農薬の毒性・健康被害にもどる
t15401#農薬危害防止運動はじまる〜都道府県など実施主体へ緊急アンケート#04-06

 農水省と厚生労働省は、5月31日、医薬食品局長と消費安全局長の連名で、47都道府県、57保健所設置市長、23特別区長宛てに、「平成16年度農薬危害防止運動の実施について」の通知を送りました。運動の実施期間を「原則として、平成16年6月1日から同年6月30日までの1か月間とする。」としながら、通知を前日に行って、翌日から実施しろというのでは、都道府県等はまともに対応できないでしょう。
 農水省は、通知に先立つ前の週に、全国各紙に、政府広報として「 農薬は正しく使って農作物の安全を! 」 という広告を出しており、その中に『住宅地周辺でやむを得ず使用する場合は、事前に周辺の方々に知らせるとともに、農薬が飛散しないよう注意しましょう。』との一文もありました。しかし、これは目立ちにくい広報で、どれだけのひとを啓発することになったか疑問です。
 農薬危害防止を実効あるものにするために、広報は農薬使用者により強く訴える形で行い、通知は、都道府県等にさまざまな実施事項を指示していますから、もっと前以って周知させる必要があると思います。

★実施要綱はどうかわったか
 私たちは、てんとう虫情報153号に示したように、「農薬危害防止運動実施要綱」に新たに追加してもらいたい項目を、農水省に要望しました。その結果、昨年度の要綱に比べ、以下に述べるような点が、追加変更されました。
 まず、その趣旨に『最近では農薬の散布地域周辺の住民等への一層の配慮が強く求められているところである。』との一文が新たに追加されています。さらに、『2 農薬の適正使用等についての指導等 』と『4 環境への危害防止対策 』では、新たに赤字の個所が追加されています。
  ・(2)のウ 住宅地周辺等において農薬を使用するときは、農薬が飛散すること
   を防止するため、必要な措置を講じるとともに、事前通知の実施や散布時の立
   て看板の表示等周辺住民に対する配慮に努めること。

  ・(4)無人ヘリコプターを用いる農薬使用者等に対し、無人ヘリコプター利用
   技術指導指針(平成3年4月22日付け3農蚕第1974号農林水産省農蚕園芸
   局長通知)を遵守し、危被害の未然防止の徹底を図るよう指導する。 

  ・(5)農薬使用者等に対し、現地混用に関する注意事項等の情報提供に努める
   とともに、農薬の現地混用を行う場合には、当該注意事項の遵守等使用方法に係
   る指導の徹底を図る。

  ・(6)居住区域と近接した地域における農薬の散布作業に従事する者に対し、
   (2)のウの指導を実施するとともに、周辺住民等に対しても農薬に対する正し
   い理解が得られるよう、必要な情報提供等に努める。 

  ・(3)蜜蜂、蚕等有用生物及び野生生物に対する被害を防止するため、農薬使
   用者に対し農薬の適正な使用方法の遵守、農薬の適切な保管管理及び農薬の用途
   外使用の防止を徹底する。
★都道府県等への緊急アンケート調査
 農水省・厚生労働省の一片の通知に、運動を実施する地方自治体はどのような対応をしたのでしょうか。私たちは、6月1日付で、通知の宛先である都道府県(47)、保健所設置市(57)、特別区(23)の計127自治体に緊急アンケートをお願いし実態を調べました。
 前号で、総務省行政評価局が指摘したこの運動の問題点を掲載しましたが、それを踏まえ、さらに、農水省の通知が5月31日と運動月間の前日だったこともあり、非常に短い期間で回答を得るために4点の質問に絞りました。回答期限は6月10日です。質問は、

  (1)危害防止運動の広報について
  (2)重点項目を決めているか
  (3-1)都道府県の場合、市町村にどのように周知したか
  (3-2)市町村に独自の広報を求めたか、です。

