農薬の毒性・健康被害にもどる
t15301#農薬中毒死者は漸減傾向(2001年〜02年)〜人口動態統計、科学警察研究所・農水省資料から〜やはり、除草剤パラコートによる自殺がトップ#04-05

 てんとう虫情報118号の記事t11807に、農薬による中毒死者数について、1999年までの厚生労働省の人口動態統計と科学警察研究所の統計をまとめましたが、2000と2001年の資料を入手しましたので、ここで紹介するとともに、農水省の調査結果にも触れたいと思います。なお前二者の統計はその数値のほとんどが、自殺による中毒死であることを念頭において、記事をお読みください。

★厚生労働省の人口動態統計では、中毒死者はやや減少
 厚生労働省が毎年発表する人口動態統計から、農薬による死者数を表1に示しました。この統計では、国際的な死因分類コードで統計が示されており、個々の農薬名の記載はなく農薬の種類別コード毎に性別と年齢幅別死者数が挙がっています。
 1999年までの4年間は毎年1000人を越える人が農薬で死亡していましたが、2000年は941人、2001年は860人と漸減傾向にあります。
 農薬種類別で最も多いのは、相変わらず除草剤・防黴剤によるものですが、2000年47、2001年44%と漸減傾向ににあり、ついで、有機リン・カーバメート系殺虫剤が31、2%で、このところあまり変化がありません。
 この統計では、中毒状況はわかりませんが、ほとんどは次の科学警察研究所の資料からみて自殺によると思われます。
   表1 厚労省人口動態統計−農薬による死者数推移

    農薬の種類      2000年           2001年      1996-99の
                                                 平均比率
    リン・カーバ殺虫剤  293人  31.3%   275人  32.0%    32.7%
    ハロゲン殺虫剤      9     1.0      3      0.3        1.0
    他の殺虫剤      17     1.8      14     1.6        2.4
    除草剤・防黴剤  443    47.1     382    44.4       48.4
    殺鼠剤           4     0.4       2     0.2        0.4
    その他の農薬    12     1.3       7     0.8        0.9
    詳細不明薬剤   163    17.3     177    20.6       14.6
    合計           941   100       860   100        100
★科学警察研究所資料では、年間約700人の中毒者
 警察庁の管轄下にある科学警察研究所の資料には、東京都と神奈川県を除く全国の事例が個別の一覧表となって掲載されています。
 薬剤別の中毒者数をまとめたのが図です。図には、2000又は2001年のいづれかの年で、年間単一農薬で5人以上の中毒者があった薬剤を選んで、種類別で総数の多いものを載せてあります。
 年間の中毒者数は2000年が728人、2001年が613人でした。若干の自殺未遂や過失、事故をのぞいて、そのほとんどは、自殺による死者です。
 農薬の種類では、除草剤によるものが最も多いのですが、2000年の342人(約47%)から2001年には262人(約43%)と80人ほど減少しています(このうち、パラコート−ジクワット剤(商品名:プリグロックスLでは70人減)。成分別では、毒物のパラコートを含む2剤をトップに、毒劇指定のないグリホサート(ラウンドアップ)、グルホシネート(バスタ)、DCPA−NAC混合剤(クサノン)が続き、これら5種の除草剤成分の順位は、6年間かわりません。
 図に挙げた10種の殺虫剤による中毒者は、2000年の246人(約34%)から2001年には252人(約41%)とやや増加しています。成分別では、カ−バメート系劇物であるメソミル(ランネート)が依然としてワースト1で、実数も比率も96-99年より増加しています。有機リン剤は、DEP=トリクロルホン(ディプテレックス)、DDVP=ジクロロボス(デス)、DMTP=メチダチオン(スプラサイト)のほか、毒劇指定のないMEP=フェニトロチオン(スミチオン)、マラソン及びその複合剤も目立ちます。また、登録失効して30年以上経つ、特定毒物パラチオン(ホリドール)で、年間4、5人死ぬ人がいるのは、農家の納屋の片隅にまだ、残っているせいでしょうか。
 殺菌剤では、例年とかわりなく石灰硫黄合剤によるものが約1%を占めていました。その他の中には、単製剤や複合製剤を混ぜた農薬カクテルを飲んだ例が含まれるほか、薬剤名不明のものもあります。
 てんとう虫情報118号で指摘したように、毒劇指定のない農薬類が町の量販店や園芸店、インターネット販売などで、容易に手にはいることや不用農薬の回収が義務づけられていないことなどが、農薬による自殺等が絶えないことの背景にあると思われます。

   図 科学警察研究所資料による農薬別中毒者数−省略−

★農水省資料では、2001年度の中毒・死者数146人
 農水省の調査による農業用使用による中毒・死者数は、1996年以降47〜68人と年間50人前後でした。最近3年間は、表2のような推移にになっています。発生件数が年間13〜21件であるのに対し、被害人数は42〜146人、中でも、2001年度は146人と突出して多くなっているのは、12月に100人近くの被害者を出した鹿児島県加世田市でのクロルピクリン漏洩事故が加算されているせいでしょうか(参照:記事t12306)。
 死者については、自他殺を含まないせいで、前述の2つの統計に比べて、少ないのですが、それでも、01年、02年と2人づつでている点は、気懸かりです。

   表2 農水省による農業用使用による中毒件数と人数−省略−

   【農水省資料】99-03年度の事故状況(人の中毒事故、農作物・家畜被害、自動車・建築物被害)


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作成:2004-5-25、更新:2004-10-31