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t15702#土壌・水系汚染については、登録保留基準値強化の具体案が#04-09

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 農薬の水系汚染については、来年4月から、「水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準」が強化され、魚類・甲殻類・藻類に対する急性影響濃度を登録保留基準値として、公共用水域の水中における予測濃度(PEC)が、これよりを上回る場合、登録保留の判断がなされることになっています。また、従来の水田農薬についてだけでなく、すべての農薬に基準が設定されることになっています。
 8月3日に開催された中央環境審議会土壌農薬部会農薬専門委員会では、「土壌残留に係る登録保留基準」及び「水質汚濁に係る登録保留基準」の強化をめざした改定案が検討され、8月16日から9月14日まで、意見公募が行われました(当グループの提出した意見は次号以降に掲載予定)。
 これは、諸外国における農薬規制の強化の動きや5月に発効した「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(=「POPs条約」)の主旨に沿うかたちで、環境中における農薬の残留性や生物濃縮性の観点から登録保留基準を見直そうというものです。以下、改定案の内容をみてみましょう。

★「土壌残留に係る登録保留基準」〜判断基準は半減期180日に
 改定農薬取締法では、土壌残留性農薬(農薬の土壌への残留により農作物等が汚染され、それが原因となって人畜に被害を生ずるおそれのある農薬)指定の条文は廃止され、農作物の残留基準による規制のみになりましたが、登録保留基準は存続しています。
検討された案では、
 @現行の土壌残留に係る登録保留基準における土壌中半減期の判定基準を現行の1年から180日にする。
 A現行の登録保留基準では、ほ場試験及び容器内試験の二つの試験結果を併用していたが、ほ場試験の結果のみに基づき土壌中半減期を算出する。  などとなっています。
実際の運用面では、後作物残留性試験を行なった結果、残留値が、今後決められる予定の一律基準等を超えなければ、人の健康を損なうおそれがないということになります。  ほ場試験に一本化する場合、土壌の性質・成分、土壌中の生態系・微生物相、天候、散布むらなどの条件をどう評価するかが問題となるでしょうし、代謝分解物の残留もきちんと評価されねばなりません。土壌殺菌し、生き物のいなくなった土の中では、農薬の分解が遅れるかも知れません。さらに、生態系保護の視点からいえば、ミミズや土中の昆虫・微生物への影響も評価する必要があるのではないでしょうか。

★「水質汚濁に係る登録保留基準」〜魚での濃縮率も考慮
 この基準のある農薬は本年6月現在133種あります。いままでは、運用面において、農薬の飲料水経由による人畜への直接的影響しか考慮されてきませんでしたが、国際的に生物濃縮性が重視されるようになってきたため、農薬を生物濃縮した魚介類を摂取することによる人畜への影響も考慮されることになりました。
 検討案では、
 @現行の基準の、水田の水中における農薬の150日間平均濃度を、公共用水域の水中における濃度に変更する。
 A登録保留基準が公共用水域の水中における予測濃度(PEC)を上回る場合に登録は保留される。この際、上述の「水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準」で採用されているPEC(短期暴露)の算出法を参考にしつつ長期曝露を考慮して算定する。
 B現行は水田使用農薬についてのみ対象となっているが、非水田用農薬も規制対象とする。
 C生物濃縮係数が5000を超える場合、魚類体内の農薬からの曝露量の評価に組み入れて、基準値にを定める。
 などとなっています。

 生物濃縮性に関する現行のガイドラインでは、農薬登録に際しては、1−オクタノール/水分配係数*に関する試験成績しか求められませんが、改定案では、この係数が3.5以上の場合は、魚による生物濃縮性に関する試験を義務づけられます。先に、化審法の試験で、生物濃縮係数が5000を超えた殺虫剤ケルセンが登録失効したのも(てんとう虫情報151、152号参照)、この流れに沿うものでしょう。
    *:1-オクタノール/水分配係数(logPow)
      油分として1−オクタノールというアルコールを選び、農薬をその中に
      溶解させた後、水に加えると二相に分離する。それぞれの相に溶けてい
      る農薬の濃度を測定し、その濃度比の対数が分配係数であり、魚体内に
      おける農薬の濃縮程度を判定する指標となる。水に溶け難く、1−オク
      タノールに溶け易い農薬の方がこの係数が大きくなり、魚に蓄積しやす
      い。logPow=3.5は、油中濃度の方が水中濃度の約3200倍大きいことを
      意味する。
 ところで、基準となる濃度は、ADI(一日摂許容取量)の飲料水による取り分10%に魚介類の取り分5%を加えた数値、すなはち ADI×0.15×53.3kg(平均体重)を、下記のような式で算出した摂取量で割ったもの(単位:mg/L)になります。
 水・魚介類からの摂取量は、1日当たり飲水量(2L)+((内水面漁業・養殖業由来の魚介類摂取量(0.002kg)+海域における希釈倍率(1/4)×海面漁業・養殖業由来の魚介類摂取量(0.048k g ))×生物濃縮係数 で算出されます。

 淡水魚で一日平均2g以上、海水魚で一日平均48g以上食べる魚好きの人は、このような机上の計算で、果たして基準をクリアできるでしょうか。濃縮係数は魚介類の種類や食べる部位によって結構異なるものですし、単純に淡水魚と海水魚にわけるだけでいいのかとの疑問も生じます。

 また、予測濃度(PEC)は、さまざまな仮定のもとに表面流出量、河川へのドリフト量、排水路へのドリフト量(水田のみ)に分けて、水中へ移行する農薬量を推定し、算出されることになりますが、剤型や散布方法、適用作物により異なる上、自然条件の影響も大きく受けるため、より安全な数値を採用することが肝要です。

★まだまだ、課題が残る
 環境省がまとめた資料によると、いままでに分析された55種の農薬のうち、水質や魚介類に検出されたことのある農薬は以下の20種です(*は水質と魚介類に検出、#は魚のみに検出、他は水質のみに検出)。
 CAT(シマジン)、IBP*、NAC、イソプロチオラン*、シメトリン、
 ペルメトリン#、ベンタゾン、マラソン、モリネート、2,4−PA、アトラジン、
 アラクロール、ケルセン*、ジネブ、ジラム、トリフルラリン*、ベノミル*、
 マンゼブ、マンネブ、メソミル

 環境省の試算では、生物濃縮係数5000の農薬の濃度基準は現行の24分の1、10000のものは47分の1となるそうです。基準設定の対象外である濃縮係数1000でも現行の5分の1になりますが、これは、改定されないことになっています。
 水及び魚介類に残留する農薬量が季節変化することの評価、生物濃縮係数が5000以下の場合の評価、界面活性剤が共存する場合の生物濃縮係数への影響評価などの課題を残したままの改定案であり、現在登録のある農薬について、どの程度規制が強化されるかかさだかでありません。

 水田除草剤CNP(商品名:MO)は、当初、魚毒性が低く、分解性が良いと宣伝され、使用拡大につながりましたが、水道水を汚染し、魚介類に1000倍以上も生物濃縮され、代謝物のアミノ体や不純物のダイオキシン類が水田土壌中に長期にわたり残留することが判明した上、胆嚢ガンの危険因子であるとして、登録失効しました。この教訓が生かされ、人や環境に悪影響を及ぼさないよう登録保留基準の実効ある強化が望まれます。場合によっては、魚介類の農薬残留基準の設定も視野にいれる必要があるでしょう。
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作成:2005-02-24