環境汚染にもどる
t15607#神奈川県における農薬の水道水汚染#04-08
6月19日横浜市内で開催された水問題の集会で、神奈川県内広域水道企業団水質試験所の佐藤和男さんから、県内の水系農薬汚染調査についての報告がありました。今号では、その内容の一部を紹介します。
【採取場所と分析対象農薬】
調査は、2001年から2003年に行われ、水系試料は、相模川と酒匂川で、農薬が使用される5月〜8月に集中的に採取されたものです。
分析対象となった農薬数は、年度により異なり、2001年 81種、2002年 92種、2003年 104種で、3年間の分析で、検出された農薬は、河川水37、原水53、浄水23種でした。
表1 採取場所 −省略−
★河川水に37種の農薬が検出
検出された37種の農薬は、殺虫剤30.9%、殺菌剤12.8%、除草剤56.4%で、水田用が86.7%でした。分析に供した検体数は、農薬によって異なりますが、少ないもので15、多いもので153で、そのうち検出率が最も高かった農薬は、ベンタゾン78.3%、ついで、ダイムロン66.7%で、いずれも除草剤です。また、最高検出値が高かったのは、ベンタゾン3.50μg/L、チオベンカルブ2.50μg/L、ダイアジノン2.20μg/Lなどでした。
★浄水場の原水と浄水
浄水場の取水地点や着水井で採取された原水と、浄水処理後と末端給水地点で採取された浄水に検出された農薬についての調査結果を表2に示しました。
原水で検出された農薬の種類が53であったのに対し、浄水では23(うち19は原水と浄水共に検出)と少なく、また、検出率や検出値で、浄水の方が原水よりも低いケースが多くみられました。これは浄水処理により農薬成分の濃度が減少するためと考えられます。
しかし、BPMC、CAT、2,4−D、IBP、カルボフラン、フルトラニル、プレチラクロール、ブロモブチドのように、原水と浄水の汚染度に、それほど大きな違いのない農薬もみられました。また、浄水の方が原水より汚染度が高いものには、MEPの代謝物のMEPオキソン体、ダイアジノンの代謝物ダイアジノンオキソン体があり、塩素殺菌による酸化反応のためだと考えられます。
検出率が最も高い農薬は河川水と同じくベンタゾン68.4%、ついでダイムロン62.5%で、最大検出値が一番高いのはチオベンカルブ1.7μg/L、ついで、アセフェート1.6μg/Lでした。
表2 浄水場原水及び浄水中の農薬調査結果 −省略−
(a)原水と浄水ともに検出された農薬
(b)浄水又は原水のみに検出された農薬
★神奈川県内広域水道企業団では、原水の検出指標値の30%超えると活性炭投入
2004年4月からの水道法の改定で、農薬についての水質基準はなくなり、監視目標設定項目に総農薬方式(101種の農薬について分析を行い、検出された場合その農薬の検出値と評価値−ADIから算出された毒性に関する数値−の比をとり、総和である指標値が1未満である場合、対処方法をとることになる)が取り入れられています。
表の管理の項には、水質管理目標である総農薬方式が適用される農薬を@で、第三候補群の農薬(出荷量が50トン未満で、検出される恐れのないものとされている)をBで示し、評価値の項には、各農薬の評価値を、比率には、最大検出値と評価値の比率を記載しました。
この比率をみると、原水、浄水とも概ね0.1以下です。このことが、農薬を水質基準としなかった根拠になっているのですが、CNP(1996年に失効しているのに、1検体で検出)、MPP(代謝物のスルフォキサイドの方が検出率が高い)、ダイアジノン、ピペロホスでは、比率が0.1以上のケースがあり、水質基準を設定してもおかしくありません。
神奈川県内広域水道企業団の場合、原水について、この総農薬方式の適用前の2003年から総和である指標値が0.3以上になった場合に、活性炭を投入することにしています。ちなみに、7月3日に酒匂川河口の飯泉取水地点で原水検出指標値が0.35となり、活性炭を用いたそうです。ほかにも、検出指標値が0.1を超えた時が、2度ありました。
一方、ヨーロッパの水道水基準は、絶対濃度で設定され、農薬の種類に関係なく、単独農薬で0.1μg/L、総量で0.5μg/Lです。表では、農薬総量は不明ですが、少なくとも、単独農薬で0.1μg/Lを超える場合が、いくつもみられます。中でも、ベンタゾン、メフェナセット、ダイアジノンオキソン体、プレチラクロールは、10%以上の検出率で0.1μg/L以上の平均濃度で浄水に検出されており、このような水道水は、ヨーロッパでは飲料不適ということになるでしょう。
★今後の問題として
神奈川県内広域水道企業団は、この調査結果について、以下のようにコメントしています。
・農薬一斉散布直後及び散布後の降雨時には、原水の農薬監視を強化する。
・暫定対策として、一斉散布後1週間以内に強い降雨があった場合、農薬の流出を予期
して粉末活性炭注入を行う。
・今まで未規制項目については、県内出荷量の多い農薬を主に監視してきたが、出荷量
の多い農薬でも水系では検出されない等、農薬監視のあり方を見直す必要がある。
・環境中及び塩素処理過程で変化した農薬が検出されており、その毒性の評価と共に監
視も必要である。
・より的確な農薬リスクの管理を行うためには未測定農薬の測定方法等の検討が必要で
ある。
・水道水の水質管理において、原水リスク把握が重要であるが、農薬リスクを含め、ま
だ十分とは言いがたい。今後、PRTR等、多くの情報を利用して、より精度の高い
リスク管理を目指したい。
私たちの水道水の農薬基準についての考えは、てんとう虫情報138〜141号の連載記事で述べたとおりです。分析にあたって重要なのは、農薬散布情報を知ることですが、これを解決するには、農薬使用者に水源流域での農薬使用状況の報告を義務づけることが必要でしょう。
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作成:2005-01-24