既存化学物質の点検結果(03/10/14、経済産業省公表)

★法の目的に生態系の保護が追加された
 第一条(目的)の条文に人の健康を損なう化学物質による環境汚染の防止だけでなく、『動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある』化学物質が追加されて、生態系への化学物質の影響を配慮せねばならなくなりました。これは、欧米における環境保護の流れに沿った施策です。

★「監視化学物質」が新たに設けられた
 従来法では、難分解性かつ高濃縮性の化学物質で、 継続的に摂取される場合に、人の健康を損なうおそれがあるものについては、「第一種特定化学物質」に指定され、製造・販売禁止となっていました。また、難分解性だが高濃縮性でなく、かつ有害性が明確でない化学物質は、まず「指定化学物質」の指定を受け、人の健康を損なうおそれがあることが明かになれば、「第二種特定化学物質」として、生産・輸入数量の把握がなされることになっていました。
 新化審法では、人だけでなく、動植物への毒性も評価されることになり、「指定化学物質」は廃止され、新たに「監視化学物質」という名称で、有害性の調査と生産・輸入数量等の報告が義務付けらることになりました。
 「監視化学物質」は、3つに分けられ、難分解性かつ高濃縮性のあるものは「第一種監視化学物質」、難分解性だが高濃縮性でなく、長期毒性(人)に該当する疑いのあるものは「第二種監視化学物質」、難分解性だが高濃縮性でなく、長期毒性(人)に該当する疑いないものは「第三種監視化学物質」に指定され、判定のための有害性調査が必要となりました。
 それぞれ、有害性が確認されれば、「第一種監視化学物質」は 「第一種特定化学物質」に、「第二種と第三種監視化学物質」は「第二種特定化学物質」に格上げされ、前者は製造・輸入・使用が事実上禁止され、後者は数量規制がとられることになります。

★有害性調査の中身はどんなものか
 有害性調査の内容は、第何種の監視化学物質の指定を受けるかにより、異なります。  「第一種」の場合は、『当該化学物質が継続的に摂取される場合における人の健康又は高次捕食動物の生息若しくは生育に及ぼす影響についての調査』です。 具体的には、慢性毒性、生殖能及び後世代に及ぼす影響、催奇形性、変異原性、がん原性、生体内運命又は薬理学的特性、ほ乳類の生殖能及び後世代に及ぼす影響又は鳥類の繁殖に及ぼす影響についての調査を求められます。
 「第二種」の場合は、人の健康に及ぼす影響についての調査で、具体的には、慢性毒性、生殖能及び後世代に及ぼす影響、催奇形性、変異原性、がん原性、生体内運命又は薬理学的特性についての調査が求められます。
 「第三種」の場合は、生活環境動植物の生息又は生育に及ぼす影響についての調査で、具体的には、藻類の生長に及ぼす影響、ミジンコの繁殖に及ぼす影響、魚類の初期生活段階における生息又は生育に及ぼす影響、その他の生活環境動植物の生息又は生育に及ぼす影響についての調査が必要となります。
 農薬の登録に際しては、多くの毒性試験等が既に実施され、その評価がなされていますので、新たに調査せねばならないのは、鳥類の繁殖試験ぐらいでしょうか。この点についていえば、ダウケミカル日本(株)がケルセン回収時に『化審法で、生態系中の動植物のデータを大量に求められる可能性が出ていた。こうしたデータ収集には約10億円かかる、としている』(朝日新聞3月22日付)と言っていたのは理解できません。

★既存化学物質でも、事業者に有害性情報の報告が義務付けられた
 新化審法では「監視化学物質」と「第二種特定化学物質」について、製造・輸入事業者が、有害性情報(前節で述べたさまざまの試験を自ら実施して得た情報やそれと同等の公開されていない知見)を入手した場合には、国へ報告することを義務付ける条文が加わりました。この義務は、新規化学物質だけでなく、既存化学物質にも課せられることになっているのは、一歩前進ですが、国へ報告されたものは、すべての国民に公開されるなければ、その意義が薄れます。

★「監視化学物質」候補の農薬
  いままでに、実施された既存化学物質の中で、農薬関係では、ケルセンが難分解性かつ高濃縮性のある化学物質と確認されたほか、難分解性であるが、高濃縮性ではないとされているのは、以下のものです。
    CYAP(主な商品名サイアノックス)、MCP(MCPA)
    2,4−PA(2,4−D)、アトラジン(ゲザプリム)
    アメトリン(ゲザパックス)、カーバム(キルパー)
    クロルピクリン(ドロクロール)、ジチアノン(デラン)
    ダゾメット(バスアミド)、トリフルラリン(トレファノサイド)
    ポリ(オキシエチレン)=アルキルフェニルエーテル(展着剤)
    ピリダフェンチオン(オフナック)、マラチオン(マラソン)

 また、難分解性が確認されている農薬には
    ジネブ、有機銅(オキシン銅)、PHC(プロポキシル)、メタアルデヒド
があります。今後の有害調査の結果次第では、これらの中には、「監視化学物質」に指定される農薬もでてくるかもしれません。
    【参考】・既存点検結果DB
        ・既存化学物質の安全性点検に関するお知らせ


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作成:2004-9-25