 6月15日までに回答があったのは64自治体(50%)でした。この回答状況から見て、都道府県以外は、実施主体であることを十分理解していないのではないかと思われます。
 都道府県34(72%):青森、岩手、山形、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、東京、神奈川、山梨、静岡、新潟、石川、富山、福井、岐阜、三重、京都、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島  保健所設置市22(39%):岐阜市、高松市、福岡市、静岡市、小樽市、さいたま市、長崎市、川崎市、奈良市、仙台市、高槻市、名古屋市、広島市、堺市、船橋市、旭川市、熊本市、札幌市、東大阪市、金沢市、大阪市、川越市  特別区8(35%):江東区、杉並区、目黒区、台東区、足立区、渋谷区、北区、江戸川区  農水省の通知には、実施期間を「原則として6月1日から31日までとする」とありますが、北海道は7月中、福島、東京都、石川県は6月15日から1ヶ月間、また、神奈川県、鹿児島県は3ヶ月間を運動月間としていることがわかりました。

★広報は月並み
質問1は、どのような方法で広報をしたかです。

          都道府県   保健所設置市     特別区
 広報誌に掲載   13        4        1
 新聞に掲載     7        1        0
 チラシ配布    14        8        0
 ポスター     31        4        0
 インターネット  17        0        0
 その他      24       12        4
 広報していない                     1
 都道府県は、これらを組み合わせて、広報しているところがほとんどですが、チラシやポスターの配布先は農業団体が主で、一般の市民にはほとんど届いていません。また、広報がポスターのみという県もありましたが、これでは内容はわかりません。保健所設置市や特別区は広報をしていないところがありました。
 インターネットで広報したという回答も、挙げられたアドレスにアクセスすると病害虫防除所のホームページであったり、農薬使用についての一般的注意の頁であったりして、今回の危害防止運動に限った広報でないところが多々ありました。
都道府県の「その他」は、ラジオ、講習会などが主でした。保健所設置市の「その他」は、毒劇物販売業者への立入、リーフレットなどを農業団体を通じて広報するというのが主でした。東京都の特別区23区での「その他」は、毒物劇物販売業者への立入です。新聞、ラジオなどはいいアイデアだと思います。
 総じて、例年のスケジュール消化的なとらえ方ではないでしょうか。どうしても国民に知ってもらうという意気込みが感じられませんでした。中には農水省の通知が遅すぎると批判した県もありましたが同感です。少なくとも3か月前までに通知がなければ、市町村の広報に掲載するのは不可能だとのことです。

★重点項目はあるか、その内容は
          都道府県     保健所設置市    特別区
 ある        28        6        3
 ない         5       16        4(回答なし1) 
 昨年の総務省の行政評価では、重点項目がないということが、批判点としてあげられていました。回答のあった30の都道府県のうち26が重点項目を決めています。しかし、内容は、国の実施要綱を参考にして県の実施要領を定めているというのがほとんどです。つまり、総花的で、何が重点かよくわからないといえます。
 重点項目に、農薬の飛散防止をあげたのは、青森県、宮城県、埼玉県、石川県、香川県でした。青森、埼玉は住宅地等への飛散防止と明記しています。香川県は周辺住民へ被害が及ばないよう周知指導すると書かれています。 無人ヘリ対策をあげているのは、石川県、島根県です。
 保健所設置市や特別区は重点項目を決めてない方が多くなっています。都道府県が決めているからいいということでしょうか。しかし、参考資料として送られてきた中には、この期間だけではなく、住宅地での農薬散布に関する注意事項のチラシを作成している市や区もありました。

★市町村に対して通知を知らせない県はないが −省略−

★今後にむけて
 今回の緊急アンケートは、簡単な設問しかしませんしでしたし、回答をみても、具体的にどういうことをしているかについては、明確でありませんでした。
 この通知が出る前の5月下旬、群馬県でおこった、松枯れ対策の農薬散布による健康被害では、周辺住民へ散布の告知が行われていなかったことが明かになりました。
 また、農作物への適用外使用も、相変わらずおこっています。
 通知や広報だけでは、農薬による健康被害や環境汚染、不適切な使用をなくすことは、むずかしいと思います。根本的な解決には、わたしたちが以前から主張しているように、防除業者を含む農薬使用者の免許制度が必要です。現在、都道府県レベルで行われている、農薬管理指導士のような制度でなく、使用者個々に講習や研修を義務付けるべきではないでしょうか。

【都道府県のHP広報より】
  ・福島県  ・栃木県  ・埼玉県  ・東京都  ・静岡県
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作成:2004-6-27