環境汚染にもどる
t15803#樹幹注入剤「オルトランカプセル」の問題点#04-10
 今年の夏、街中のサクラ並木を歩くと、幹の周囲ほぼ10cm間隔で、ヤニが固まってかさぶたのように付着しているのが気になって仕方がありませんでした。これは、樹幹注入型の殺虫剤が使用された跡と考えられます。
 03年9月、農水省は「住宅地等における農薬使用について」という消費・安全局長通知をだしましたが、この中で、「農薬の使用に際しては、誘殺、塗布、樹幹注入等散布以外の方法を検討し、やむを得ず散布する場合であっても、最小限の区域における農薬散布に留めること。」との指導がなされおり、樹幹注入剤が、散布にかわるものとして推奨されています。
 よく使われるのは「オルトランカプセル」(登録番号19978号)で、サクラのアメリカシロヒトリやモンクロシャチホコに適用があり、「薬剤散布による周囲への飛散の心配もなく、住宅地、街路樹等でも安心して使用できます」と宣伝文句で、専門業者向けに販売されています。
 有機リン剤アセフェート約0.6gを含むカプセルを入れたプラスチック製のカートリッジをサクラの幹にドリルを使って10cm間隔で開けた約1cmの穴に打ち込みます。やがて、カプセルが溶け、中のアセフェートが導管を通じて幹から枝葉に広がっていくという寸法です。いったいどのような試験が実施されて登録されたのか、メーカーの住化タケダ園芸株式会社に、いくつかの点を質してみました。その回答(省略)は、以下の通りです。

 回答を読んでお分かりと思いますが、樹幹注入剤の致死効果は、アセフェートが浸透した葉を食べた幼虫に現われます。その効き目は注入後、約10日間で、幼虫の姿を見てから打ち込んでも手遅れですから、虫の発生の有無に拘らず、予防的に処理することになります。サクラにアメシロやモンクロが発生するのは、すべての木でなく、しかも、枝葉の一部であることが多いので、注入した薬剤が無駄打ちになるケースも多いことでしょう。秋の第2世代の発生では、木が枯れることはなく、結局、ケムシがいや、糞がいやという人の都合で、毎年、幹にドリルで、10(樹径約32cmの場合)から20(同約64cm)個の穴を開けられるサクラのうめき声が聞えそうです。
 老木や樹勢の弱い木に打ち込んだ場合の影響についてのデータもありません。散布に比べ、周辺への飛散が少ないというものの、大気中濃度に関するデータがないというのも驚きです。
 農水省には、このような試験データもない樹幹注入剤を推奨する根拠を聞きたいものです。

   【関連資料】住友化学園芸鰍フホームページオルトランカプセル

    ====== 住化タケダ園芸鰍ヨの質問と回答 ======
【1】オルトランカプセルについて
 【質問1-1】アメリカシロヒトリ、モンクロシャチホコについて、ふ化前に使用しない
    と効果がないとありますが、当該剤の殺虫効果は、それぞれどの成長段階に作用す
    るのですか。
   アメリカシロヒトリ、モンクロシャチホコの幼虫が葉を食べることにより、殺虫効
    果が現れるのでしょうか。
   卵、成虫への効果はありませんか。あるとすればどのようなものですか。
 【回答】発生直前処理は、幼虫時期が防除適齢であることから使用時期としています。
    産卵の状況などを見て孵化前に処理します。幼虫が薬剤の浸透した葉を食べること
    で作用します。卵、成虫には効果ありません。
 
 【質問1-2】アメリカシロヒトリ、モンクロシャチホコの幼虫が葉を食べる場合、どの
    程度のアセフェートの残留濃度で、致死しますか。
 【回答】直接的なデータはありません。実圃場試験により使用薬量を設定しておりま
    す。

 【質問1-3】使用時期は 発生期直前とありますが、具体的には、アメリカシロヒトリ、
    モンクロシャチホコに対して、殺虫効果がある期間は打ち込み後何日から何日まで
    ですか。
 【回答】一般的に施用後10日前後(樹勢による)までが効果の持続期間です。アメリ
    カシロヒトリ、モンクロシャチホコとも同様です。なお、樹種、樹高などにより多
    少変動します。

 【質問1-4】使用個数を10cm間隔とされていますがその理由は?
   使用個数が多すぎた場合はどうなりますか。
 【回答】10cm間隔で試験し効果が確認され、かつ薬害が無いことにより登録を取得
    しています。登録を受けた使用基準にしたがい使用することが原則ですので、多す
    ぎた場合の知見はございません。

 【質問1-5】癒合剤等の塗布とありますが、癒合剤にはどのようなもの使われ、どのよ
    うな効果がありますか。
 【回答】樹脂を樹の傷口に固着させ、ヤニの減少ならびに傷口の保護を目的として使
    用する市販されている物理的資材です。

 【質問1-6】穴が深すぎたり、浅過ぎた場合、どうなりますか。サクラへの影響と殺虫
    剤の漏洩にわけて、実験データをお示しください。
 【回答】適正な使用方法を前提に登録を取得していますので、登録に従い適切に施工
    するよう施工者に徹底しております。

 【質問1-7】施用を避けるべき樹として挙げられている、樹勢の弱った木、悪条件下に
    植栽された木、極端な老木とは、具体的にはどのようなものですか。
   このような樹に使用した場合、どうなりますか。実験データをお示しください。
 【回答】樹勢が弱い木、悪条件下に植栽された木あるいは極端な老木等とは。一般通
    念に基づいております。実際においては、その施工又は施工者と施主で判断して頂
    き、害虫防除を優先される方に使用していただいております。

 【質問1-8】カプセル及びカートリッジに使用されている素材はどんなものですか。
   打ち込み後、これらの素材は樹の中でどのようになりますか。これら素材が樹の中
    に残留した場合、サクラの樹勢や成長にどのような影響を与えますか。調査データ
   をお示しください。
 【回答】カプセルの素材は水溶性樹脂、カートリッジはポリエチレンです。打ち込み
    後、カートリッジはそのまま樹の中に残ります。現時点までの使用実績では素材が
    残留したことに起因する悪影響の報告はありません。

 【質問1-9】使用回数が2回以下となっていますが、年に2回までならサクラに薬害が
    ないということですか。
   年間施用回数・打ち込み本数をかえた場合、サクラの樹勢や成長等にどのような影
    響がでますか。実験データをお示しください。
 【回答】一般にアメリカシロヒトリの発生時期(産卵時期)が年2回の為です。2回
    までなら薬害が無いことが確認されております。

 【質問1-10】穴からヤニが流出することがあるので注意するとありますが、ヤニが出
    るケースはどの程度ありますか。
   ヤニがでると不都合な点がありますか。それは、どのようなことですか。
   ヤニがでないようにする必要がありますか。そのためにどのような措置をするので
   すか。
 【回答】ヤニがでる頻度については、個体差もあり、数値的に計測はしておりません。
   ヤニがでると不都合な点は、一般に知られているいるように接触した場合のヤニに
    よる衣服の汚れと美観の問題です。ヤニが出たとしても、いずれ固まりますが、必
    要であれば癒合剤等の塗布をお願いします。

【2】打ちこみ後のアセフェートの挙動と環境への影響について

 【質問2-1】サクラの幹、枝、葉内においてアセフェート及びその代謝物・分解物はど
    のような化合物として存在しますか。

 【質問2-2】どの程度の日数でサクラの幹・枝・葉にどのように浸透していきますか。
   カプセルからアセフェートのすべてが樹に浸透するのにどの程度かかりますか。
   樹木の各部位への浸透状況を、アセフェート・代謝物・分解物濃度の経日変化でお
    示しください。

 【質問2-3】サクラの幹・枝・葉からアセフェート及び代謝物、分解物の環境中への漏
    れはどの程度ですか。以下の点について実験データをお示しください。
  ・サクラへのアセフェートの浸透量と率、
  ・打ち込み穴からの漏れ量とその比率(癒合剤等を使用しない場合、使用した場合
      は癒合剤の種類毎に)
  ・穴からのアセフェートの蒸発による漏れ量と率
  ・樹液やヤニ流出に伴う穴からの漏れ量と率
  ・浸透したアセフェートやその代謝物・分解物のサクラの幹・枝・葉からの放散は
      それぞれどの程度ですか。

 【質問2-4】打ち込み後のサクラ周辺のアセフェート及びその代謝物・分解物の大気中
    濃度の経日変化のデータをお示しください。
  ・サクラの圃場条件(種類、樹高、樹径、樹齢、総本数と単位面積当りの本数)
  ・殺虫剤打ち込み条件(樹木毎の個数、総個数)等
   の実験条件を詳細に示した上で、お願いします。

 【質問2-5】打ち込み処理したサクラにおいて、雨水により薬剤が流出した場合の周辺
    土壌へのアセフェートやその代謝物・分解物汚染はどの程度ですか。調査データを
    お示しください。

 【質問2-6】打ち込み処理したサクラにおけるアセフェート及びその代謝物・分解物の
    クモ、その他の昆虫及び野鳥への影響はどんなものですか。調査データをお示し下
    さい。

 【質問2-7】打ち込み処理したサクラの落ち葉及び枝・樹皮等におけるアセフェート及
    びその代謝物・分解物の残留はどの程度ですか。調査データをお示し下さい。

 【回答】以上お問合わせの様なサクラ並びに樹木類に関するデータ等は取得しており
    ません。樹幹打ち込み処理は、散布に比べ飛散がはるかに少ないことは明白であり
    ます。
   樹幹打ち込み処理は、飛散が少ないということから、街路樹等の処理法として適し
    ているものと考えられます。この方法は農水省による通知「住宅地等における農薬
    使用について」(平成15年9月16日 15農安第1714号)に基づき選択する農薬散布
    以外の方法として、使用可能です。
  また、実際の施工において、初めて使用する場合には、弊社担当者あるいは、弊社の
   技術講習を受けた者が立会い、指導を行っており、今後とも継続指導してまいります。

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作成:2005-03-24